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大晦日2 

本来なら3時ごろまでに蓮司会長が帰ってくるはずだったらしい。

株式会社大原で、どうしても顔を出さない事態が起こり、帰宅が遅くなると真田に連絡があった。

夕食時間の6時にも現れなかった。真田さんと伊勢崎さんはこの館の住み込みなので一緒に大晦日のご飯を頂く。豪華な会席料理の食事で舌鼓を打ちながら、至福時間を味わった。

「会長も大晦日まで大変ですねー」

っとぽろっと言葉をこぼしたら、真田さんが、

「あ、でも会長・・・楽しみなことが家にあるので、用事が終わったらすぐ帰ってきますよ」

 と言った。なにが会長の楽しみなのかと真田さんに聞こうかと思っていたが、目に付いた携帯電話の時間が、もうすでに紅白の時間が差し迫ってきていた。

「さ、真田さん!!!テレビ見たいです」

「はい。ではご案内いたします。蓮司様が特別にこちらを使用して良いと許可をくださいましたので」


美代は初めて別館に足を踏み込む。こちらは、近年改装工事が行われた棟で、明治時代に建てられた洋館の外壁とは正反対に、内装は最新のモダンなデザインの部屋が連なっていた。


通された部屋見て、美代は思わず声を上げる。

「わぁーーーー、広いし、綺麗!!」

ドアを開けてなかに通された部屋は、真っ白な基調の漆喰の壁に、無垢の素材の大きな木柱の何本かがその大リビングルームの天井に走っていた。家具も全て白を基調としたナチュラルな色に統一されていて、このドアの外側の豪華絢爛な内装と全く違った趣だった。


アメリカの大邸宅にあるような白いL字ソファーが、絶対60インチ以上はあるだろう巨大薄型テレビの前に備わっていた。

よくみると、この部屋の端には対面式のキッチンまで用意されていた。


「真田さん・・いいんですか?ここでわたしテレビを見て?」

なんだか誰かのプライベート空間に入ってしまったかのような錯覚を起こす。それでも、部屋はまるで美代が来ることを知っていたかのように、ゲストのためにチリ一つなく綺麗に掃除されていた。


「まったく構いません。蓮司会長が使っていいとおっしゃっていましたので・・・ただ・・」

「え? ただ、なに? 真田さん。さっきから、ちょっと変ですよ。」

「いえ、なんでもありません。どうぞゆっくり鑑賞ください。簡単なものならこちらの備え付けのなかに入っています。あ、あと夜の年越しそばですが、11時ごろでよろしいですか?」

「はい、ダイニングに行けばいいですか?」

「いえ、こちらでおまちください」

「そんな大丈夫ですか?」

「いえ、楽しみにしていてくださいね」

「はい!!」

「でも、なにかありましたら、どうぞわたしにいつでもご連絡ください。わたしは私室にいますので・・・」

「わかりました。大丈夫です」


一人で紅白をみて盛り上がった。まだ仕事をしている蓮司会長を思って、すこし胸が痛くなる。ごめんなさい。かなりもうわたし、休日体制に入っています。


会長からもらった?というより龍騎くんから奪い取ったお父さんの時計はちょっと大きいけど、美代の手首にある。その時計を美代は手でやさしく撫でた。

??会長って変。あんまり話さなかったけど、意外といい人。こんな時計わざわざ見つけてくれるなんて・・・


この前のクリスマスパーティーで酔った勢いですこし話をした覚えがある。

あんな美形の御曹司なんて、本当同じ人間とは思えなくて緊張のしまくりだったけど、こうやって部下のことを考えてくれていたなんて・・・ちょっと実は見直しちゃった。胸が再びジンとする。


しかもあの甘いマスクとタッパだ。あの男には全ての女が惚れ込んでしまうような恐ろしいフェロモンが常備されているのだ。まあ、地味女のわたしとしてはそんな輩にさえ入れないと自分に言い聞かせる。まあこの間抜けなお仕事、忘れ物お届け係が実はちょうどいいのかもしれないっと最近思っていた。


お酒はしばらく控えめにしようと思い、冷蔵庫をあけて何か飲み物をさがしたら、もうたくさんのジュースやらお茶やらつまみものがいっぱい入っている。しかもどれも女性好みのものばかりだ。


??ええ、ちょっとまて。これってもしや・・・・・

周りを確かめる。アロマポットやらキャンドルなども置いてある。

気のせいだよね?


なんだか背筋に悪寒が走る。

お手洗いに行く。そこはただのお手洗いではなかった。所謂、洋式のバスルーム。シャワーとお風呂とお手洗いが一式その部屋に整っている。

??ああ、この大空間。日本人にはなんか落ち着かないよね・・・


ふと、用をすまし、手を拭こうとしてハンガーにかかっているタオルに目をやる。


「え?」


なぜだかそのハンガーの横の壁には、洗い立てのバスローブがかかっていた。しかも二つだ。


よくみると、歯ブラシも二つ。全部二つ以上置いてある。


考えてみよう。ここはホテルではない。しかもゲスト用ってわけでもない。なぜなら別館はほとんど使用人が入れないプライベートな空間だからだ。だから、真田の私用の部屋もこの別館の通用路の入り口にある。


どういうこと??


ここって蓮司会長がその彼女を連れ込みイチャイチャするための部屋なのだろうか???


あの破廉恥王子!! 


こんな部屋にわたしを招き入れるなんて!!!!

人を馬鹿にしているにもほどがある!!!

こんな部屋にいる自体、ものすごい気持ち悪い。


自分がそういう対象ではないのは十分わかっている。でも、この胸のむかつきを美代は抑えることができなかった。

美代はまだ11時前なのだか、部屋を出た。真田に電話する。

「は、はい!!美代様。大丈夫ですか?ちょうど出来立てのそばができましたよ!!!」

「さ、真田さん・・・・・ごめんなさい。なんだか調子が悪くて・・・今部屋に戻ってきました。」

「だ!だいじょうぶですか!!!美代様」

「ちょっともう寝ます。あしたのお正月のお祝いは出ますから、ごめんなさい」

「・・・・わかりました。いつでも電話ください。この館は大きいので電話の方が連絡とりやすいですので・・・あと、まだ蓮司会長はおかえりではありませんので、美代様のことは伝えておきます」

「あ、ありがとうございます」



美代は自分の胸のなかに存在し始めた不可解な感情を持て余していた。そして、布団のなかに潜り込み、次の新年にむけて新しい誓いを密かに立てていた。


深夜になりここの主人が帰宅する。もう12時は過ぎていた。

黒のスーツを着込んでいる真田が玄関まで出迎える。

「おかえりなさいませ。蓮司様」

帰宅したばかりの蓮司は、その疲れた体であるのに、足を止めない。歩きながら真田に問う。

「美代はいるのか?別館のリビングに通したんだよな?」

その別館がある方へどんどんと蓮司は歩き始めた。しかも歩きながら、スーツやネクタイなど、どんどん脱いでいく。

「い、いえ!!蓮司様。美代様は別館にはいらっしゃいません・・」

急に蓮司の足取りが止まる。鬼の形相の蓮司が真田を睨む。

「ど、どういうことだ! 美代はここにいないのか?」

「いらっしゃいます。ただ、最初はあの別館でテレビをご覧になっていたようですが、なにか急に具合が悪くなられたようで、いまは寝室でお休みになられています」

「ぐ、具合が悪い? 医者を呼べ、医者を!!」

「それが、美代様が大丈夫だとおっしゃってですね。お部屋からお出になりません」

「俺が部屋にいく・・・」

「れ、蓮司様!!!もう夜中をすぎております」

そんな真田の言葉をまったく無視をして蓮司は今度は本館にあるゲスト用の部屋、美代がいる部屋に直行した。


ドアにはあの真田のお札が貼ってある。

「おい、真田。これはお前の差し金か?」

「・・・・・・申し訳ありません。どうぞ、ご配慮お願い申し上げます」

蓮司はそんな真田をも顧みず、ドアに手をかける。


ガチャガチャッ。


ちっと蓮司が舌打ちした。鍵がかかっていたのだ。

真田がまた危機を感じた。これでは!!!あの時と同じだ。美代が熱で倒れた時、心配を通り越して猛獣化した我が御曹司が、体当たりをしてドアをぶち破ったのだ。

このドアはあの安普請のドアよりはかなり頑丈に出来ているが、この恋愛に溺れた猛獣なら壊さないとは限らない。


「マ、マスターキーを持って来ましょうか?」

「・・・・・そうだな」

そんな時、ドアの内側から声がする。


「誰?」


「み、美代か????」


「美代様! 大丈夫ですか? 申し訳ありません。蓮司さまがいまご帰宅されて、具合が悪い美代さまを心配されております。」

「あ、ごめんなさい。ご心配かけて・・・・」

「ドアを開けてくれないか?」

「れ、蓮司会長・・・ごめんなさい。いまちょっともう眠たいです」

「・・・・一目、お前の顔が見たいんだ。それだけでもだめか?」

ドア越しで蓮司が自分の頭をドアにつけながら懇願する。


「・・・・・・だめです。そんなこと・・・」

「美代・・・お願いだ・・・・一目だけお前が無事だか見せてくれ。」

「・・・会長。そんな美代だなんて馴れ馴れしくよばないでください。土屋かお前で結構です。あとそのような甘い言葉は、会長が連れ込む女に言ってください。気持ち悪いです。おやすみなさい。」


「!!!!!!!!!」

絶句しながら、顔をしかめた蓮司が拳に力をいれた。


ドアを思いっきり叩こうとした蓮司の腕を渾身の力を込めて真田が捕まえる。


「だめです。蓮司会長・・・」

「・・・・・だって、おまえ!!!!」

「たとえ、蓮司会長がわたしを解雇しようとも、わたしはお二人のことを思いまして、このドアを美代さまのために死守いたします」


「なんて大晦日だ!!糞食らえだ!」

「申し訳ございません・・」


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