クリスマスパーティーのその後
<入れ忘れていたクリパの後半でした。すみません。申し訳ありません。>
その後、みんなで乾杯をする。
がやがやとカラオケや爆笑騒ぎが起きている会場を見回し、美代は今までの人生で経験のないクリスマスパーティーの喧騒を楽しんでいた。
SPの連中がどっちが強靭な四の字固めができるかと張り合っている。
見ているだけで痛そうだが、なんだか楽しそうでもある。
羽目を外している輩を見ながら、ちょっとアルコールでも飲んでみようとかなと思い、ノンアルではない普通のアルコール入りのカクテルを手にする。
横から大きな塊が入り込む。
「お前はお酒飲めるのか?」
「ほえっ? 蓮司会長・・・え、まあちょっと試してみようかなと思いまして・・・」
「わかった。飲んでみろ。俺が見ててやる。でも急に飲み過ぎるな。」
「えええ、そんな会長自らが監視ですか?? 滅相な!!! 大丈夫ですよ。」
素敵なグラスを手に取り、一口飲んでみる。
お、美味しい。なにこのフルーティーな味。会長もじっと飲み続けている美代を見続けている。
「ゆっくり飲むんだ。そうじゃないと体がどう反応するかわからないからな。」
その子供扱いの発言に、むっ!!とするが、美代は隣にそびえる大きな美形の上司を無視しながらちょびちょびと飲み始めた。
しばらく、無言で立っていた二人だが、なぜかちょびちょびとお酒を飲む美代を見て蓮司は声を漏らす。
「・・・子リスだな。」
もちろん、そんな言葉はまったく美代には届かずにいた。会長自身も美代の隣にずっといれるわけではなく、誰かに呼ばれたようで美代の隣から席をはずした。
「おい、すぐに帰ってくるから飲み過ぎるなよ。」
何様なんだろう! 飲むぐらい私の勝手ではないかっと憤慨する。
あの会長の目をくぐり抜け、ちょっとどんどん飲んでしまった。気分もほんわかしてしまいふわふわ気分だ。
「おい、そんな早く飲むなよ。」
いないと思っていたお代官様がすぐに御帰りになったようだ。
「お早いお帰りで・・・」
「だからお前はもう出来上がっているではないか? だれだ!こんなに飲ませたのは!俺がたった15分程度いなかっただけじゃないか?」
「一応、20歳過ぎていますから!!」
蓮司が目をちょっと見開いた。
「ああそうだったな。子リスは20過ぎていたな。」
「子、子リス?? ちょー子供扱いですね。お忘れ物が多い方がよくおっしゃいますね。」
体の中に程良く入ったお酒が自分を大胆にさせていく。
「じゃーお前を大人扱いしていいのか?」
「なぁあああ? なんですかその上目目線!! すみませんが言わせていただきますが、いくら会長とはいえ、そんな言い方!!!」
美代は心で、忘れん坊大魔王、ボケボケ王子とか言い続ける。
あれ、なんだか体も軽いし。ていうかこんな口の聞き方していいのか?私・・・
酔いがまわっている美代は自分の変化に気がつかない。
「おい、お前、全然だめじゃないか!!」
「え、なに言っているんですか? この忘れん坊様は・・・」
ばっしーーんっと美代はその大きな背中を叩く。
「わ、わすれんぼうさま???? いや、会長と呼ばれるよりはいいかもな・・」
酔っ払いの美代の思考はいろんなところに飛んだ。そして、いきなりさっきまでの元気さがなくなる。
「どうした。大丈夫か?」
「あ、、会長。ごめんさない。悪口いっぱい言っちゃって。いまなら謝れる気分です。」
「・・・・なにについてだ・・・」
「あの、あの、あの、ペンから聞こえるって聞いたんで・・・」
「ああ、あれか・・気にするな。お前の小言が聞こえて面白い。」
「・・・・・・・ひえええええ・・・ごめんなさいぃ~~~~ひっく・・・」
美代はきゅうに泣きながら、会長に謝り続けた。
じっとまつ毛が長い切れ長の瞳が美代を捉える。
「お前はいつも俺をざわつかせるな・・・・」
あれ、なんでこんなに会長の顔が近いの???
「あ、会長・・・・・」
頬を上気させた美代がじっと蓮司を見つめる。その視線の先にいる切れ長の目をした男はごくっと生唾を飲み込んだ。
「よせ。その目線、みんながいるし、おれも困る。」
「困る??? あの困っているのは私です!!!会長!」
「え?? お前も困るのか?? それは・・・もしかして・・」
「その、あの、本当に困るんです。」
「ああ、おれも相当イかれているし、困っているよ。」
・・・ああ、この子リスの唇がいい具合に潤っておいしそうだ。
「お前が困っていることってなんだ・・・・」
「・・・・・あの!! 絶対に、怒らないでください。あの休日手当て!!不当に高いと思うんですけど・・後で返金とか言われないかなと・・・実は日夜心配していて・・・その困っているんです。」
蓮司は自分の体の中の熱情が一気に0度以下まで下がったように感じた。
「・・・・・大丈夫だ。あとで請求されることはない。」
「ほ、ほんとうですか?? はぁ~~~~よかった。」
あれ、なんか安心したら体がふわふわする。よかった。ああー。あの休日手当て目当てで実は・・・ちょっと無駄使いしちゃったんです~~~~。今日はなんだか富士山よりも高い距離にいるような会長が身近に感じる。
「蓮司会長って、#呆__ぼ__#けているのか優秀なのか、優しいのかわかんないですね・・」
「そうか・・・」
「ええ、あんな時計、どうやって・・・・本当に・・・」
「・・あれか・・まあ 俺の気持ちだ。受け取ってくれてよかった。」
「ああ、蓮司会長は部下思いですね~~。」
「ああ、部下って言葉はいらないかもな。」
「あんっ?」
美代の顔はお酒のせいでトロッとしていた。それに吸い付かれたように御曹司がもっと近寄る。美代の腰を後ろから大きな手がすっと支えた。向かい合いながら見つめう二人。
「美代・・・・おれは・・・・」
3秒間の沈黙。
開かれていた可愛らしい子リスのクリクリとした目が、だんだんと閉じていく。
蓮司は、『ええ? これは?? GOサイン? クリスマスミラクルか?』と心で思って、彼女の顎に自分の指を添える。
「美代・・・・・・」
支えていたはずの手に美代の体重がのっかかる。
すでにこの時点で、かなりの男たちがカラオケマシーンの前でぶっ倒れている。拓もその男たちの肢体の山に埋もれているようだ。子連れの松田もすでに家路についていた。丸山女子はとっくに9時を過ぎていた時点で、『見たいテレビがありますので・・・』とかいって消え去っていた。だから、だれも蓮司と美代に起こっていることに気にしているものはいなかった。。もちろん、真田を除いて・・・・
ぐうぅぅぅーーーーー。
絶句しながら、蓮司は寝落ちしている美代を見下ろす。
「・・・おい、まさか立ったまま寝落ちって・・・すごいな、ある意味。こいつはしばらく酒を飲ますのは禁止だな。」
蓮司は軽々とぐーぐーと寝る美代を抱きかかえ真田を呼ぶ。真田は会場の隅から美代たちを見守っていたのだが、急いでやってきた。
「美代様!!! なんと!!」
「真田。これは役得っていうやつか? このまま・・・」
「会長!!!」
「クリスマスだし」
「修羅場を見るクリスマスの朝がいいんですか? 会長は!!しかも、クリスマスの意味が全然違いますよ!!」
ひひぃぃぃ。
真田は思わず血の気が引く。
なぜなら、思いっきり真田の言葉に対しての蓮司の答えが、その美形の顔にありありと現れていたからだ。
悪魔のような笑みを浮かべる上司が怖いと、真田は思う。
「ああ、そんなたいしたことない修羅場なら、一向にかまわん。さぞ楽しいだろうな。この子リスを腕に抱きしめて迎える朝だなんて・・・抱き続けられるなら・・・少しくらいは・・・・」
「蓮司様!!!!」
真田はなぜか『悪霊退散!!煩悩退散!!!』と言ってポケットの中から何か写真らしきものを出して、裏面テープが貼ってあったのか、それを蓮司の額にバシっとくっつけた。
「な!!なに!!」
慌てている蓮司から、がっと美代を奪う。
もちろん、蓮司は美代を取り戻そうと躍起になるが、その額についた写真を見て蓮司が固まっている。
真田は振り返らずに美代を抱きながら、全速力で会場から走り出し、玄関先にいる伊勢崎さんの車の後部座席に美代を下ろす。
「よろしく頼みます!!!美代様を!!!」
「わかりました。きちんとお届けします。」
まだ会場では持っている写真を凝視しながら固まっている蓮司がいた。
その写真には、あのパンツお届けの時の恥ずかしさに頬を染める美代のアップがあった。
『か、かわいすぎる!!!』と唸りながらその写真を見つめ、ちょっと最近残念な方向に向かいつつある超イケメンハイスペックな御曹司が悶絶していた。
*****
翌朝に、おなじみのぼろアパートプラスゴージャス系ドアの部屋で、自分の布団の中から、がばっと起きた美代はクリスマスパーティーの後半の記憶がまったく飛んでいることに驚く。
うわ!! どうしよう。楽しかったけど、後半記憶ないよ!!!
ああ、クリパって怖いね!!
もちろん、この後すぐに真田に電話をして、事の成り行き(まあほとんど蓮司に関しては省略)を聞き、伊勢崎さんにも謝りの電話をかけた美代でした。
美代さん。違います。貴方、完全に酒乱系です。お酒に気をつけましょう。




