乙女に鼻毛って言葉はきついです。
予想していなかった主人の登場にみな慌てる。
「悪い、脅かして。皆、続けてくれ・・・・」
いつもなら考えられないくらいの丁重な態度の主人だが、ちょっとお酒がはいっている精鋭たちの男はなにやら構わない感じだ。
「「「「「ありがとうござーーーすっ」」」」」
男性軍が威勢良く会長に答えた。
真田が顔を青くさせながら、蓮司に近づく。
「あれ・・・会長。経済連会長との会合は??」
「真田、なんだ。もう一回言ってみろ。」
「経団連の・・」
「なんだ!!!」
あまりにもの睨みに声が引っ込んだ。
「いえ、なんでもありません!!!!」
「俺も参加したい・・・」
「え? 蓮司会長も参加されるんですか? 一応2000円以下のものですよ? いきなり豪華商品ださないでくださいね。みんながバトルになってしまいます。」
「ああ、値段は大丈夫だ・・・」
みんなが見守る中、そのプレゼントの山の中に会長のシンプルな小さい箱のプレゼントが置かれた。おおおっと、どよめきが起こる。
次に券の番が来たのが龍騎くんだった。龍騎くんはその会長のプレゼントを選んだ。緊張感がある中、その小さい箱を開く。みんなの視線がそのプレゼントに注目した。
少年は開けてみた物が、まったく想像していないものだったから、明らかにがっかりしている。
「時計だ。大人用だよ。でも、なんだか古ぼったい・・・」
中から出てきたのは使い古した大人用の時計であった。
「んんん、ぼく、違うのがいいな~。」
「こら龍騎! そんなこと言うんではない!!」
お父さんの松田さんが焦りながら怒っている。
「いいんだ。大丈夫だよ。松田。」
なぜか優しく蓮司会長が微笑んでいる。
みんながその事態を眺めているあいだに、美代の心拍数は急上昇していた。
えええ? どうして??
そして、残っていた券を引いた蓮司の番だった。真田とちょこっと話しをしている。そして、おもむろに一つのプレゼントを選ぶ。
「ああ、これだ。」蓮司がつぶやいた。
美代は完全にパニックに陥る。だって、あのマフラーはビリオネラー向けでは全くない!!ああ、完全に似合わない。あの100円ショップで購入したあの花柄模様のラッピングさえ全くこの男には合わない。やばい!!私の渾身の手編みマフラーなんて、完全にミスマッチではないか!!!
思わず、声が出てしまう。
「ああ!会長、それあんまり会長には不向きかもしれません!!」
「そうなのか? お前はおれの必要なものがわかるもんな・・・でもおれはこれに決めた・・・」
「・・・・」
もういいです。いやだったら、返品してくださいとか思う。
封をあけてみると、鮮やかな緑と青が混じった太めの手編みのマフラーが出てきた。
あああーーー、合わないよ。こんなハイスペックなイケメンな上司に、手編みのマフラーなんて・・・ああ、笑われる。
「・・・・いい色だ。気に入った・・」
「・・・・はぁ?? えええ?」
「おれはこれをキープする。他にはゆずらない。」
その色っぽい野獣な目が美代を捉える。
えええ、なんだか恥ずかしくて自分が作っただなんて言えない。
「では最後から2番目の美代様。どうぞ・・・・」
と、真田が催促する。
「は、はい・・・・」
さっきから疑問を思っていたことを明確にするために、龍騎くんの元へいく。
「龍騎くん。その時計、お姉ちゃんにちょっと見せてくれない?」
「うん、いいよ。お姉ちゃんにあげる。ぼくいらないから。」
ぼこってまたお父さんの松田さんに頭を叩かれている。かわいい。
手にそのかなり使い古したこげ茶の皮バンドの感触を味わう。薄い金色の文字盤を良く眺める。
嗚呼!! これ!!!本当にそれしかありえない。
「龍騎くん。これ、お姉ちゃんに譲ってくれる? 」
「うん!!いいよ。」
「おい、美代さん、いいのか?」
「いいの。ありがとう。これ、私本当に欲しいの・・・」
頬から嬉しくて、光るものが出てきた。
「蓮司会長・・・・これって・・・」
「予算2000円以下だぞ。一応。そんなボロ時計だれも欲しがらないだろう。お前ぐらいじゃないか? そんなに欲しがるのは・・・」
「ほ、ほんとうですね。わたしぐらいしか貰い手なさそうだから、わたしもらっておきます。ありがとうございます。蓮司会長。」
「・・・・ああ、よろこんでもらってうれしい。」
これは、美代の父の腕に長い間あったものだ。どうやら、美代のおじいちゃんが美代の父にあげたもので、それを美代の父はずっと愛用していた。いろんなアイデアマンだった父は、普段は奇想天外な行動をする時も多かったが、このシンプルな奇抜性のない腕時計をこよなく愛していた。会社が破産しすべての相続を放棄した時、家のなかの貴金属でさえもすべて取り上げられた。それはもう醜いほどだった。この男性ものの時計がどれぐらいの価値があるのか美代にはさっぱりわからなかったが、それも没収されてしまったのだ。
蓮司が美代に近づいた。
「いまはこれだけしか見つからなかった。すまん。」
その言葉の裏に彼がいろいろ探してくれていたことがわかった。
「・・・・・・かいちょう!!!!」
いつもエロ大魔王とか言ってごめんなさい!!と心のなかで謝る。
「あ、ありがとうございます!! なにも残っていないので・・・・両親のものは・・・写真ぐらいで・・・」
そこにいた会場の人たちはちょっと涙ぐみながら、その様子を見守っていた。
「会長もなかなかやるな。あんな古時計が美代の好みと知っていたとは・・・」
と拓がもらす。完全にこの男、鈍い。残念系だ。
龍騎くんは、もう一個プレゼントを選んだ。チョコレートセットを当て大いに喜んでる。
そんななか、最後のくじを引いていた真田の番だ。
「では、私がこの最後のプレゼントをいただきます。」
真田がそのプレゼントを開ける。
絶句している!!!なにをもらったの???と思って、見ると!!
「ま、まさか、みなさん、狙ってわたしにこれを!!とかないですよね・・・」
SPの山川さんが肩を震わせて笑っている。
なんと電動鼻毛処理セット!!!
あ、そういえば、みんなに言われた。あのブルーの水玉のプレゼントは開けるなよっと伝言ゲームのように回ってきたのだ。
これはいつも冷静な真田を揺さぶろうという魂胆らしい。
電動鼻毛処理器をもらった真田は、焦っている。
山川隊長が、
「それ、俺からお前に特別にプレゼントだ!」
なんて言ってる。
「すみません!!ちょっと冷静ではいられません。じゃーメリークリスマス!!!」と叫んでどこかへ消えていった。
まあきっとお手洗いに逃げ込んだにちがいないっとみんな同情した。
大丈夫。真田さん。
鼻毛見えてないよ。
とはいえなかった。ごめんなさい。
乙女には、鼻毛ってきつい言葉です。




