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蜜月の始まり?

 二人のキスが長く続いた。


 「美代、愛している……」

 「はあ、、」


 言葉にはまだ想いを告げられない美代がただ大きな腕の中に抱かれていた。しかし、ここは蓮司の会長室、つまり会社なのだ。


 「ち、ちきしょう……。ここだと完全にまずいな……」


 蓮司は午後の全ての仕事をキャンセルした。

 あのまま長いキスを続けられ、愛の言葉を言われながら、美代は放心してしまった。

 その間に蓮司は色々なところに電話をかけていたが、それがどこなのかを後で知る事になる。


 まず初めて知ったが、真田さんは緊急の場合、総裁兼会長代行となるという事を、本人が初めて現れて知った。いきなり真田さんがスーツ姿で大原の会長の部屋に入ってきた。会長代行の真田さんはメガネがなくて、七三分けでもない。本人曰く、コンタクトで気分を変えているようだが、別人みたいだ。いつもの難聴気味な真田さんの面影が全くない。

 秘書の女子達も騒いでいた。


 「あ、超、久しぶりだわ! 真田様よ!!」

 「蓮司会長も素敵だけど、たまにしかも見れない真田代行も素敵すぎるわ……」


 正直、あまりの変わりように驚いた。みんなが騙されているのか、自分が騙されているのかよくわからない。だが、話し始める真田さんは、全くいつもの真田さんだった。


 「美代様、蓮司様、何か長期休暇が欲しいとお聞き致しましたので、参上いたしました。すでに役員の了承はとっております……」

 「うむ、真田。悪いな。緊急だ……。俺は今、世界で一番の一等地をなんと、ただで貰えるというすごい快挙を起こそうとしている……。抗えんだろ? そんな誘惑に……」

 「もちろんでございます。この真田、この体を張ってでも、蓮司様のいない間に不祥事が起きぬよう、身を引き締めて代行を務めさせていただきます」


 そこへ矢崎さんも入ってきた。


 「会長、真田総裁代行のサポートととして矢崎は一旦、真田代行の直下の秘書になります事をご了承ください」

 「構わない。うまく二人でやってくれれば、ありがたい。またリモートで出来ることがあるなら、まあ美代の調子を見ながら、決める…」

 「ちょ、ちょっとどうなっているの?」

 長期休暇だの、私の調子を見ながらってどういう意味なのか、考えるだけで、なにか悪寒が走る。そして、矢崎さんは礼をして部屋から出て行った。だが、真田さんはすぐにこの部屋で仕事を始めるかのように残っていた。

 「美代、悪いな、今日づけでさっきお前の大学にも休学届け出したぞ。ちょっと早いハネムーン行こう……」

 「え? なんとおっしゃいましたか?」

 「ああ、もう、美代は! 俺にくれるんだろ? そのハートを!」

 「………んーーっ! 蓮司、真田さんの前、そんな恥ずかしい事言わないでよ……。ああー、やっぱり失敗かも。返してもらおうかな。強制退去してもらうかも……。ピュアな乙女の心を返してください。しかも勝手に休学届けなんて! あれ? あれって、事故とか病気以外、本人のサイン! 必要じゃない?」

 なぜか蓮司が口元を手で押さえながら、笑いをこらえてる。

 「え、もしや、なんか騙した? 蓮司、おかしくない?」

 「ああ、うるさいぞ。美代。サインもお前のハートも貰ったものは返せん! 断じて無理だ!」

 憤慨はしている美代を横目に、

 「あ、真田、でも一週間、いや二週間は絶対に連絡してくるなよ! わかるよな……。この意味が……。美代は初めてだしな、色々な……」

と真田に話しかける。

 「な、なに? どういうこと! 勝手に話をっ」

 文句を言おうと思ったら、唇を塞がれる。さ、真田さんの前で!! は、恥ずかしい。

 人前でしかも本気なキスをされ、腰をぬかしている美代を愛おしそうに蓮司は眺めた。それをなるべく直視しないようにしていた優秀な家臣は、丁寧に答えた。

 「はい、もちろんでございます……」

 「よし、さあ美代、行こっか!」

 「え! どこへ行くの?」

 「──お前を思いっきり……抱けるところだよ……」


 きゃああああああーーーー!!

 早まった? やっぱり早まっちゃった!?

 美代が、ただニヤリと悪魔のように微笑んだ蓮司の横で硬直した。


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