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美代キレる

 自分が裸であったことに気がついて、美代は叫んだ。慌ててカバーシーツを自分の方へ強く引く。

 現在、裸の男二人、山川さんを含めた数十名のSPたちにベッドの周りを囲まれていた。


 「…………み、みんな、出て言って!!」


 ベッドのシーツカバーで身を隠しながら叫んだ。


 「美代、何故そんな格好で真田のベッドにいるんだ?」


 全く美代の言葉が耳に入らない蓮司がいる。


 「か、会長のバカ! そんな破廉恥な格好で、近づかないで、きゃーー!!」


 蓮司が裸のまま美代に近づいた。美代は恐ろしさと恥ずかしさで蓮司を直視することができない。


 「何故だ? 美代。確かに迷ってはいいと言ったが……」

 「やだ、近づかないで! 蓮司、ダメ!」


 野獣が獲物を襲う姿にみな唖然とする。


 主人の野生的過ぎる姿に唖然としながらも、真田が手を振る仕草で山川たちを下がらせた。部屋を出ろという指示だ。それを見て、部屋を出ようとする山川が口パクで真田にメッセージを残す。


 「生き残れよ……」


 ああ、わかってる。

 充分承知だ。

 だが、それよりも美代様と蓮司様の方が問題だ。このまま、野獣に美代を襲わせていいのか悩む。


 「他の男の腕の中で迷えとは、一度も言っていない……」


 真田がいそいそと自分の下だけでも洋服を着た。その後、すぐにとんでもない状況になっている蓮司にバスローブを渡す。

 殺気立つ顔で真田を睨むが、真田が、顔を真っ赤にさせて嫌がっている美代を指差しすると、フーーッと深い息を吐き、バスローブの袖に手を通した。


 そして、また真田に言い放す。


 「真田、なぜここにいる。お前はいらん。解雇だ、消え失せろ!」

 「……はい、わかりました。本当に良いのですか?」

 「……ちっ。なんども言わせるな」


 二人の態度がおかしな事になっているので、美代が口を挟んだ。


 「え? 真田さん、辞めさせるの?」

 「……ああ、当たり前だ。お前に手を出した」

 「はあ? 真田さんが? 私に?」


 申し訳なさそうに正座して聞いている真田さんが見える。顔が半端ないほど、膨れている。

 あ、もしかして、これが噂のたこ焼きか? と気がついた。


 「あの、真田さんは私に手なんか出していません!」


 蓮司の表情が険しくなる。


 「ど、どういう意味だ! まさか美代……」

 「私が真田さんを騙して、勝手に部屋に進入したんです!」


 空気が一転するしたのを真田は感じ鳥肌がたった。


 「……っ、美代!」


 下を向きながら、見えない主人、いや元主人の動向を探る。


 「美代様! あまり誤解を招くような!」


 真田は蓮司がますます誤解するような内容じゃないかと思う。これでは美代が真田を好きで侵入してきたような感じだ。


 やばい。これなら、悲観して蓮司が美代を殺しかねないと思う。正直、解雇など問題ではない。最悪の場合の奥の手もある。だが、問題は美代様の御身だ。ここで蓮司を共倒れにしかねない事態だと感じた。


 真田は腹を括って土下座する。


 「蓮司様! 大変申し訳ありませんでした! 私の全責任です。そうです。美代様をたぶらかしたのは私です」

 「!」

 「なに!」

 「美代様が就寝したあと、寝たままの彼女をおぶってここに寝かしました。欲望が耐えきれず……」


 蓮司がムクッと立ち上がり、その怒りが部屋に充満した。土下座している真田の額が地についた。


 ああ、もう入院モノでもなんでもいい。ここは美代様のピンチなんだ。身体張らなくてどうする。真田は心で叫んだ。


 もしかしたら、最悪殺される覚悟だ。


 蓮司は真田をこれから処刑するような体制だった。仁王立ちの大男の前に土下座する家臣。

 美代はなんだかこの時代劇かまたは臭い昼ドラのワンシーンのような光景に唖然とする。

 全く真田さんは悪くないのに、しかも、この自分の裸状態は全て蓮司のせいだ。毎晩、何処で寝ていても、連れ戻され、裸にされて抱きしめられている。しまいには自分も裸でシーツに中で寝る事に味をしめてしまったのだ。

 だから、自分でもわかっていた。たぶん、脱いだのだ、自分から……。


 ムカムカしたものが美代を築き上げた。


 「……真田さん、下向いていて。いいっていうまで絶対顔、あげないで。じゃないと地獄を見るから」


 美代はそういいながら、ベッドの中からその生まれたままの格好で出てきた。

 身体中には、蓮司の執着を物語るマークがいたるところについていた。


 パチンッと叩く音がした。


 「……蓮司の馬鹿! こんなマークばっかついた女、真田さんだって抱けるわけないでしょ!」


 蓮司は唖然としていた。

 自分の最愛の人が恥ずかしもせず、その裸体を自分の前に堂々と、惜しげも無くそれを見せつけながら歩いてきて、そして、その美代が自分の頬を叩いたのだ。


 「なんども言わせないでください。真田さんのせいじゃない! 蓮司がいっつもくっ付いてくるから、独りの時間が欲しかったの! 真田さんを騙してベッドを借りたの! あと、裸なのは、いつも蓮司が、その……脱がすから、それに慣れちゃって、たぶん、自分で脱いだんだと思う。かすかに記憶あるし!」


 「…………美代。…………綺麗だ」


 え、話きいている?と美代は思う。


 「真田さん解雇なんてダメですよ。こんなにしちゃった真田さんに謝ってください!」


 目の前の愛しい人の裸体が気になってしょうがない蓮司は骨抜きになっている。


 「悪かった。真田」

 「え、ダメですよ、もっときちんと謝んないと……」

 「本当にごめんなさい……真田君」

 「!!!」

 「もう解雇なんてダメですよ。私のせいなんですから」

 「え、美代様、ありがたいですが、それは、ちょっとまずいような……」

 

 顔を伏せながら、雲行きを探る真田が話す。


 「……ああ、そうだな。真田、お前の解雇は無しだ。美代が責任をとるらしい。そうだろ? 美代?」


 声色が一転して優しい蓮司にある種の恐怖を感じる真田だが、いまそれを美代に指摘していいのか躊躇われた。


 しかも、真田君だと? 虫唾と恐怖が一体となって走る。一体どうしていいやら……。美代様は自分の言われていることの次第を全く予測していないようだ。


 「あ、え、まあそうですね。仕方ないです」

 「では、そんな裸を見せながら、どういう責任が取れるのか、俺は知りたい……」


 あ、まずい。美代は急に自分のことを思い出す。

 裸じゃん!! 私!!


 「美代、取ってもらうぞ。お前の責任を……」


 やばい! 完全に違うフラグがたった!









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