第四十姉嫁 異世界のバレンタイン事情の巻 そのさん
久しぶりすぎて前回更新時間を間違えました(笑)
コラボ作品『あくおれ!~悪徳領主と弟の楽しい異世界生活~』とmaster1415先生の『あくおれ!~悪徳領主な私の楽しい異世界生活~』も同時更新中です!よろしくお願いします!
なんだろう、涙で前がよく見えない。
どこの世界でもチョコ獲得数戦争はあるんやね・・・
門番さんたちが門を開けてくれたので手を振りながら門を通る。
「しかし、いつのまにあんなの用意してたの?」
「用意してたっていうか、前に大量にもらったのよ。なんかのお礼で。何のお礼かは忘れたけど。」
「そっか。そういやさきねぇがバレンタインで俺以外の男にあげるのも初めて見たわ。」
「あれあれー、もしかしてヤキモチですかー? もーかわいいなーヒロはー!」
めっちゃハグされる。気持ちいい。
「まぁ私も『アルゼンの守護天使』と言われる身だからね。下界に暮らす民たちにあのくらいはやってあげてもよいかなって。」
「すごい上から目線! さすが俺のお姉さまや!」
「「あっはっはっはっは!」」
二人で笑いながら通りを歩く。
周囲の人たちが一瞬ギョッとしてこちらを見るも、すぐに『ああ、あいつらか。じゃあしょうがないな』みたいな優しい顔で通り過ぎていく。
なにか?
「おぉーい、ヒイロちゃん!ムラサキちゃん!」
「お、おばちゃーん。どったの?」
屋台のおばちゃんから声をかけられる。
ちょくちょく物を買ったり売り子として手伝ったりしてるもんだから今ではちゃんづけで呼ばれており、親戚のおばさんみたいな感じになっている。
「今日はアプルデーだろう? ヒイロちゃんにはいつも世話になってるからね! はいこれ!」
そう言うとおばちゃんがバスケットを渡してきた。
中身は・・・焼き林檎かな? もらってもいいのだろうか。
一応お姉さまのお顔を伺う。
「おばちゃんありがとねー。お、うま!」
もらってもいいようだ。
こんなにも気を遣う俺ってばなんて健気な弟なんだろうか。
「あっはっは! ヒイロちゃんのものはムラサキちゃんのものなんだろうからいいけどね。でも最初にヒイロちゃんに食べてほしかったね!」
「あら、そう? じゃあヒロ、あーん!」
「あーん。」
さきねぇの食べかけをあーんで食べさせてもらう。
モグモグ。美味いな。さすが屋台のおばちゃんだ。
これ売り物にすればいいのに。
「美味しいですね。ありがとうございます。」
「いいってことよ! またお手伝いよろしくね!」
「おばちゃん、それが狙いね? 商売上手なんだから。」
「あっはっは! まぁ堅いことは言いっこなしさね!」
それから少し雑談をしておばちゃんと別れる。
すると今度はおばあちゃんが近づいてきた。
「おお、ヒイロ様ではございませんか。」
「あ、おばあちゃん。あれから体の具合はどう?」
「ヒイロ様のおかげで健やかに過ごさせていただいております。ありがたいことでございます。」
おばあちゃんが俺に向かって深々とお辞儀する。
このおばあちゃんは以前に転んで怪我をした時に治療してあげたおばあちゃんだ。
そのまま荷物を背負って家まで送っていってあげたらすごい感謝されてびびった。
まぁアルゼンくらいの田舎だと魔法使いか数えるほどしかいないため、おばあちゃん的には『回復魔法を使える偉い魔法使い様に無償で治療してもらった上、家まで荷物を運んでもらった』という感じらしく、宗教レベルで拝まれている。
「おお、少しお待ちください。」
そう言うとおばあちゃんは近くの果物が売ってる屋台にいく。
店主と話をするとすぐ戻ってきた。
「どうかお納めください。」
「えっと・・・ありがとうございます。」
なんか木の箱に入った高そうなリンゴを渡される。
俺が木箱を受け取ると、おばあちゃんは『ありがたやありがたや』といいながら両手を合わせた。
・・・なんかはるばる唐から日本にやってきた高僧かなんかになった気分です。俺は鑑真か。
さきねぇは口を押さえてめっちゃぷるぷる震えている。
「では用事があるので今日はこのへんで。」
「はい。ありがとうございました。」
おばあちゃんがまた深々と頭を下げる。
これでこっちも頭を下げるとおばあちゃんが恐縮してさらに頭を下げて・・・という俺とおばあちゃんによる頭ぺこぺこ大合戦が始まってしまうため軽く会釈をしてすぐに離れる。
「いやー、相変わらずの年上キラーっぷりね! よっ! 異世界の悟り王子! 天上天下唯我独尊!」
「お釈迦様じゃねーわ。なんつー不遜な。」
俺みたいな(姉)欲にまみれた男は悟りなんぞ開けんよ。開く気もないし。
アホな会話をしつつ通りを歩く。
すると。
「あー! ひいろさんだー!」
「先日はどうも。」
「ああ、どうも。」
子連れの奥様と出会う。
この人たちは道具屋をやっているマルおばさんの娘さんとお孫さん。
なんか知らんが泣いてたので水魔法で虹を作って見せてあげたらすごい懐かれた。
しかしあれだね。こうやって通りを歩いてるとそれなりに顔見知りが多いっていうのは俺たちが異世界に馴染んできた証拠なんだろうね。
「ひいろさんこれあげるー!」
「お、何かな?」
幼女が木の器を手渡してくる。
器の中にはプルプルしている真っ赤なゼリー的なものが入っていた。
「これはもしや、スカーレットグミーかな?」
「ぴんぽーん! ひいろさんにね、あげたいからね、おとうさんにかってもらったの!」
「そっか。ありがとね。」
ニコニコ顔の幼女。
スカーレットグミーはりんご味だ。いちご味のレッドグミーやミント味のグリーングミーと比べるとややレアな魔物である。
「どうぞめしあがれ!」
「じゃあいただきましょうか!」
さきねぇがスカーレットグミーを食べようと手を伸ばす。
しかし。
「だめ! なんでむらさきさんがたべるの!? だめ! これはひいろさんにあげたの!」
「いい、幼女。ヒロのもの=私のものなの。わかる? これが世界の摂理なのよ?」
「・・・なにいってるかわかんないからだめ!」
にらみ合うさきねぇと幼女。
なぜ俺は姉と子供とおばさんと動物と変態にしか好かれないんだ。解せぬ。
「まぁまぁさきねぇ。ここは抑えて抑えて。」
「・・・この幼女の肩を持つの?」
やめてくれよすげー目つき怖いよ。なんで子供にまでやきもちやくんだよ。
やきもちは嫌いじゃない、というよりむしろ嬉しいけど。
俺はあんたの教育で年下は女性として対象外になったんじゃねーか。
・・・なんかすごいデジャヴ!
「えぇっとぉ・・・ありがとね! これはあとで美味しくいただきます! それでは!」
「ばいばーい!」
「お気をつけてー。」
親子の声を背に受けながら、さきねぇの手を握って走り出すのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
ムラサキお姉ちゃんVS幼女はアルゼン名物です。
姉と幼女とおばさんとおばあちゃんと動物と変態に好かれることに定評のあるヒロくん。




