第三十八姉嫁 異世界のバレンタイン事情の巻 そのいち
お久しぶりです。更新が停滞しており申し訳ありません。
停滞中にも感想や評価をいただきました。ありがとうございます。
今回のお話は全六話構成で、時期がズレているにもほどがありますがコメディなので許してください(><)
そしてサプライズがあります。
なんと『悪徳領主ルドルフの華麗なる日常』で有名なmaster1415先生とあねおれの夢のコラボが実現!
その名も『あくおれ!~悪徳領主と弟の楽しい異世界生活~』です!
さらに同じお話がルドルフの視点で書かれている『あくおれ!~悪徳領主な私の楽しい異世界生活~』もmaster1415先生のほうで同時投稿中!
片方だけ読んでも楽しいですが、どっちも読むとさらに楽しいという一粒で二度美味しい作品です!
よろしくお願いします!
「なんか変じゃなかった?」
ギルドでのお仕事を終えてノエルさんちに帰る途中、さきねぇがそんなことを言い出した。
「何が?」
「街の雰囲気。なんか浮ついてるというか、ふわふわしてるっていうか。」
「そう? いつもとたいして変わらなかったような?」
強いて言うならいつもより市場が盛り上がってたような感じはしたが・・・
「なんかアレよ。悪魔の日の前日みたいなゲロくせぇ雰囲気があったわ。」
「もうちょっと言い方あるよね。女の子だからね。」
「吐瀉物の芳ばしい香りがした。」
「いや、そういうことではなく!」
吐瀉物言うな! 言ってる内容に変化ないじゃねぇか!
「エルエルー、バレンタインデーってある?」
食事を終えた後、さきねぇがノエルさんに問いかける。
そう、先ほどの悪魔の日とはバレンタインデーのことだ。
さきねぇの中ではバレンタインは『発情した雌犬どもが弟に群がろうとするバイオハザードデイ』ということになっている。
まぁそんな展開には生まれてから一度もなったことがないわけだけど。
あ、でも本命手作りチョコは毎年もらってるよ! 実の姉からだけどな!
ちなみに本命ではなく義理のチロルチョコ獲得数はかなり多い俺。
日本生まれ千葉県育ちの英国紳士ですからね。当然ですね。
まぁそのチロルチョコはもらった瞬間にさきねぇの口の中に消えるわけだが。
「ばれんたいんでー? なんだそれは?」
「そもそもバレンタインっていうのはね・・・」
そう言うとどこからか落語で使うような扇子を取り出すさきねぇ。
いつのまにこんなの作ってたんだ。
「べべんべんべん! 時は幕末、ある国の王様が愛する人を故郷に残した兵士がいると士気が下がるっつーんで兵士が結婚するのを禁止した! するとその国の司祭だったバレンタインさんが『何やねんそれ。兵士かわいそうやん。意味わからんわ。』と言って、王様にナイショで兵士たちの結婚式をやっちゃった! べべんべんべん!」
そっから説明する意味ある? てゆーか幕末関係なくね?
あとなんでバレンタインさん関西弁なの?
「まぁそしたらそれが王様にばれちゃって王様激オコよ。『おめー何勝手に結婚式やってんじゃボケ! 次やったら命令違反でフルボッコやぞ!』ってバレンタインさんに命令したんだけど、バレンタインさんは安定のスルーで王様の命令をシカトしてたら最終的に彼は処刑されちゃったの。」
べべんべんべんやめちゃった。飽きるの早いな。
「・・・はぁ。で、結局バレンタインデーというのはどういうものなんだ? 今の話に出てきたバレンタイン司祭の死を偲んで奉る祭りか何かなのか? 確かに王の命に逆らってまで兵を思いやるというのはなかな出来ることではないが。」
「いえ、好きな男の子にチョコを送る日よ?」
「意味がわからん!? それのどこにバレンタイン司祭の要素があるんだ!?」
日本人だけど俺もよくわからん。
ノエルさんがため息をついて俺のほうを向く。
「全く・・・ムラサキに聞いた私がバカだった。最初からヒイロに聞けばよかったな。バレンタインデーというのはなんなんだ?」
「んー、好きな男性だったりいつもお世話になってる男性にチョコを贈るという習慣ですね。」
「じゃあ最初のバレンタイン司祭の話はムラサキの適当な作り話か。無駄に長い話をしおって。」
「いえ、多分事実です。」
「?」
ノエルさんが『何言ってんの?』という顔をしている。
そんな顔されてもこっちも困るんですが。
「まぁバレンタイン司祭の話は置いておいて大丈夫です。なんかそんな感じのイベントってあるんですかね?」
「アプルデーみたいなものかな? アプ「あ、ほらきた。林檎で代用してなんか作って贈るのよ絶対。異世界安直ー! フー!」
ドヤ顔で説明しようとしたノエルさんが先にさきねぇに内容を言われちゃって(´・ω・`)としている。
「ノ、ノエルさん、そのアプルデーというのはどんなものなんですか?」
「・・・ムラサキが言った通りですぅー他に説明することなんてないですぅー。」
ノエルさんが頬を膨らませプイッと横を向く。
拗ねてしまわれた。
「いや、さきねぇの適当な感じじゃなくて、ノエルさんのわかりやすい説明が聞きたいなーって。」
「・・・そうか?」
チラッと上目遣いでこっちを見るノエルさん。
クソ、かわいいじゃねぇか!
「さきねぇもそう思うよね?」
「そうね、エルエルのわかりやすいけど長ーい長ーい説明が聞きたいわ!」
「・・・」
むすっとした顔のノエルさんとニヤニヤしてるさきねぇ。このいじめっ子め。
さきねぇは気に入った人間はいじめたくていじりたくて仕方ない困ったちゃんだ。
その被害は主にノエルさんとマリーシアさんが請け負っているが。
「・・・普段世話になっている異性に日ごろの感謝を込めてアプルを贈るというものだ。そのまま渡してもいいし、料理してもいいし、アプルをあしらった小物なんかでもいい。どうだ、わかりやすくかつ短い説明だろう!」
腕を組み自信満々に言い放つノエルさん。
うん、けっこう誰でも言えるくらい普通な感じだったが、そこには触れないでおく。
さきねぇにもアイコンタクトで『これ以上会話をひっかきまわさないように』と伝える。
「なるほど。クッソ高いチョコの代わりにリンゴで手を打とうって話ね。リンゴ業界の人も頑張ってるわね!」
まぁこの世界のチョコって外で食べようものなら『あいつチョコ食ってるよ! 超リッチ!』ってみんなから見られるレベルの高級品だからな。
そうポンポン人にあげられるもんじゃないからお手軽に買えるリンゴなんだろう。
「ノエルさん、そのアプルデーはいつなんですか? アルゼンの様子からするともうすぐな感じですかね?」
「明日。」
「「展開早っ!?」」
何この急展開。
いや、でもよく考えればイベントに時間をかけるのは平和な日本ならではだったのではないだろうか。
いつ何が起きるかわからない異世界だ。
『いつ死んでも後悔しないように明日祭りやろうぜ!』『イェーイ!』みたいなノリかもしれん。
どんなノリかよくわからんが。
「じゃあエルエルもなんか用意してるの?」
「ナ、ナンノコトダ?」
ノエルさんの眼球運動が激しい。
「・・・まぁいいけど。」
「アーソウイエバー。ラムサスが明日ギルドに来て欲しいと言っていたぞ!」
「「・・・・・・」」
なんでノエルさんは演技するときカタコトになるんだろう。
もうちょっと自然にできないもんだろうか。
「というわけで、明日いってきなさい。」
「じゃあ明日の午後23時55分くらいにギルド寄っていなかったら帰ってくるわね。」
「ギルド閉まってるだろ! 午前中にいきなさい!」
「じゃあ今から出発して午前0時ちょうどにギルド寄っていなかったら帰ってくるわね。それなら、どう?」
逆転の秘策を話すかのようにニヤリとするさきねぇ。
いや、ダメでしょ。
「ダメに決まってるだろ! 『それなら、どう?』じゃない! なんでちょっと自信有りげなんだ!」
「めんどくさいわねー。」
なんでこの人たちはこんな話で熱くなれるのだろうか。天才だからか?
天才とはげに恐ろしきものなり。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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