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第三十一姉嫁 ムラサキお姉ちゃん、運命に出会うの巻 そのなな

「ツアー参加者? 迷子でここまで来れるはずないっていう。途中で迷路もあったっていう? あそこは道を知らない人が入ったが最後、一生彷徨うことになるっていう。」

「たまたまここにたどり着いたわん。」


 ガチで殺しにきてる迷路やつだったのか。

 でもうちのお姉さまのラック値はカンストレベルで人類最高値だからね。仕方ないね。




「たまたまで抜けられるような代物じゃないっていう!? 抜けられたとしても天文学的確率だっていう!」

「私の辞書に不可能という字は載ってないのよ?」


 ジト目でうさんくさそうな顔をしている白衣の女性。


「えっと、とりあえず自己紹介させてください。私はヒイロ・ウイヅキです。冒険者やってます。こっちはムラサキ・ウイヅキ。私の姉で妻です。」

「ムラサキ? どっかで聞いたような・・・というか、姉で妻ってどういうことっていう?」

「そのままの意味よん。」


 さきねぇが俺の頬にチュッとキスをする。

 うへへ。


「姉弟で結婚したっていう? すごい珍しいっていう。」

「あんまり聞きませんよね。俺ら以外では・・・ヴォルフたちくらい?」

「もっと流行ってもいいと思うんだけどね?」


 流行る流行らないの問題ではないと思うが・・・

 そもそも姉弟兄妹がいないとどうにもならないしな。


「ま、他人の関係にどうこう言う趣味はないっていう・・・ああ、今度はこっちが自己紹介する番っていう。私はノーラ・ウィル・メルカッツ・イナルファ。ここの研究主任で、この国の王女だっていう。」

「オー、ジョン!」

「ジョンって誰だっていう。」


 王女なのか。

 オレンジ色で肩くらいまで伸びた髪はボサボサだし、白衣はヨレヨレで汚れてるし、あんまり王女っぽくはないな。


「王女っぽくないわねぇ。」

「なはは、よく言われるっていう。陰口だけど。むしろ王女と知った上で初対面の人に面と向かって王女っぽくないって言われたのは初めてだっていう。興味深いっていう。」

「私は興味深さに関しては大陸で五指に入る女と呼ばれているからね!」

「うん、かなり適当な女だってことがたった今わかったっていう。」


 大変申し訳ない。


「・・・あれ? もしかしてムラサキって、A級冒険者のムラサキっていう? ギガンティックゴーレムを一人で倒した〝紫電旋風テンペスト〟の。」

「あら、私って有名人なのかしら? ついに異世界で芸能人デビューね! やっと時代が追いついてきたか。」


 自信満々で胸を張るさきねぇ。

 相変わらずお胸様がたゆんたゆんしている。

 何億回見ても飽きないわ。


「でもさきねぇが芸能人になっちゃったら、嬉しいけどちょっと寂しいな。遠くにいっちゃったみたいで。」

「ノラ子、ごめんね。私、アイドル引退します! 普通の女の子に戻ります!」

「ムラサキは頭の病気かなんかっていう? うちの宮廷魔法使いに腕のいい回復魔法使いがいるから、あとで紹介してやろうかっていう。」


 突然芸能人の仲間入り宣言した数秒後に辞めるという超電撃引退を決めたさきねぇを、ノーラさんが気の毒そうな顔で見ていた。


「いや、うちのお姉さまは紙一重で天才に分類されるタイプの姉なので。病気ではないんです。あと回復魔法じゃ治らないのは経験済みです。」

「あー、なるほど。そっち系っていう。私もよく言われるっていう。仲間っていう。」

「「いやっはー!」」


 ハイタッチを交わすさきねぇとノーラさん。

 そっち系ってどっち系だよ。何と比べて何系に分類されんだよ。

 まともな天才っていないのかな。それともまともだと天才になれないのかな?

 まともな凡人とイカレた天才・・・どっちがいいかと言われると迷うな。


「そんなことはどうでもいいっていう! 私はついてるっていう! A級冒険者のムラサキにお願いがあるっていう!」

「なんぞ?」

「私が作り上げた人造魔物の最高傑作が昨日ロールアウトしたんだっていう。でも強さを計るのにちょうどいい相手がいなくて困ってたっていう。ムラサキにはぜひそいつと戦って強さを評価してほしいっていう!」


 なんかヤバげな流れになってきたぞ。

 魔物の研究なんてやってる変わった王女様の最高傑作・・・どう考えてもまともなはずがない。


「個人的には面白そうなのでまりすけと戦ってほしいわね。短剣一本持たせて。」

「マリーシアさん死んじゃう!!」

「どんな顔して逃げ回るか見てみたいわ!」


 きっと色んなところから液体を撒き散らしつつ『ぎぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ! 無理無理無理無理かたつむりぃぃぃぃぃぃ!』とかだな。

 話題を変えよう。


「ノーラさん、それなら自国の冒険者でいいのでは?」

「うーん、それはそうなんだけど、王都イナルファ周辺には強い魔物はあんまりいないっていう。王都だから当然だけど。つまり、A級冒険者みたいな強い人間はほとんど出払っているっていう。」


 そういう弊害もあるのか。

 魔境から離れてるからそこまで戦力も必要ないのかね?


「かといってA級に匹敵するのはうちでは騎士団長を代表として、数人しかいないっていう。でも騎士団長クラスに怪我でもされたら負傷手当とか見舞金とか保険金とかがやばいっていう。」


 グッとコブシを強く握り、身を乗り出すノーラさん。


「そこで他国の冒険者だっていう! 怪我しても追加料金を払う必要がないっていう! 死んだらドンマイ!で済むっていう! 全体として見ればコスパ最高だっていう!」

「ドンマイで済ませるはずねーだろ殺すぞ!」

「ひぃ! キレやすい若者だっていう!」


 俺の大事な愛しい姉嫁にそんな危険な真似をさせられるか! もういい、俺は一人で部屋に戻る! ギャー。


「さきねぇ、こんなん放置でいいよ。もう帰ろう。」

「ええー。ギガンティックゴーレムを倒したムラサキなら相手にとって不足なしっていう! それとも負けるのが怖いっていう? それなら仕方ないっていう。」


 ノーラさんの挑発に笑顔を見せるさきねぇ。

 このひと、やっすい挑発受けるの大好きだからな・・・


「むっふっふ、なかなか正直でよろしいじゃない。嫌いじゃないわよそういうの。本当なら掲示板に『XYZ』の文字がないとダメだけど、今回は特別にその依頼、引き受けた!」

「ほんとかっていう!? さすがムラサキだっていう! 今準備してくるから待っててくれっていう!」


 満面の笑顔を浮かべながら走っていくノーラさん。

 嫌な予感しかしないが・・・


「いいの?」

「ワイに任せておけばいいがなまんがな。」

「誰やねん。」

「それに、他のやつに『なんでここにいるの?』って聞かれたらノラ子に招待されたからっていえばいいじゃん?」

「なるほど。招かれたのなら不法侵入ではなくなりますね! さすが姉上!」


 ちゃんと色々考えてたんだね。

 いつも行き当たりばったりだから、おれ、ちょっと感動。


「準備できたっていう! こっちに来てくれっていう!」

「あいよー。」


 ノーラさんに促され、別室へ進む。


「ここが実験場だっていう!」

「地下だけどなかなかの広さね。」


 体育館くらいはある広くて明るい空間に案内された。

 実験場って、なんか嫌な響きだな。こっちが実験されてるみたいで。


「準備はいいっていう? 正直、私の最高傑作なのでびびってチビったとしてもしょうがないっていう。」

「まりすけじゃあるまいし、そんな情けない姿を晒すはずがないでしょ? いつでもきなさい!」


 シュッシュッとワンツーを繰り出し、シャドーボクシングをするさきねぇ。

 ちょいちょいマリーシアさんをディスるな。まぁそれだけ気に入ってる証拠なんだけど。

 さきねぇはやる気満々みたいだし、俺はとりあえず様子見かな。


「では、いくっていう! いでよ、我が最強の人造魔物よー!」


 ヒュゥゥゥゥゥゥ・・・ドォォォォォォン!


 上から何かが降ってきた!


「こ、こいつは・・・!?」


 家四軒分はありそうなかなりの巨体。


 一目で弾力性が見て取れるボディ。


 まるで富士山のようなフォルム。


 黄色と黒の絶妙なコントラスト。


 これはどうみても・・・


「「プリンじゃん!」」


 俺たちの前に姿を現した最強の人造魔物は、アホみたいなでかさのプリンだった。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。


ええ、あねおれですからね。

このクオリティですがなにか?

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