第二十八姉嫁 ムラサキお姉ちゃん、運命に出会うの巻 そのよん
感想いただきました。ありがとうございます。
この感想が……私を何度でも甦らせる……!
「お前ら、いいか、S級冒険者だぞ!? 現在ではたった四人しか存在しない冒険者の頂点! その四人の中でも最年長にして最強と言われる方だぞ!? 外見は見目麗しい少女であるにも関わらず、その光刃は全てを断ち切り、その紅蓮の炎は全てを焼き尽くす! ああ、ノエル様! 一度でいいのでご本人の口から武勇伝を・・・!」
「「・・・・・・」」
俺たちが知っている光刃さんは野菜ばっか切ってるし、紅蓮の炎は川の水を沸かして風呂のお湯しか作ってないけどな。
「えっと、つまり、ノエルさんのファンってことですか?」
「ファ、ファンって言われると軽く思われてしまうが、まぁ突き詰めればそういう感じかな? いや、突き詰めればな? 本当はもっと深い思いを持っているので、それをここで語るのもやぶさかでは「けっこうです。」
なんか緊張して損した気分だわ。
「ヒロ、アレ。」
「ハッ! どうぞ!」
魔法袋から二つの黒いサングラスを取り出し、一つをさきねぇに渡す。
そして俺も自分のサングラスを装着する。
「じゃあ、商売の話をしましょうか。」
「うちのアイドルと握手したいって話ですが、こちらに呼ぶということですよね? 招待費や滞在費などはもちろんそちらが御持ちいただけるんですよね?」
二人でサングラスを指でクイッとしながら話す。
今ここに敏腕プロデューサー姉弟、初月P'sが誕生した瞬間だった。
「で、出来うる限りの援助はするつもりだ。」
「泊まる場所はもちろん最高級ホテルの最上階、ろいやるすっうぃ~としか認めないわよ?」
「それと料理も最上級のものをご用意ください。最低でも王室御用達クラスは出していただかないと。」
「むむむ・・・もうちょっとまからんだろうか?」
「はぁ、おたくのうちのエルエルへの愛はその程度だった、と。拍子抜けね弟よ。」
「全くですね姉上。大陸の永遠のアイドル、ノエル・エルメリアがわざわざここにくるのなら喜んで全財産ポーンと投げ出す覚悟はあるのかと思っていましたが。」
「ぐぐぐぐ・・・」
二人揃って手を組みソファに寄りかかる俺たち。
またサングラスをクイッとやる。
「・・・・・・わかった! 俺も男だ、最高級ホテルに王室御用達の料理だな! やってやろうじゃないか!」
「了解しました。取調べ回避の恩もありますし、それで手を打ちましょう。」
「おお! 本当か!」
「ちなみに予約は三人分よ?」
「え・・・」
想定外って顔してるクマさん。
副本部長にまで上り詰めた方とは思えないほど見通しが甘いですね。
「マネージャーの分も当然入ってますよ?」
「嘘だろ・・・俺だってそこまで高給取りってわけじゃないんだけど・・・」
「多分自分たちがいなかったらノエルさん、すぐ帰っちゃいますよ?」
「あーもうわかった! ただし、絶対握手! あとサイン! これは譲れないぞ!」
「「毎度ありー!」」
多分S級昇格会議が終わったらノエルさんもここに来るだろうし、その時でいいだろ。
「ついにノエル様に会えるのか・・・やばい、もうドキドキしてきた。」
「クマさん気が早いって。」
「いやー現役のころからの夢だったんだよなー。俺らが現役のころはノエル様の英雄譚は聞いてても、本人は半隠居みたいな形で表に全然でてこなかったんだよ。だからいってみれば本の中の英雄と対面するような感動だ!」
「「へぇ~。」」
俺たち姉弟的にはノエルさんといえば『顔を真っ赤にしてプルプル震えるのが得意な、強くてかわいい世話焼きおばあちゃん』って感じだからな。
本の中の英雄って言われてもピンとこないわ。
「俺たち換算ならどんな感じなんだと思う?」
「私たち的には神○一先生とか秋田○信先生に握手してもらう感じなんじゃない?」
「何それやばい超興奮する!」
「?」
クマさんはハテナ顔だった。
とりあえずノエルさんと会わせる約束をした後、いくつかの話をしてギルドを出る。
「さーって、じゃあ王城に向かいますか!」
「なんで?」
「・・・お?」
「お?」
あれ、王城見学の話してなかったっけ。
・・・あ、その話聞いてすぐに逮捕されかけたから言ってねぇわ。
「なんか今日王城見学会やってるらしいよ。お金払えば誰でも入れるんだって。」
「マジで!? 玉座座れる!?」
「いや、購入物件の見学会じゃなんだからそれは無理だろ・・・」
まぁ警備の関係上、入れるのは門くぐってちょっとくらいかね?
城を見上げて『お城って大きいねー』とか、お城の壁触って『わーすごい固いねー』とかいうレベルの。
「まぁトポリス城には何回も入ってるからそこまで新鮮さはないけど、話のタネにはなりますか。」
「それは言わない約束でしょお姉さま。」
お城に向かって通りを歩いていくと、人の数がどんどん増えていく。
「けっこう人気みたいだね、見学会。」
「そうね。でも問題は値段よね。いくらなのかしら?」
「祭りみたいなもんだから絶対ボッタクリ価格だろうけど・・・いくらまでなら入る?」
「そうねぇ・・・740パルかしら。」
「・・・その心は?」
「ディズニーランドの1dayフリーパス。」
「あー。」
なぜか納得してしまう俺だった。
王城前に着く。
「広いな。」
「広いわね。」
城壁はそこまで高くないっぽい。
三階建ての家以上はあるだろうが、それでもそんなもんだ。
しかし横に長い。
日本や中世の上に高いお城というより、中国みたいな横に広い感じ。
「はーい、こちら王城ツアー受付でーす。どしどしご参加くださーい。」
メイドさんが受付やってる。
これも職務のうちなのか。庶務+事務+人事秘書課ってけっこう大変そうだな。
「とりあえず説明だけ聞いてみよっか。」
「せやな。」
受付に向かうと、人垣がモーゼの海のように割れる。
・・・なんで?
不思議に思いながら受付につくと、背筋をピーンと伸ばしたメイドさんがすごい緊張した面持ちで待機していた。
「あのー。」
「は、はい! なんでしょうか!」
「説明を聞きたいんですけど。」
「かしこまりました! ただいまお席を準備させていただきます!」
メイドさんに少し離れた場所に案内される。
真っ白いテーブルとイス、そして日よけのパラソルまで完備されていた。
さらにメイドさんが三人待機している。
「こちらへおかけください。」
「なかなかサービスが行き届いてるわね。善き哉善き哉。」
「あ、ありがとうございます!」
二人でイスに座ると紅茶とクッキーが出される。
え、この待遇、何? どゆこと?
「あの、大変失礼だとは思うのですが、本日はどちらからいらっしゃったのでしょうか?」
「ん? あらこれおいし。ん~、アッチの方から。」
「適当! そういうのが聞きたいんじゃないでしょ絶対。私たちはトポリス王国から来ました。」
さきねぇの紅茶を飲みながら来た道を指差すという超適当な対応にフォローをいれる。
すると、メイドさんは一瞬目を見開くも、すぐに笑顔に戻る。
「そうでしたか。ではイナルファ王城見学ツアーは初めて参加されるということですね。」
「ええ、そうなりますね。」
「ではご説明しますね。」
「・・・という流れとなります。」
「なるほど。トポリスと全然違うんだね。」
「お国柄ってやつかしらね?」
なんでもこのイナルファ城は二つの城壁で囲まれているらしい。
わかりやすく言うと 回 ←こんな感じ。
真ん中に王様がいるメインの建物があり、そこを第一城壁が囲んでいる。
その周囲に色んな機能を持つ建物があり、さらにそこを守る第二城壁。
今俺たちがいるのはその第二城壁の目の前だ。
このツアーは第二城壁と第一城壁の間の一部を案内してくれるらしい。
城の内部に入れるわけじゃないのね。
「あのー、それで料金なんですけど・・・」
「もちろん御代はいただきません!」
「「え!?」」
なにたくらんでんだこいつ。
今の状態は言ってみれば『タダでディズニーランドに入っていいよ!』といわれているようなもんだ。
怪しい・・・
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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