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第二十姉嫁 教えて!ヒイロ先生! そのさん

前回自動更新になってしまいました。すいません。

「『ワルイゴハイネガー!』ってやつよ?」

「意味がわからない!」


 うん、それナマハゲね。





 それから色々話し合ったりして、『ドキドキ!第二次新人研修!』の当日。

 俺はギルドから用意されたそれなりの広さの空き部屋で待機していた。

 多分それほど参加人数は多くないだろうということで二十名分の机と椅子しかない。

 しかし、かなり困った事態になっていた。


「・・・嘘だろ。誰もこないの?」


 そう、もうすぐ授業開始というのに誰も来ないのだ。

 日時や場所を間違えたのかと思い、受付に向かう。

 その途中でさきねぇのいる訓練場を見ると、若い冒険者で溢れかえっていた。みんな楽しそうだ。

 そうだよな、普通魔法使いの俺にめんどくさいうんちく語られるより、さきねぇに鍛えて貰ったほうが嬉しいよな・・・

 俺はとぼとぼと教室に戻る。

 すると。


「あ、こ、こんにちわ! 宜しくお願いします!」


 誰もいなかった俺の教室には二人の冒険者が椅子に座っていた。

 一人の女の子が立ち上がり挨拶すると、もう一人も立ち上がり頭を下げる。

 よかった、人がいた!


「うわーよかったよ人が来てくれて。マジで全員さきねぇの戦闘訓練のほうにいっちゃったかと思った。あれ、君らは・・・」

「はい!先日は助けていただいてありがとうございました!」


 この前森で助けたルーキーたちだった。


「そっかそっか。二人だけでも来てくれて嬉しいよ。私はこの講義を担当させてもらってるヒイロ・ウイヅキです。よろしくね。」

「ラミア・バートリーです!よろしくお願いします!」「ガイ・マックスです。よろしくお願いします。」


 女の子はハキハキしてるが、男の子の方はちょっと不満げだ。

 多分男の子のほうがさきねぇの訓練にいきたかったんだろうな。

 ふむ・・・


「よし、じゃあまずは椅子を机を端っこに寄せてスペースを作ろうか。」

「え? は、はい!」


 三人で手分けして室内を片付ける。


「ありがとね。じゃあ。まずは手合わせをしようか。」

「え?」「手合わせ、ですか?」


 キョトンとした顔の二人。


「講師の力量くらい確認したいだろう? ガイくんの顔にも『魔法しか脳のない魔法使いに教わることなんてない』って書いてあるし。」

「そ、そそそんなことは!」

「あははは。いや、そりゃしかたないよ。森では俺が戦ってるとこ見てないしね。二人しかいないし、今後の授業をスムーズにするためにも軽く手合わせしよう。」


 顔を見合わせるラミアちゃんとガイくん。


「でも、魔法を使われたら絶対勝てないです。」

「魔法なんて使わないよ。俺は素手、っていうか右手一本しか使わない。そっちは二人がかりでいいよ。」

「「え!?」」


 そんな驚くこと?

 俺、どんだけ弱いと思われてるんだろうか・・・


「さて、じゃあはじめよっか!」


 ~10分後~


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・ま、参りました・・・」

「こ、降参です・・・」

「あれ、もういいの? あとでなんか文句言われても困るんだけど。」

「「言いません!」」


 息も絶え絶えの二人とは対照的に元気まんまんな俺。

 これでもほぼ毎日ノエルさんと組み手はやってるもんでね。

 これで上下関係ってものがちゃんとわかってもらえたかな?


「ま、魔法使いなのに、なんでそんなに動けるんですか・・・?」

「『魔法使いはコソコソ隠れて後ろから魔法撃つだけ』なんて古い、古いよ。俺が目指してるのは動ける魔法使いだからね。最前線で回復とか補助ができる水魔法使いがいたら便利でしょ? 言うなれば万能者オールラウンダー、っていうより全域活動者オールフィールダーかな?」

「す、すごいですね・・・」

「まぁさきねぇについていこうと思えばこの程度はできないとね。足手まといになっちゃうから。」

「思ってたよりも大変なんですね・・・」


 まぁ世間的にはさきねぇの影に隠れてるイメージしかないだろうしな、俺。


「さて、じゃあ俺の≪聖杯水アクアホーリー≫でも飲んで小休憩とったら授業をはじめようか。」

「はい!」


 二人に≪聖杯水≫を注いだコップを渡すとゴクゴクと飲み干す。

 笑顔で美味しい美味しいと飲まれると嬉しくなっちゃうね。

 冒険者引退したら本当に飲食業でもやろうかしら。


<ギャァァァァァァ!


「「!?」」


 遠くから悲鳴が聞こえ、二人がビックリする。

 始まったか・・・


「よし、じゃあ授業に入ろうか。まずはここにある魔物図鑑で「ヒイロ先生!待ってください!」・・・何?」

「何って、今すごい悲鳴が聞こえましたよ!?」

「だろうねぇ。」

「だろうねって・・・」


 二人が信じられないものを見るような目つきで俺を見る。


「あのね、言っておくけど、うちのお姉さまは天才なの。しかも天才の中の天才。選ばれし者なの。いわば俺とかみたいな凡人とは種族が違うと言っても過言ではないのよ。」

「は、はぁ・・・」


<キャァァァァァ!


「わかりやすくいえばオーガと人間の子供くらい違うのよ。人間の子供がオーガに軽く撫でられたらどうなる?」

「し、死にます。」

「でしょ? でもオーガにはなんで軽く撫でただけで死ぬのかわかんないのよ。つまり・・・」


<タスケテェェェェェェ!


「ひよっこどもがさきねぇの戦闘訓練なんか受けたら死ぬに決まってんじゃんって話。HAHAHA!」

「と、止めないんですか!?」

「止める必要ある? 今さきねぇのとこにいるルーキーたちは見通しが甘かった、それだけの話よ。君たちが森で死に掛けたのと同じ。」

「「・・・・・・」」


<オカアサァァァァァン!


「君らは運がいいね。この前も死ななかったし、今回も死ななかったんだから。ちゃんと色んなことを学習・・すればいい冒険者になれるよ。じゃあ席について~」

「「・・・・・・」」


 真っ青な顔で席に着く二人。


「大丈夫、俺は凡人だからちゃんとわきまえてるよ。まずは学ぶ。そして実戦。そしたら反省と復習・・・の繰り返しさ。ちゃんとついてきてね。質問も受け付けるのでわからないことがあったら遠慮なく挙手をしてください。わかったかな?」

「「はい!!」」


 背筋ピーンとなってるな。

 怖がられてる? まさかね。




「よし、今日はこのくらいで終わります。明日は草原で敵の観察と自分の動きの最適化です。以上。」

「「ありがとうございました!」」


 アルゼン近辺の魔物の学習と二人の動きの悪い癖を修正して今日の授業を終える。

 ・・・ふぅ。なんとかこなせたかな。

 こんなことなら塾講師のアルバイトでもしときゃよかったな。


「ヒロー!そっちも終わったー?」

「お、さきねぇ。お疲れ様。」

「はい、お疲れ様でした。」


 二人で頭を下げあう。


「どうでしたか、ムラサキ先生の生徒は。」

「いやー問題児ばっかりで困ったものですよ。ヒイロ先生は?」

「こっちは生徒が少なくて困りましたよ。ムラサキ先生が羨ましい。」

「多いと多いで大変ですよ。」

「「わっはっはっは!」」


 二人で新任教師ごっこをする。

 俺たち姉弟は以心伝心なので、何も言わなくても唐突にお芝居が始まるのだ。


「さて、んじゃ帰ろうか。明日の準備もあるし。」

「私は何もないっぽいけど、一緒に帰りましょ。」


 二人仲良く手を繋いでギルドを出る。

 後ろから『死にかけてる大量の冒険者がー!』というマリーシアさんの叫び声が聞こえたが、気にしない!




 その後、俺が冒険者の常識や魔物の知識、果ては冒険者や住民との付き合い方まで叩き込んだラミアちゃんとガイくんは、異例ではないがなかなかの早さでE級へ昇格した。

 ラムサスさんはこれでイケルと判断し、俺の授業方式をマニュアル化。

 特別クエストの優先権やさきねぇとの握手権などを報酬にし、先輩冒険者が後輩を指導する制度を取り入れた。

 この制度は、俺が生徒に懇切丁寧に教える姿がまるで子猫を育てる親猫のようだという理由で『親猫・子猫制度』と呼ばれることとなり、アルゼンへ定着していくことになる。

 その後、俺のあだ名に『初代親猫』や『黒猫先生』が追加されることになるのだが、今の俺には知る由もなかった。

 そして、多くのルーキーに多大なトラウマを植え付けたさきねぇに講師の依頼が来ることは二度と無かったとさ。

 ちゃんちゃん。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。


今回の親猫・子猫制度が外伝時でヒロくんの二つ名が浸透していない理由です。

「〝該博深淵ライブラリ〟? 誰それ? ああ、黒猫さんね」「猫の人でしょ?」

みたいな感じです(笑)

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