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完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   作者: ヴァンドール


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9話

 私はその後、別宅に戻り昨日のお掃除の続きを始めました。

 まずは寝具のお洗濯をし、お料理も直ぐに出来るように片付けました。

 そうしていると、あっという間に辺りは暗くなっていたので今朝、市場で買ったお野菜や調味料などを使いスープを作り、頂いたパンと合わせて夕食にしました。

 幸いここでの暮らしは、お掃除さえすれば生活に必要な物は一通り揃っていました。


 さあ、明日からは新しい生活が始まるわ、私は自分に気合いを入れてから用意しておいたお湯で湯浴みをして眠りについたのでした。


 そして次の日の朝、目が覚めると昨夜の残りのスープとパンで朝食を取り、パン屋さんへと向かいました。

 そういえば本宅からは何も言ってきませんね。やはり忘れられてる様ですね。でしたら、このまま働いても問題は無さそうですね。


 パン屋さんに着くと早速新しいエプロンを渡され、女将さんに一から接客の仕方や、パンの並べ方などを教わりました。

 そしてそんな中で、私は女将さんにパンの値段も覚えた方が良いのか聞くと、女将さんに驚いたように聞かれました。


「アンジュちゃん、もしかしてあんた、計算とか出来るのかい?」 


「はい、多分一通りは出来ると思います」


 そう答えたらとっても驚かれていた。

 そういえば、一応男爵家とはいえ貴族の端くれ、学園にも通わせて貰っていたので、読み書きや計算、マナーなどは学んできたのです。


 この当時は確かに平民の識字率はとても低く、学べる場所は殆どありませんでした。

 女将さんはニッコリと笑ってらした。


「どうやらアンジュちゃんは訳有りのようだね、初めて会った時から普通の平民とは違う気はしてたんだけどね」

 

 それでも深くは詮索されずに却って、何でもこなしてくれるから助かるよと言ってくれました。


 その後、半月程してから女将さんは産気付かれて、すぐ近くにある自宅へと戻りました。

 自宅には女将さんのお母様が手伝いに来てくれているそうです。


 その後、二日掛かって漸く元気な可愛い女の子が産まれました。

 しかし、かなりの難産だったので予定より長く、自宅で休まなければならないということです。

 それなので、私は当初の約束よりも長く働けることになりました。

 お優しいご主人は暇さえあれば女将さんの元へ顔を出しています。


ーーーー


 その後、働いていくうちに、私はふと、学園で読んでいた本の中にあったアップルパイを、料理人のブルボンに頼んで一緒に作った事を思い出していました。

 私はそれとなく、ご主人に提案してみました。


「こちらのお店のパイ生地はとても美味しいので、いつものミートの代わりに、りんごを砂糖で煮た物をいれたらデザートとして美味しく頂けるのではないですか?」


「そうか、それは確かに試してみたいな」 


 そして私は、ブルボンと試行錯誤しながら割り出したりんごを煮込む時間や、砂糖の量などを思い出しながらご主人にそれを伝えました。


 初めて焼き上がったアップルパイを、いよいよ二人で試食しました。ご主人はまず一口頬張りました。


「これはいける、早速商品として売り出そう」


 そう言ってからご主人は、そのアップルパイを持って女将さんに直ぐに食べさせてあげたいと自宅へと駆け出して行ったのでした。


 そんなお姿がとても微笑ましく思え『ああ本当に奥様を愛しておられるのだわ』と、とても羨ましく思いました。

 いつの日か、私にもそんな方ができたらいいのにと、叶わない夢を抱いてしまいました。

 『存在すら忘れられているこの私が、可笑しな望みだわ』と思わず苦笑してしまいました。

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