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完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   作者: ヴァンドール


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38/42

38話

 読書を終えて外に出ると、教会前の道、その向こう側に停まった馬車が見えます。

 そして、窓越しに旦那様の姿がありました。


 私は少し驚きながら近づき


「いつからそちらに?」


 と尋ねると、旦那様はビクッと驚き


「ちょ、ちょうど今着いたところだ」


 旦那様は驚きを隠し、何事もないように答えましたが、御者の方を見ると、馬から離れてベンチで寛いでいます。


 ? 本当に今なのかしら?

 もしかして、ずっと前から?


 そう思ったけれど、胸に浮かんだ予感を言葉にするのは、なんとなく躊躇われたので、私はただ小さく微笑んで、馬車へと乗り込りこもうとすると旦那様は


「読者はもういいのか? まだ時間はあるのだから読んでいて構わない」


「いえ、もう暗くて読めません。それより早く帰りましょう」


 それなのに旦那様は中々馬車を出そうとしない。どうしたのかしら? もう一度、声をかけてみました。


「旦那様、早く帰りましょう」


 すると渋々といった感じで御者さんを呼びましたが、何だか旦那様の様子がおかしい。落ち着かないというか、やたらと時間を気にしているというか、どうしたのかしら? 気にはなりましたが、私は戻って来た御者さんにお願いしました。


「すぐに、馬車を出してください」


 そう言うと、旦那様はとても慌てている様子です。この違和感は何かしら?


 旦那様は、どうしてそんなに焦っているのかしら?


 そんなことを考えていると、旦那様がふいに私の隣へ移動し、まるで壁のように私が見ていた方向の窓を(さえぎ)ったのです。


「え?」


 驚いて、旦那様の肩越しに、ほんのわずか開いた隙間から外を覗くと、そこには、夕暮れ色に包まれた通りの向こう側に、見慣れた四人家族の姿が見えました。


 女将さん、ご主人、そしてあの時生まれたばかりだった赤ちゃんに、その隣を、まだ幼い兄がちょこちょこと歩いています。


 私は懐かしさで胸がいっぱいになり、思わず大きな声で叫んでしまいました。


「御者さん、止めてください!」


 馬車が急に止まるや否や、私は外へ飛び出してしまったのです。

 後ろから旦那様が慌てて追いかけてくる気配がしましたが、私は女将さんのもとへ駆け寄りました。


「お会いできて嬉しいです。偶然通りかかったら、皆さんのお姿が見えたので」


 と声をかけました。すると女将さんは、相変わらずの明るい笑顔を向けてくださいます。


「アンジュちゃん、元気にしてたかい? 今日は久しぶりに家族で買い物に来たんだよ」


 なんだかとても幸せそうです。


「皆さんもお元気そうで安心しました。丁度いま、旦那様と帰宅するところです」


 そう言って、私は後ろに立つ旦那様を紹介しました。


 すると女将さんが、にこにこと目を細めながら挨拶をしてくれました。


「これは領主様。アンジュちゃんのこと、どうか幸せにしてやって下さいね」


 私も旦那様に紹介しました。


「こちら、私がお世話になっていたパン屋さんの女将さんです」


 ご主人には以前お店で会っているので省かせていただいた。


 旦那様は少し驚いたように瞬きをし、それから丁寧に会釈して下り


「ああ、此方こそ。妻が世話になった」


 私は皆さんに向かって


「またお店に遊びに行かせていただきますね」


 と言って、家族と別れました。


 馬車に戻ると、旦那様はどこか真剣な表情で尋ねてきたのです。


「君は、平気なのか?」


「何がでしょうか?」


「君は……あの店主と付き合っていたのではないのか?」


「は?」


 思わず、素っ頓狂な声が出てしまいました。


 どうやら旦那様は、とんでもない勘違いをされてるようだわ。


 そして、私は気付いてしまった。

 先に道で女将さんたちを見かけ、私が悲しまないようにと時間を稼ぎ、窓を塞ぐようにして外を見せまいとしたことに。


 胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じます。


「大変な勘違いをされていたようですね。でも……気遣ってくださったことは、嬉しく思います」


 と私が言うと、旦那様はどこか気まずそうに視線をそらされました。


 以前、ハンスさんの商会へ行った時、たまたまその時に、私とご主人が一緒にいた場面を見てしまい、それをずっと誤解していたと聞かされました。


 だからって、そんなところまで、気にしてくださっていたなんて。


 私はそっと、馬車の振動に揺られながら、隣に座る旦那様の気配を愛おしく感じるのでした。

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