21話
(執事ランカスター視点)
次の日、前回彼女が本宅を訪ねて来た時間と同じ位の時間だったら会えるのではと思い別宅を訪ねてみた。
案の定彼女は居たがこれから仕事に行くので時間が無いと言う。
だったらと仕事が終わってから時間を取ってもらえないかとお願いしたら、夕方の六時頃だったら戻っていると言うので、その頃またこちらに伺わせてもらう事にした。
そして、私一人で来て欲しいと言われてしまった。
そんなに旦那様に会いたく無いのか? と思ったが敢えて口にはしなかった。
そして本宅に戻り、その旨を旦那様に伝えたら、やはりそんなに私は嫌われているのだなと肩を落としていた。
それから私は執務を早めに終わらせて夕方の六時に備えた。
今日の旦那様は一日中落ち着かないご様子だ。無理も無いか。
そして私は時間通りに離れへと向かった。
するとご自分で作られたという焼き菓子と、紅茶を用意して待っていてくれた。
せっかく用意をしてくれたのだからと一口頂いたのだが、これがすごく美味しい。それをお伝えすると良かったら沢山焼いたので帰りにお持ち下さいと言ってくれた。
それから私は、ついに本題へと踏み込んだ。
まず、旦那様のご両親の複雑な関係、そのうえ同じ敷地に住まわせていた大旦那様の愛人の存在。
その環境が旦那様にどれほどの影を落としていたか。そして、その経験ゆえに結婚そのものへ嫌悪感を抱いてしまったこと。
さらに、半年ものあいだ砦で小競り合いが続き、屋敷へ戻ることすら叶わなかったこと。
その間、旦那様は当然『屋敷ではメイドが奥様のお世話をしているものと思っていた』こと。
しかし、帰還後にメイドたちから『指示がなかったので何もしませんでした』と聞かされ、旦那様が明らかに動揺していた様子。
メイドたちは皆この領地の平民で、言われたことには忠実だが、指示されていないことを勝手にしてはいけないと思い込んでいること。
せめて侍女だけでも手配すべきだったと旦那様が深く後悔していること。だが、ここは王都から遠く離れた最北の辺境で、来てくれる者すら見つからないという現実。
そして、砦から戻った旦那様は何度もこちらに足を運んでいたのに、来るたびに留守であったこと。時間があまりにも経ちすぎ、今では何を言っても言い訳にしか聞こえないのではと悩んでいること。
最後に、今さらお願いするのは誠に心苦しいが、三ヶ月後の陛下の生誕祭には夫婦で出席しなければならない。そのこともすべて、包み隠さず伝えた。
話を聞き終えた彼女は、しばらく静かに考え込んでいたが、やがて顔を上げて
「少し、お時間をいただいてもよろしいでしょうか」
そう言って席を立った。
ほどなくして奥のキッチンから戻ってきた彼女は、焼きたての香りが立つほど沢山の焼き菓子を載せた皿を差し出してきた。
「どうぞ皆さんで召し上がってください」
その一言に、私はこれは今日はもう帰れ、という意味だと悟った。
皿をそっと受け取り、静かに頭を下げて、本宅へと戻ることにした。




