20話
(辺境伯エリック視点)
私が視察から戻るとランカスターが慌ててやって来た。
「今日離れから奥様がいらして旦那様に言付けを預かっています」
と、告げにきた。そして彼女の言葉を聞かされた。
彼女はかなり怒っている様だったという。
それは当たり前のことだ、半年以上放って置かれたのだから。
普通ならとっくに出て行く筈だがそうか、今更帰っても実家には居場所がないのか、そこまでは考えが及ばなかった。
私の母はあっさり実家に戻って行ったが確かに母の実家は侯爵家でそれもかなり裕福だからな。可哀想な事をしてしまった。
これからどうすべきか? お金も受け取らなかったのか。さて、私はどうしたものかと考えを巡らせた。
それからしばらく、あれこれ考えてみても結局どうしたらいいのかわからないまま、時間だけが虚しく過ぎていった。
その間、何度か会いに行こうとも思ったが、今さら何を言っても、きっと言い訳にしか聞こえないだろう。
そんな折、王宮から陛下の生誕祭の招待状が届いた。
三ヶ月後に行われる式典で、しかも夫婦同伴で、とのことだった。
陛下も余計なことをしてくださる。もしかして、本当に結婚しているのか確かめたいだけではないのか。今は砦の情勢もすっかり落ち着いている以上、断る理由も見当たらない。
『まさか、今さら彼女に頼むわけにもいかないよな。そもそも、まだ一度も顔を合わせていないのだし』
思わず独り言が漏れる。
仕方なく、まずはランカスターに相談してみることにした。
するとランカスターは
「彼女にお会いして、旦那様がたいへんお困りだとお伝えして、涙ながらにお願いしてみてはいかがでしょう」
いわゆる泣き落とし作戦を提案してきた。
今まで散々迷惑をかけておいて、そんな手が通じるものなのかとも思ったが、他に妙案も浮かばない。
結局私は、その一縷の望みに賭けてみることにした。




