19話
7月10日より毎日6話ずつ投稿させていただいています。7月16日に完結します。
私は翌朝、テーブルに置かれていたお金を持って本宅へと向かうことにしました。
そして執事のランカスターさんを呼んでもらいました。
ランカスターさんは私を見ると、とても驚いた顔をなさっています。
「旦那様と何度か、別宅の方へお訪ねてしたのですが中々お会い出来なかったものですから、昨日は黙ってお部屋に入ってしまい申し訳ありませんでした」
私は意識して淡々とした表情を作った。
「いえ、それは構いません、元々あの別宅はそちらの所有の物なのですから」
そう言ってから、それより私はここへ来た理由を話しました。
取り敢えずお金はお返し致します、今は領地で働いているので生活は何とかなっていますと、そして働き先には自分の身分は伏せているのでご迷惑はお掛けしません。
あと今更実家に帰っても居場所が無いので住まいだけはこのまま使わせて欲しい事、そして旦那様が何をなさろうとも私は一切口は出さない事、それらを旦那様に伝えて欲しいと告げました。
するとランカスターさんはすまなさそうなお顔をなさった。
「旦那様は今、領地の視察で留守にしておりますので、お戻りになり次第、別宅へ伺うようお伝えいたします」
けれど私は首を振り、少しきつめの言い方をしました。
「いえ、それは結構です。今申し上げたことだけお伝えください」
そう言ったあと、少しだけ皮肉を滲ませて続けました。
「仕事をしていることを責められては困ります。ご承知のように、実家から援助は受けられませんので、生きていくためには働かなければいけませんでした」
ランカスターさんは困ったように眉を下げたが、私は深く頭を下げ、静かに本宅を後にした。
流石に、私の言い方がきつかったせいかランカスターさんはあたふたしながら何も口を挟めずにいました。
それよりも旦那様が居なくて本当に良かったわ、居たらあそこまできちんと本心を言えなかったかもしれないと胸を撫で下ろし、さあ、これで堂々と仕事が出来るわ、と私は張り切っていました。




