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【完結】勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。  作者: 八木愛里
第二部 修道院潜入編

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52 修道院長の正体

 修道院長は他の修道女たちとは違って、ソニアに操られていないようだ。ハッキリとした口調だし、むやみに襲いかかって来ない。

 それにいち早く気づいて、第一王子は冷静を保っているのだろうか。

 

 と、おもむろに第一王子は頭巾を脱いだ。

 えっ? どうして!

 それを私が止めようとしても間に合わなかった。

 

「え、待って、ちょっと……!」

 

 第一王子の短髪を見た修道院長の目はギラリと輝く。

 

 何を考えているの!? 男だって自分からバラしに行くようなものじゃない! 不審者だって捕まるに決まってるわ! ありえない!

 

 私の不安はよそに、なんと修道院長は尊敬と服従を示す、深いお辞儀をしたのである。


「修道院長のミランダ・ファトマだな」

「はい。先程は不躾な態度をとって申し訳ございませんでした。ルイ第一王子殿下とロザリーさまであらせられますね」

「そうだ」


 第一王子と修道院長との間で着々と話が進んでいくのに付いていけない。

 え? 私たちの正体も知っていたの!?

 

 最初の攻撃的な態度はなりを潜めて、丁寧な言葉遣いで落ち着いた雰囲気を漂わせてまるで別人のようだ。

 驚いて何も言えないでいる私に、第一王子が「安心しろ、味方だ」と言った。

 ソニアの手下だと思っていたのに、まさかの味方ですか!? それは嬉しいけれど……。


「あの……こう言ってはおかしいですが、どうして修道院長さまはソニアに操られていないのですか?」


 私は思わず聞いた。

 魔獣の手に堕ちたソニアによって、特別な力のあるライザを除いて修道女たちは全滅したのである。操られなかったとしても、体に不調が現れてもおかしくない。それなのに……。


「こちらの方は前神官副長を務めたこともある実力者だ。公にはなっていないが。あらかじめソニアを修道院に送るにあたって、念のため対抗できる人物のいる場所……と考慮された」

 

 私の疑問に、第一王子が詳しく答えてくれた。

 修道院長は「ああ、それとね……」と情報を付け加える。

 

「修道院長のポストにしがみつく中年女性を演じていたら、ソニアは怯えたふりをする私の演技が面白かったみたいで操りの魔法はかけられなかったの。『お前はあえてそのままにしておこう』と言われたわ。人の恐怖心を喜ぶなんて、趣味の悪い魔獣だこと」

 

 修道院長は片目をつぶった。チャーミングなところもある女性らしい。

 

「毒の混入の件は、ロザリーさまが犯人でないと分かっていましたが、ソニアの都合の良い手下を演じるには言いなりになるしかありませんでした。ご迷惑をかけて大変申し訳ございませんでした」

 

 種明かしをした修道院長は深く頭を下げて謝罪する。そう言うことだったのだ。

 ま、周りに頼れる味方がいなければ、ひとまずは従うしかないわよね。もし逆らったりしたら、修道院長の命が危ぶまれるし。

 

「修道院長さまが従わなかったとしても、他の誰かが犠牲になっていました。修道院長さまが悪いとは思いません」

「ロザリーさまの寛大な心とご慈悲のお言葉に感謝いたします」


 私の許しを受け取った修道院長はスッと胸の上に手を組み合わせた。


「では、今の状況を聞かせてもらおうか」


 と、第一王子に話を振られた修道院長は報告し始めた。


「修道女は皆、ソニアに操られております。ロザリーさまが浄化して眠らせた修道女は、残念ながら目を覚ましてもすぐに操り人形に戻るでしょう。ソニアは何者かに浄化された修道女がいると勘付いて、私に様子を見てくるように言ってきました。時間がありません。すぐに大魔法使いさまの救出へ向かいましょう」


 ソニアは侵入した私たちのことを既に知ってるの? 来たのがたまたま味方だったから助かったけど、多少の時間稼ぎができただけだ。修道女が集団になって襲いかかってくるのも時間の問題。それはマズい。


 まさしく第一王子のよく言う「悠長にしている暇はない」。


「大魔法使いさまのいるところへご案内します。暗いので足元に気をつけて」

「お願いします」

「ああ」


 修道院長に案内されて、地下牢へ続く階段を下り始めた。

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