婚約披露パーティーー姫君ー
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「さて、俺が続けて踊るわけにはいかねぇし、どうする?」
「先生はシード公爵とお話ししてるみたいだし、クレア達とお料理でも食べてましょうかねぇ」
「あら、私とは踊ってくれないの?」
低く涼やかな声がして振り返ると、黒地に赤い宝石を散りばめた正装に身を包み、前髪を上げてセットした麗しのオネエ、レオンティウス様がこちらを見ていた。
「わぁ……今日も色気ムンムンですねぇ、レオンティウス様!!」
「あら、ありがとう。あなたも綺麗よ、ヒメ」
ふふっと笑ってから私の髪飾りに触れるレオンティウス様。
「これも素敵ね。聖域に作ってたあの花──桜、だったかしら?」
「はい!! うへへへ」
「綺麗な格好して気持ち悪い笑い方しないのっ!!」
言いながらレオンティウス様がニマニマと笑いの止まらない私の頬をグニッとつねる。
「あうっ!! だって仕方ないじゃないですかぁ!! 愛しのマイダーリン、クロスフォード先生がカナレア祭の最終日イベントにちなんで私にくださったんですから!!」
「「シリルが!?」」
私がドヤ顔で胸を張ると、レイヴンとレオンティウス様の声が綺麗にハモった。
「あんた達、それで何もない関係だなんて……おかしくない?」
ボソボソとレオンティウス様がぼやく。
「まぁいいわ。ヒメ、一曲つきあってちょうだい」
そう言って私に手を差し出すレオンティウス様に、私は自分の手を重ねて笑った。
「はい!! よろしくお願いします」
────
ゆったりとした曲が流れ始め、私の腰をレオンティウス様の手が支える。
「なんだか、ヒメとこうしてゆっくりするのは久しぶりね」
「そうですねぇ。最近レオンティウス様、すごく忙しそうだから……。ちゃんと食べてますか?」
もともとほっそりとした人だけれど、それよりもさらに痩せたような気がする。
「あら、心配してくれるの? ありがとう。でも平気よ。少なくとも、シリルよりは食べてるし、寝てると思うわ」
うん、あれはもう別次元だと思う……。
「そういえば……、レオンティウス様、セイレのお姫様ってどんな人かご存知ですか?」
「!!」
私がたずねると、腰に回されているレオンティウス様の手が一瞬だけぴくりと跳ね、表情が強張った。
「……どこでそれを?」
「先生が……お姫様と婚約予定だったって。レイヴンに聞いたら、レオンティウス様の方が詳しいって聞いて……」
明らかに様子のおかしいレオンティウス様に、私は聞いてよかったものかと少しばかり不安になる。
「そう……。そうね、姫君のことは、よく知っているわ。彼女は私の従妹だもの。私の父の妹が、姫君のお母様──つまり王妃様でね。昔はよく遊んだわ」
懐かしそうに、愛おしそうに、でも少しだけ寂しげにそのサファイア色の瞳を細めるレオンティウス様。
「大切な方だったんですね、レオンティウス様にとって」
「えぇ、とっても。……私ね、魔力がほとんどないのよ。貴族の……しかも3代公爵家の長男のくせに」
「え?」
確か貴族はみんな、魔法の素質が高いって聞いた。
そんな中で魔力がほとんどないなんて、私が想像するよりもずっと大変な幼少期だったんだろう。
「貴族のくせに、って一人で悩んでたらね、三歳になったばかりのあの子がこう言ったのよ。“まほうが使えないならけんを使えばいいじゃない”って。それから体術や剣術をしっかりと学んで強くなった。彼女はね、私の希望で……初恋の人なのよ」
穏やかに笑いながら、曲に合わせて私をくるりとターンさせる。
そういえば、いつだったか言っていた。
“その子は死んじゃったんだけど、残念ながら、今も忘れられないのよ”
困ったように笑ったあの時の表情が思い出される。
初恋の人が忘れられないって。
あれ、エリーゼのことじゃなかったんだ……。
「どんな方だったんですか? そのお姫様って」
「姫君? そうねぇ……ものすごく可愛い子だったわね。黒髪に大きな赤い瞳。3歳のくせにもう大人のようなことを言い、国民のことを1番に考える、誰よりも王にふさわしくて、それでいてとても優しい子だったわ。……少し、ヒメに似てた」
苦しそうに笑うレオンティウス様。
ドクン──ドクン──。
鼓動が深くはずむ。
私の中の奥深くに【ナニカ】がいるみたい。
ドクンドクンドクン──。
いや……やめて……。
私の中の【ナニカ】の音を、私が拒絶する。
ズキン──ズキン──。
頭が痛い。
私は──違う!!
それは私じゃ──ない!!
「ヒメ? 大丈夫?」
レオンティウス様の声で我にかえる。
「あ……ごめんない。……大丈夫です」
私は震える唇から、なんとか言葉を返すと、できるだけ自然に見えるように笑った。
「そう?」
音楽が終わりに近づくにつれ、徐々にテンポが上がる。
喋っている余裕がなくなり、私は必死にレオンティウス様のリードについていった。
くるくるくるくると回って、目が回って来た頃、音楽はやっと終わりを迎えた。
「ゼェ……ゼェ……」
息を切らしながらもなんとか持ち堪えた私に、レオンティウス様は苦笑いをして「頑張ったわね、えらいえらい」と頭を撫でた。
なんでこの人、息一つ切らしてないの!?
さすがは麗しのオネエだ。
ジオルド君の地獄のダンスレッスンを受けていなかったら、多分最後まで踊り切ることはできなかっただろうなぁ。
私はレオンティウス様に支えられながら、ヨロヨロと皆の元へとかえって行った。
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