婚約披露パーティーーファーストダンスー
「ヒメ、一緒に踊ろうぜ」
そう言って手を差し出すレイヴン。
踊るのはいいのだけれど、普通はファーストダンスはパートナーと踊るものだし……。
でも先生のことだからダンスはしなさそうだし……。
どう返すか困ったように笑いながら考えていると──。
「これは私のパートナーだ。ファーストダンスはすでに決まっている」
「!!」
そう言って先生が私の手を引いて自身のそばに引き寄せた。
え!?
なに!?
先生、踊ってくれるの!?
「お前が女と踊るのか!?」
驚くレイヴン。
いやほんとだよ!!
私もそう思ったよ!!
私とレイヴンが驚愕の表情で先生を見ていると、先生は眉間の皺を深くする。
「…………パートナーとぐらいは踊る」
と、むすっとした表情で返す先生がなんだか可愛くて、私はふふっと笑ってから、レイヴンに向き直った。
「そういうことみたいなので、ファーストダンスの後、お相手してください」
未だ繋がれた手に力を込め、ぎゅっと握りしめる。
「へいへい、じゃ、後でな」
ツンツン跳ねた自分の髪をガシガシと掻いてそう言うと、レイヴンは未だ食べ続けるクレア達の元へと歩いて行った。
「私たちも踊りましょうか、ラウル様」
「そうですね」
メルヴィとラウルが微笑み合い、ホールの中央へと揃って向かう。
「いくぞ、カンザキ」
「は、はい!!」
私も先生に連れられ、ホールの中央へと足を進めた。
楽団の生演奏で、優雅な音楽が会場いっぱいに響き渡る。
この曲は何度もジオルド君と練習した曲だ。
ただ今日は、相手が違う。
私の大好きな人とのファーストダンス。
「私と、踊ってくれますか?」
先生が手を差し出しながらかしこまったように私にたずねて、私は少し緊張しながらも「はい、もちろんです」と答えると、黒い手袋で覆われた大きなその手の上に自分のそれを重ねた。
────
くるり──くるり──
ドレスの裾を翻しながら、私は先生のアイスブルーの瞳をじっと見つめながら踊る。
「ほぉ、上手いじゃないか」
「ジオルド君のおかげでなんとか。それに、先生のリードもお上手なので、とっても踊りやすいです」
「そう……なのか? 私は幼い頃ベルにダンスを習ったきりで……エスコートも人前で踊るのも初めてだからな。そう言ってもらえると助かる」
初めて!?
これでエスコートもダンスも初めてなんて……信じられない。
驚きと同時に、腰にまわされた先生の手がいつの日か自分以外の女性を抱くのを想像して、少しばかり胸が痛む。
それでも、いつかそんな日はやってくるから……。
せめて今だけは──。
「先生」
「ん?」
「今だけでいいです」
それはほんの少しのわがまま。
「私だけを──見ていてください」
今だけでいいから。
どうか私だけの先生でいて──。
「……何かと思えば……」
先生は呆れたように呟いてから続ける。
「もとよりそのつもりだ──」
腰に回された手に力が入り、ぐっ……と先ほどよりも先生の近くへと引き寄せられる私の身体。
「わっ……!!」
見上げればすぐ近くに彼の冬色の瞳。
「君も、今はただ、私だけを見ていなさい──」
「~~っ!! はいっ!!」
こうして私たちは二人、最後まで互いに目を逸らすことなくファーストダンスを楽しむのだった。




