5年目のカナレア祭ーカナリンちゃんの秘密ー
ブクマ、誤字脱字報告ありがとうございます!!
じっくり読んでいただけて嬉しいです!!
色とりどりの花が村を飾り、今年もその日がやってきた。
3日間を通して行われる、夏の実りを祈るカナレア祭。
5年前初めて来た時には、クレアの運命を変えなければという思いだけで来たこの村も、それから毎年来ていれば自然と落ち着くホームのように思えてくる。
「わぁ……今年も綺麗!!」
花を敷き詰めて作り上げたシンボルタワーが広場の真ん中にそびえ立ち、各家の玄関にはそれぞれ思い思いの花で作られたリースが飾られている。
さまざまな種類の花が街を彩り、人々の笑顔も咲き乱れ賑わいを見せる様子に、私の頬も自然と綻んでしまう。
このカナレア祭では老若男女問わず、身体のどこかしらに花をつけている人が多い。
2年目にクレアに案内してもらったときに説明を受けたのだけれど、この花を祭りの最終日に大切な人に渡すという風習があるのだそうだ。
恋人、家族、友人。
誰でもいい。
愛を込めて、感謝を込めて。
私は修行の予定もあるから最終日までいたことがないので無縁だけれど。
もしも先生と一緒にいられたなら、私はどんな花を彼に贈るだろうか?
毎年考えながらも、一向に答えは出ないまま時は過ぎていった。
「はっ!! あれに見ゆるはカナレア祭のマスコットキャラ【カナリンちゃん】!!」
丸い顔に縦巻きロールの金髪をなびかせ、頭のてっぺんに【セレニア】という黄色の小花がドンッと乗っかっているカナリンちゃん。
私イチ推しのマスコットキャラだ。
「カナリンちゃぁ〜〜〜ん!!」
私は狙いを定めると、勢いよくカナリンちゃんのダイナマイトボディに抱きついた。
「今年も可愛いですカナリンちゃん!!」
カナリンちゃんの大きくて丸いほっぺに頬擦りした──その時。
「おまっ!! くっつくなバカ!!」
「!?」
私は気負いよくカナリンちゃんから飛び退き、距離を取る。
今、カナリンちゃんから声が……!!
「ちょっと来い」
聞き覚えのあるような気がする男の声と共にカナリンちゃんに手を引かれ、私は路地裏に連れて行かれた。
薄暗いながらも綺麗に掃除のされた路地裏に入ると、カナリンちゃんは頭部に手をかけ、スポッとそれを外した。
現れたのは見覚えのある焦茶色の髪。
「アステル!?」
カナリンちゃんの頭部にアステルの頭部が存在するという奇妙な光景に、私は口を開けたまま固まった。
「お前な。何でもかんでも抱きつくな。中身が危ないおっさんだったらどうするんだよ!!」
顔は呆れ顔のアステルなのに体は腕を組みたいけれど組むことのできない短い腕のカナリンちゃんと言うアンバランスな光景に私の顔も引き攣る。
「マスコットキャラの中身なんか誰も想像しませんもん!! 子ども達の夢を壊さないでくださいーっ!!」
私はカナリンちゃんの丸いお腹にすがって喚く。
あぁ、こんなにもお腹はカナリンちゃんなのに。
なんで顔はアステルなの……。
「で、アステルは何してるんですか?」
不貞腐れながら私は尋ねる。
「あぁ、俺は手伝いだよ。人手が足りなくてな。三日間交代でこいつの中身だ。よろしくな」
ニカッと爽やかな笑顔で言われても困る。
「知りたくなかった……。私の推しマスコットを返して……」
思わず崩れ落ちる私に、アステルは頭をポリポリと掻いて「お前、ちょっと待ってろこれから交代だから」と言って、またカナリンちゃんの頭部を装着すると走って路地裏から出ていった。
カナリンちゃんの頭が取れるとか、そんな現実見たくはなかった。
中身アステルだとか……おっさんだとか……そんなの知りたくなかった。
私の年に一度の楽しみが……!!
しばらくすると生身のアステルが戻ってきて「行くぞ」と言って私の手を取って、路地裏から出てカラフルな村の中心へと戻った。
「アステル、どこにいくんですか?」
繋がれた手をそっとほどきながら私がたずねると「クレアんとこ。家の手伝いしてるって言ってたから、冷やかしに行こうぜ」と言ってアステルはズンズン歩き出した。
着ぐるみの中身は魔境です。。。




