神殿と孤児院
本日は12時頃にも更新予定です。
秋も深まり冬の入口に差し掛かった頃。
私とクロスフォード先生は今、コルト村の近くにある神殿にお邪魔している。
神殿で保護されているクレアの様子を見に来たのだ。
クレアのところに行きたいと言った私に、特に反対することもなく「私も行こう。護衛として」と言ってくれた先生。
ということで今日は先生は私専属の護衛騎士だ。
最近こんなに幸せでいいのだろうか。
「ごめんくださーい」
私は石造りのどっしりとした神殿の入口に立ち、大声で叫ぶ。
「はーい。って……ヒメじゃない。どうしたのよ?」
パタパタと走って出迎えてくれたのは、神殿で保護されている聖女のクレア。
私の友達で、マメプリのヒロインだ。
「モミ子。お久しぶりです。今日はモミ子に会いに来ました。元気そうで何よりです」
そう言って私はクレアにぎゅっと抱きつく。
「モミ子言うな! あんたねぇ、流石に突然すぎでしょ」
呆れるクレアにえへへ、と笑って誤魔化すと
「ほっほっほ。クレア、クロスフォード騎士団長から知らせは受けておるよ」
しゃがれた笑い声が近づいてきて、奥から白く長い髭を蓄えたおじいさんが現れた。
「大司教。世話になる」
先生が無表情で礼を取る。
この人が各神殿のトップである大司教様……。
私はすぐにカーテシーをし「初めまして、ヒメ・カンザキです」と挨拶をする。
「おぉ、あなたがクロスフォード騎士団長の秘蔵っ子ですか。わしは神殿を統括する大司教を務めております。ガレア・セントブロウと申しますじゃ」
小さなビー玉のようなキラキラとした目がにこりと細められる。
「大司教は普段は王城圏の神殿にいる。また会うこともあるだろう」
王城圏、なんでもあるな。
「今日は神殿に併設されてる孤児院の様子を見に来てくださったのよ」
クレアが言う。
「こじいん?」
「えぇ。なんらかの事情で親がいない子ども達を、18歳までは各神殿併設の孤児院で面倒見てんのよ」
児童福祉施設のような場所か。
それを聞いた私はすぐにクレアの両手を取り
「行きたいです。クレア、案内してください」
と願い出た。
「はぁ? あんた何を……」
「クレア、案内して差し上げなさい」
ガレア様が静かに言って
「うっ……、わかりました」
クレアが渋々頷く。
「ではわしはこれで。クロスフォード騎士団長。また会議でお会いしよう」
「あぁ。また」
ガレア様と先生は短く挨拶をして、彼はその場から転移してどこかへ消えた。
転移の瞬間、そのビー玉のような瞳は私を見て優しく笑っていた。
────
「ここよ」
クレアに連れられてやって来た孤児院は、神殿のすぐ裏手に存在した。
こじんまりとはしているものの、きれいに整えられた芝生のある庭と遊具まで揃っていて、とても素敵な施設のようだ。
庭では8人の子ども達がそれぞれ遊びに興じている。
「ここの神殿の神官達が面倒を見ているの」
クレアが子ども達を見つめながら説明する。
「神官?」
「えぇ。数少ないヒーラー達が、神官として神殿で保護されながら暮らしてるのよ。だから中央の王城圏、そしてそこから東西南北に1箇所ずつ神殿が建てられてて、怪我や病気の時は各支部の神殿に治療をお願いするの」
あんたほんとに何もしらないのねぇ、とこぼしながらも丁寧に説明してくれるクレアはやっぱりツンデレだ。
「騎士団の医務室勤務のヒーラーも、王城圏の神殿から通いで職務にあたっている。神殿は、王族の加護があり、外部の敵意から守られている。だから希少なヒーラーを守るにも適しているし、有事の際は民間人は神殿へ避難することになっている」
先生が補足する。
完全なるシェルターのような神殿に児童養護施設のような場所を併設させている。
子ども達を有事の際に1番に守ることのできる仕組みだろう。
「ここでは神官達が交代で勉強も教えているわ」
「へぇ、すごいですね」
「えぇ。前国王陛下が孤児院をきちんと整備してくださったおかげよ。食べ物も前国王陛下のお知恵で、劇的に進化したそうよ」
進化しきれていないのがあのよくわからない食べ物達か、と私は一人思い出す。
「クレア、その人だぁれ?」
クレアと話していると、茶色の髪の毛を両サイドで括った一人の女の子が駆け寄ってきた。
「ミリィ。この子は私の……友達、よ」
少し顔を赤らめながらクレアが言う。
友達。
クレアが放ったその言葉に、心がほっこりと暖かくなる。
「ヒメ・カンザキです。よろしくお願いしますね」
少し屈んで女の子の目線に合わせると、彼女はまるで花が咲いたように大輪の笑顔を咲かせて「私ミリィ。5歳よ!! よろしくね、ヒメ」と私の手を取った。
とても元気なミリィに、私は元の世界の小さな子ども達を思い出す。
元気に……しているだろうか?
「ねぇねぇ、クレアもヒメも、一緒に遊ぼ!!」
そう言ってミリィは私とクレアの腕を引っ張って、庭へと連れてきた。
庭の一角の大きな木のローテーブルの上には、たくさんの動物のぬいぐるみが散乱している。
「ミリィ、先生達にお話読んでもらおうと思ってたんだけど、皆忙しそうだから、一人でお人形遊びしてたの」
うさぎのぬいぐるみをくいくいと動かしながらミリィが言う。
それを聞いて、私はあることを閃いた。
「ミリィ、このぬいぐるみさん達、ちょっと私に貸してくれる?」
ニヤリと笑って、私はクマのぬいぐるみを一つ手にとる。
「うん、いいよ」
「ありがとう」
私はクマのぬいぐるみとうさぎのぬいぐるみを手に取り、変身魔法をかける。
するとみるみるうちに動物だったぬいぐるみは、金髪のお姫様と王子様の人形へと変化した。
「わぁ!! すごーい!! お姫様と王子様だぁ!」
目を輝かせて前のめりになるミリィ。
「あんた、本当にすごいわね」
クレアも目をまん丸にして人形をマジマジと見ている。
「ふっふっふ。絵本ではないですが、これならできます」
私が両手の指をくるくる動かすと、人形もその通りにくるくると回り、お辞儀をする。
「さぁさぁ、ヒメちゃんの人形劇の始まり始まり〜」




