四 決戦の結末
「お母様!」
「プリアンナ……、よく元気で帰ってきたわね。私を助けてくれてありがとう。ヴァレリアもおかえり」
プリアンナとアントニオ女王は抱き合い、涙ぐんで再会を喜ぶ。
ヴァレリアも傍に立ち、その様子を微笑ましく眺めた。
親子が再会できたのは約二十日ぶり、短いようで長い日々だったと思う。
「まあ、再会には少し騒がし過ぎる日だったと思うけれどね」
「それにしても皆さん何ごともなくて何よりですね」
オーロラの言う通りだ。
一難去ってまた一難とはこのことで、先ほどは非常に危なかった。その難局を乗りきれたのは、この場の全員のおかげ。
「ありがとう。いつもいつも助かりっぱなしだわ」
「それはお互い様だよ。僕は君を助けられて嬉しいんだ」
「ベルも! ベルもそうなの! レリアとベルは友だちなの。助け合うのが当然なの」
柔らかに笑うトビーと、碧眼をきらきらと光らせながら叫ぶベル。
――二人、いや、皆の優しさが嬉しいばかりだ。
しかし、まだ残っている問題がある。
「あのっ、ヴァレリア姫様っ、この娘、どうするのっ」
藍色の人魚がそう言って指差すのは、王の間の隅でうずくまる人影。……魚人の女、キャメロン・イルマーレである。
彼女は激しく嗚咽し、泣き喚いていた。
ヴァレリアがそっと歩み寄ると、キャメロンはのっそりと顔を上げる。そしてこちらを鋭く睨みつけた。
「ああっ、ああ……。負けた。負けた負けた負けてしまった。ワタシは父さんの願いも叶えられずに復讐もできずに。ああ、ああ。アナタが憎い。アナタが、恨めしい。どっか行ってよ、赤い人魚めが……」
掠れたその声はあまりにも弱々しくて、頼りなかった。
あれほどみなぎっていた殺意はどこへやら、跡形すら感じられない。正気の消えた菫色の瞳に見つめられ、ヴァレリアは彼女を哀れに思った。
そしてその瞬間、赤い人魚姫は決意し、灰色の魚人姫へと語りかけはじめた。
「私の名前はヴァレリア・イルマーレよ。これからは名前で呼んでちょうだい。……そうね、あなたの言う通り、あなたは負けたわ。でも何もかもが終わったわけじゃない」
「で、でも、アナタはワタシを許さないんでしょう、殺すんでしょう!? おしまい。全部全部、おしまいなのよ……!」
「いいえ、おしまいじゃないわ! 何だって諦めちゃだめ! 何も終わってなんかいないのよ! 下を向かないで、前を見るの!」
諦めたらだめだ。ヴァレリアはそう、仲間たちに教えられてきた。
だから、キャメロンにも、諦めるなと叫ぶ。
「じゃあ、何があるっていうの。ワタシは女王になれなかった。後は裁かれて殺されるだけなのに、何を望めばいいの……?」
醜い口を歪めて、キャメロンがそう問うてくる。
そんなことは簡単だと、ヴァレリアは大きく頷いた。
「私はあなたを許すわ。だってこのことは、お母様が悪いのだもの。憎んだって当然だわ。……だからあなたには幸せになってもらいたいのよ」
「――え?」
魔の抜けた声を上げる灰色の魚人、キャメロン。
ヴァレリアは彼女の手を強く握り、勢いよく立ち上がらせる。
そして王の間の全員を見回し、天へと指を突き立てて華麗に微笑んだ。
「さあ、海の観光の続きよ! さあキャメロンお姉様、ついてきてちょうだい!」




