6話 言霊魔法
――そんなこんなで、俺の反対意見は聞き入れられずにラフィネたちも戦うことになった現状。
「はぁ……」
即席で作られた観客席から、闘技場の円形フィールドの上で元気に準備運動をしているラフィネを見て、がっくりとため息をつく。
「ジレイ、そんなに心配すんなよ。嬢ちゃんたちなら大丈夫だって」
「……別に、心配なんてしてねえよ」
アルディは俺を見て「ジレイは過保護だからなぁ~」と豪快に笑う。そんなんじゃない。
「……そもそも【魔道図書館】へは俺一人で行くんだし、こんなことする必要もないだろ」
「あー、それなんだけどな……その、えっと」
「? なんだよ?」
言いづらそうに口をもごもごさせるアルディ。
「…………まあ、どうせあとで分かるしいいか。それより、マジでそんな心配しなくて大丈夫だって。イヴ嬢と姫様にも十分に勝ち目はあるし。何よりも、その心意気を認めてやれよ」
「まあ、それはそうだが……」
ちらりと、やる気満々な様子ではりきっているラフィネを見る。
確かに、その心意気は大した物だ。自らの曲げられない信念の為に、強者に立ち向かえる覚悟を持っている者は少ない。それは俺だって分かっている。
のだが。
「……」
無言で、がしがしと頭を掻く。
ちゃんと理解している……が、なぜか落ち着かないのだ。ラフィネたちが戦うことを想像すると、頭がモヤモヤして無性に落ち着かなくなる。
というか、アルディはこう言っているが俺は心配なんてしていない。イヴはどうあれ、ラフィネは言霊魔法を使って大抵の敵は触れることもなく無力化できる。するわけがない。
そもそもラフィネはか弱い少女じゃない。もしそうだったとしたら、俺はとっくの昔に縛ってでも国に強制送還している。王女が一人歩きしているのなんてクソ危ないし。
だから……俺は、別に心配なんてしていない。
さっきからずっとそわそわと貧乏ゆすりしているが、心配だからじゃない。円形フィールド上は《競技戦場》がかかっているから死んでも大丈夫だけど、一瞬で死ななかったら痛い思いはするからやめた方がいいんじゃないかとか思ってたりしない。マジで。決して。
「――アルディさん。もう一度確認させて欲しいのですが、ルールは『自らの意志で降参もしくは戦闘不能になった方が敗北』で、『魔法・武器・呪術……使えるものは何でもあり』……でよろしかったでしょうか?」
「それで問題ないぜ。魔導大会と同じルールだな」
ラフィネは立会人兼審判であるアルディに質問し、回答を聞いて真剣な表情でこくりと頷く。
「分かりました。では、私は準備できたので大丈夫です」
「了解……ウィズダムもいけるか?」
「はい。俺も大丈夫です」
アルディは双方の準備完了を聞いて、
「うっし、じゃあ始めるかー!」
と、両手で抱えていた大きな球体――魔道具の《戦場》を起動させ、宙に放り投げた。
「【攻】と【才】の勇者パーティー同士の対抗戦――スタートだ!」
掛け声と同時、起動された《戦場》が円形内にいたラフィネと狼獣人――ウィズダムの姿を囲い込むように魔力が展開され、双方の姿がどこかにかき消える。
それと共に、アルディがもう一つ魔道具を取り出して空中に放り投げると、その魔道具から《戦場》内部の映像――鬱蒼と生い茂る森林地帯が空中に投影された。
「……森林、か」
映し出された映像を見て、つぶやく。
《戦場》
《異界》の一種で、指定した対象者を異空間の別の地形に転移させる魔道具。
地帯は森林、火山、雪山…など、様々な地形が任意の設定で出現させることができ、なおかつ現れた地形は触れられない幻ではなく実体を持つ。
今回は、ランダムに地形が選ばれるように設定した……ようだが。
「ちょっと、まずいな」
間違いなく……それも圧倒的にラフィネに分が悪い。
ただでさえ身体能力が高い狼獣人相手に、木々が多いこの地形で戦うとなると……A級の冒険者でも簡単にはいかないだろう。
ましてや、相手は狼獣人の平均を遙かに超える強靱な肉体を持っている。
A級が2人……いや、3人いてようやく話になるといったところ。確かにラフィネの言霊魔法は強力だし、負ける訳はないとは思うが――
『――止まりなさい』
ラフィネは試合開始してすぐに木々に姿を隠すべく動いたウィズダムに向けて、言霊魔法を行使した。
「! 操作魔法ーーいや、これは……言霊魔法か」
身体の自由を奪われたウィズダムは命令通りその場に足を止め、冷静に分析する。
「これで貴方は何もできません。降参してください」
ラフィネは言霊魔法を使うことなく、降参を命じる。しかし――
「……それはできない」
拘束されて項垂れたままのウィズダムが拒否の言葉を出して、ラフィネが顔を僅かに強ばらせた。
「私の勝ちです。大人しく降参を――」
「我らエーデルフ騎士団の団員に、降参は存在しない」
ウィズダムは身体を起こして、続ける。
「『両手両足を失ってでも、喉元に噛み付いて勝利を勝ち取れ』、それが騎士団の教えだ。すべての力を出し切り、死ぬことでしか敗北は認められていない」
拘束された大きな体躯をギギギと動かし、ウィズダムは大口から鋭い牙を獰猛に覗かせる。
血に飢えた猛獣の如く、油断すれば喉元を噛みちぎられると錯覚するほどの、獰猛な闘志。
「っ……」
ラフィネは僅かに気圧されてしまったのか、数歩後ずさった。
……だけど、それも致し方ないことだ。これほどまでの圧を正面から受けて、まだ立っていられるだけですごいといえる。本来なら腰が抜けて魔力が霧散し、戦意を失ってもおかしくない。
「若がとんだご迷惑をおかけしてしまったことは本当に謝罪する。だが……どんな形であれ戦いになった以上、死して敗北するまでは、負けるわけにはいかない」
「……ですが、貴方はもう何もできません」
「では殺すか命じていただきたい。『自害せよ』と」
「で、ですが……」
戦意を失っていないウィズダムに、ラフィネは戸惑いながら、しかし何もせず立ち尽くしている。
……痛いところをついてきた。
確かに、ラフィネの言霊魔法は強力だ。魔力量が少なく、魔法抵抗が低い者にとっては、なすすべも無く操られて終わりだろう。
だが――術者である本人に、命じることができなければ何の意味も無い。
いつの間にか俺の隣に座って戦況を見守っていたアルディが、それを見て腕を組んで言った。
「まあ……難しいだろーな。いくら《競技戦場》で死んでも問題ないとはいえ人を殺すのは相当な覚悟が無きゃできねえ。それも、心優しい王女様ときたら……なおさらだぜ」
ウィズダムの前で立ち尽くしているラフィネを見て、俺は顔を歪める。
……おそらく、ラフィネは甘く考えていたんだろう。『拘束して無力化すれば降参してくれる』、と。
これまで、殺生とは無縁の生活を送っていたからそう考えてしまうのも仕方がない。むしろ、虫も殺せなそうなラフィネが躊躇いも無く殺す方が怖い。
だけど――この場において、それは悪手だった。
「55、56……これで、5分――」
ウィズダムは何かの数を数えた後、終わったのかうつむかせていた顔を上げて。
「黒髪の女性、頼みがある。降参してはくれないか」
ラフィネに対して、自身の状況を分かっているとは思えない言葉を出してきた。
「……するわけがありません。して欲しいのは私のほうです」
「そうか……ならば、致し方ない」
ウィズダムはラフィネの返答に、残念そうに獰猛な顔を歪める。
――瞬間。
「力尽くで、言い聞かせるとしよう」
拘束されていたはずのウィズダムの身体が跳ねるように一瞬でラフィネの背後に移動する。
「ッ!? な――」
「動かないで頂きたい」
少し薙ぐだけで簡単にラフィネの柔肌など裂いてしまうだろう鉤爪が、喉元に突きつけられる。
「――ジレイ、試合中は介入禁止だぜ」
「………………あ、ああ、悪い」
隣に居たアルディにそう言われ、自分が無意識に魔力を練っていたことに気付いた。
思わず立っていた身体を座らせ、再度、戦況を苦々しげに見る。
映っているのは、さっきまでとは一転して絶望的に不利になった戦況。喉元に突きつけられた鉤爪が僅かに触れ、ラフィネの白い肌を赤い血が僅かに滴り落ちているのが分かる。
……どうなっている? なんで、ラフィネの言霊魔法が――――まさか。
「どう……いう、ことですか。言霊魔法で、拘束していたはずです」
「対策を、してないとでも思ったか。言霊魔法は初めて受けたが……もう問題ない」
ウィズダムのその口ぶりを聞いて、確信した。
「――反魔法」
「おっ……さすがジレイだな。今ので分かるのか」
ヒューっと、賞賛するように口笛を吹くアルディ。こいつ……知ってやがったな。
「ウィズダムはあんなナリだが、反魔法を専攻で研究してる魔導士でな。他の魔法は下手くそだったんだけど、反魔法は得意で――」
「いや、それはどうでもいい」
「そっかあ……」
しょんぼりするアルディ。聞いてもないこと言うな。
おそらくあの反魔法――術式構造的に、吸収型の反魔法か。口ぶりから推測するに……5分間喰らい続ければ効力を発揮するといったところ。
そもそも、反魔法は魔法として使う物では無く、武器や道具に付与して使うのが一般的な使い方だ。相手の魔法を無効化するといっても手順がめちゃくちゃめんどくさいし、それなら相手の術式に直接介入して魔力を霧散させた方がよっぽど簡単だ。
だから、俺も覚えてはいるが使っていない。使いどころが難しくて使えないから。
反魔法は一時的に魔法を無効にするものが多い。だが、ウィズダムが使っている魔法は――
「で、ですがもう一度拘束すれば……『ひざまずきなさい!』」
「無駄だ」
ラフィネが言霊魔法を行使するも、ウィズダムは頭を垂れることなく、冷静に告げる。
「……アルディ、なんで言わなかった」
「うん? ウィズダムが反魔法の使い手だってことをか?」
「違う。そもそも始めから……ラフィネに勝ち目なんてなかったことに、だ」
アルディを睨み、詰問する。
"恒久的に無効化"できる反魔法を会得しているウィズダムと言霊魔法の使い手であるラフィネは、絶望的に相性が悪い。それなのに――
「勝ち目が無い? いいや、俺はそうは思ってねえよ。ジレイだって分かってるだろ――言霊魔法の"本質"を」
アルディは食えない顔で「楽しみだなー」と足をぶらぶらさせて笑う。俺はこの魔法バカを無性にぶん殴りたくなった。
「……できるわけないだろ」
殴りたくなる気持ちを抑えて、空中に投影された映像に目を向ける。
……確かに、言霊魔法を"真の意味で使える"のであれば、こんな状況は訳ないだろう。
でも、それは無理難題だ。ただでさえ言霊魔法は難しいのに、あの境地にまで至るには数十年はかかると言われている。とてもじゃないが、まだ十五歳のラフィネに使えるとは思えない。
「――降参を願いたい。痛い目にあうのは嫌だろう」
ウィズダムはラフィネの白い首筋に当てた鉤爪を押し当て、細く赤い線を作る。
赤く、首筋から血が流れ落ちた。ラフィネは唇を噛み、痛みに耐えるように顔を歪めているだけしかできない。
誰がどう見ても、負けだった。それも……己の甘さが招いた敗北。
「……トラウマにならなきゃいいんだが」
悔しそうにうつむいているラフィネの姿を見て、呟く。
……やっぱり、ラフィネを強制的にユニウェルシア王国に戻らせた方がいいのかもしれない。
いくら言霊魔法が強力とはいえ、今回みたいに想定外の事態もありえる。なら、いつか本当に痛い目を見る前に帰らせた方がいい。
……まあ、ラフィネがどうなろうとどうでもいいけど、俺を追い掛けてきて何かあると俺が困るからな。モヤモヤするから。マジで。
ラフィネに既に勝ち目は無い。だから、この試合は降参して負けになる。
――そう、思っていた。
「……嫌です」
ラフィネは、確かにそう言った。
「降参なんて、しません」
確かな口調で、ラフィネは拒否の言葉を吐き出した。
その首筋からは、鉤爪が食い込んで少しでは無い血が滴り落ちており、ラフィネの着ていた白い服を赤く染め上げている。
「……何で、降参しないんだよ」
俺は、意味が分からず戸惑いの声を出す。
間違いなく、首の皮が切れて鋭い耐えられない痛みを感じているはずだ。今すぐにでも降参して、逃げ出したいはずだ。
「私は、決めたんです。ジレイ様のお側で、支えるって……それなのに、お荷物になんて、なりたくありません」
ラフィネはぽつりぽつりと言葉を発する。その声色は強く、譲れない何かがあるのが分かった。
「だから私は絶対に、諦めません。降参もしません」
確かな、信念を持ったラフィネの言葉。
ウィズダムはピクリと耳を動かし、首筋に当てていた鉤爪を緩ませる。表情が分かりづらい獣人種でもはっきりと判断できるほどに、動揺しているのが分かった。
すぅ、と小さく深呼吸し、ウィズダムが言った。
「……仕方ない。なるべく痛みが少なくしよう」
拘束していたラフィネを離し、ウィズダムは距離を取る。ラフィネは解放されて地面に倒れ込んで手をつき、ケホケホと辛そうに咳き込んだ。
「わたっ……私は、強いんです。なら……負けるわけが無いんです」
ラフィネは身体を起き上がらせ、気丈に自身の数倍はあるウィズダムの巨躯と対峙する。
ウィズダムは何も答えず、両爪を研ぎ合わせている。……おそらく、一撃で終わらせるつもりなのだろう。
「私は、強いんです。貴方よりもずっと強くて、力もあって、速くて……私は強い、強いんです――」
ブツブツと、うつむいて復唱するラフィネ。
「――終わりだ」
ウィズダムが、地を蹴った。数瞬後、ラフィネの目の前に巨躯が立ち塞がる。
鋭く、大きな鉤爪が掲げられる。
心臓を一突きで、痛みも無く即死。
それで《戦場》が解けて試合終了――
「………………は?」
――には、ならなかった。
大きく、ウィズダムは驚愕に顔を歪める。
その瞳の先には、心臓を突き抜かれた骸の姿――ではなく、五体満足で立っているラフィネの姿。
ガタッと、隣のアルディが勢いよく立ち上がって椅子を倒した音が聞こえた。顔は見えないが、おそらくキラキラと子供のような顔を浮かべているに違いない。
「嘘だろ……」
俺も、驚愕のあまり凝視してしまう。ありえない、まだラフィネは15歳のはずだ。小さい頃から修練し続けたとしても、あの境地に至るなんて――
《言霊魔法》は対象を操作する魔法だ。
《操作魔法》と効力が似ていることからよく同じように扱われるが、その実は全く違う。
《操作魔法》は自分の魔力を対象に強制的に介入して操作する魔法。相手の心の部分――意志は操れず、皮である身体しか操ることができない。
なので、操作魔法を行使中に割り込もうとすれば、対象物が魔力の流れに耐えられなくなって爆発してしまう。
対象に意志がある場合は単純な動きの操作しか行えない。意志がない人形であれば、複雑な行動を取ることもできるが……傀儡師くらいしかそんなことはしない。
対して、《言霊魔法》は少し違う。
言葉に自らの魔力を乗せ、対象を強制的に操作する。そこまでは同じだ。
だが、《言霊魔法》は《操作魔法》と違い、相手の身体に魔力を流すわけでは無く、言葉に宿るとされる精霊に魔力を譲渡し、介入することで効力を発揮する。
だから、本来であれば言霊魔法はもっと色々な事ができる。それこそ、対象物の操作の枠を超えたことでも。
例えば――
「私は、『貴方よりも力があります』」
「ぐ……ッ!? この俺が、なぜ――!?」
――身体を強化して、相手より強い膂力を得ることも。
「私は、『貴方よりも速いです』」
――速力を得て、相手の数歩先を動くことも。
代償として、指定した内容に応じて通常の行使よりも、多大な魔力を常に消費する。だから、魔力量が多くないと数秒すら使うことができない。
言霊魔法を単純な操作以外で使うのは極めて難しい。何十年修練を続けて、ようやく少し使える程度になるのが殆どだ。
そのせいで、言霊魔法は一般的には対象を操作する魔法としか知れ渡っていない。術者でも知らない者が多く、言霊魔法の本質を知っていて、なおかつ行使も可能なのは極々一握り。
……なのに、目の前の映像に映るラフィネは、自身の身体に言霊魔法を行使してウィズダムよりも圧倒的な膂力と速力を得て、翻弄していた。
「――俺が……こんな小さな少女に……」
気付けば……倒れ伏しているのはウィズダムになっていて、ラフィネは五体満足で、キズ一つなく佇んでいた。
「降参を、お願いします」
ラフィネは、ウィズダムの首筋にそっと優しく手を当て、降参を促す。
「…………無理だ」
だが、ウィズダムは首を縦に振ることがない。
「どうしても、駄目でしょうか」
「……ああ」
ラフィネは「そう、ですか」と呟いた後。
「…………申し訳ありません」
泣きそうな声で謝るように言って、ラフィネはウィズダムの首筋に当てた手を強める。
その白く細い手は……僅かに、震えていた。
◇
「――勝ったのは姫様だな! 姫様、その言霊魔法について、よく調べさせて貰えたらオレめっちゃ嬉し――」
「申し訳ありません。気分が優れないので、休ませていただいてもよろしいでしょうか」
「あっ(察し)…………わりい」
ウィズダムとの試合が終わり、興奮しすぎた魔法バカの空気の読めない発言の後、ラフィネは俺がいる観戦席の方に顔をうつむかせながらやってきて、隣に座った。
「……大丈夫か?」
俺は《水生成》と詠唱し、コップに注いだ水をラフィネに手渡す。
ラフィネは「……ありがとうございます」と小さく嬉しそうに笑い、水を受け取ってコクコクと飲んだ。
そのまましばらく横目で様子をのぞき見て、息が落ち着いてきたころに、話しかける。
「知らなかった……まさか、言霊魔法をあの境地まで使えるなんてな」
俺は賞賛と驚きが混じった声で、心の底から思っている事を口にした。
……あそこまでの境地に至るには、途方もない修練と努力がないと無理だ。まだ十五かそこらのラフィネが使えるなんて考えても見なかった。
素直に賞賛すると、ラフィネは少し困ったような声で。
「はい……私も、驚きました」
「……え? 使えてたんじゃないのか?」
「いえ、ずっと修練してはいたんですが……できたのは初めてなんです。だから、すごくびっくりしました」
驚愕の事実が知らされる。マジかよ。
ラフィネはあまり元気の無い顔で「理屈では知っていたんですけど、使える方を見たことが無くて不安で――」と小さく笑みを浮かべる。
「……そうか」
何にせよ……それは全て、ラフィネが努力して諦めなかったからに違いない。
ウィズダムに勝てたのも、諦めずに立ち向かったからだ。土壇場で言霊魔法を昇華させたのも、己の信念を曲げずに戦ったからだ。
「……? どうしました?」
「っ……い、いやなんでもない」
きょとん、と首を傾げるラフィネ。俺は慌てて視線を明後日の方にずらす。
……本当に、分からない。なんでそこまでするんだ。
きっと、おそらく、その信念の元となるのは――
「……」
俺は、ぶんぶんと頭を振って考えを消して、そっぽを向くように景色を眺める。
どうでもいい、俺にはどうだっていいことだ。
そう分かってはいるはずなのに――。
次のイヴの試合が始まるまで……俺はなぜか、ラフィネの方に顔を向けることができなかった。




