47話 蘇生
――そう、思っていたのに。
「ぁぁ……ぁあああああ……」
青年の遺体に縋りつき、擦れた声を漏らす。
変わったつもりだった。未熟な自分ではなくなったつもりだった。
《世界樹の祝福》を見つけ出すために魔導学園に入学して必死に努力して学んで、ずっと首席を維持しながら、14歳の時に飛び級で卒業して。
《回復魔法》の練度と学園での功績が認められて、《水精霊》と《聖女》を研究しているドゥルキス家の養子になって。
《世界樹の祝福》を習得するために失敗しないように、魔力を少しでも多くするために挫けそうになりながらも頑張って、精霊の祠で水の精霊と契約を行った。
……その代償として、灰色だった髪と瞳は水色に変化して、強い感情を覚えなければ表情が上手く動かせないようになってしまったけれど。それでも、そんなことは目的のためならば些細な問題だった。どうだってよかった。
ドゥルキス家の膨大な書物を読み漁ったり、白魔導士教会に入って調べたりもした。……でも結局、《世界樹の祝福》への手がかりは見つけられず、《蘇生》についての情報も秘匿されていて得ることができなかった。
それならと《攻》の勇者であるレティノア・イノセントのパーティーに入って、勇者の近くでなら得られるであろう情報を調べようとした。……でも、そのすべてが空振りだった。
焦燥感と不安は、日に日に増していった。4年経ったにも関わらず、一切の手がかりすらも見つけられていない現状に、心がすさんでいた。
レイのことを忘れた日なんて一度も無かった。いつもいつも、レイのことを考えていた。
……でも、怖かった。本当はそんな魔法は無いんじゃないかと。この行動は全部、無駄なんじゃないかと。
だから、これ以上大切な人は作らないようにした。誰に話しかけられても突っぱねて、冷たく当たった。あり得ないとは思っていたけど、大切な人が出来て、レイへの気持ちが風化してしまうんじゃないかと怖かった。
そんな中だった――この青年に出会ったのは。
強い人だった。すごく、あり得ないくらいに。……レイよりも。
最初はその強さに嫉妬した。怪我すらせずに、敵を圧倒する青年が羨ましかった。……あり得ないほど強いこの人ほどの力をレイが持っていれば、きっと死ななかっただろうから。
嫌いだった。レイよりも強いことに……なによりも、レイに似ていたことに。
再会したときには一瞬、レイかと見間違えた。青年が――赤髪になっていたから。
関わらないようにしていた。話さないようにしていた。……でも、青年が取り出した魔道具――《天翔靴》を見て、思わず自分から話しかけてしまった。レイが持っていたものとまったく同じ、形状タイプの物だったから。
とてもレイに良く似た青年だった。瓜二つ、生まれ変わりと言っても過言では無いくらいに、性格も行動も、すべてが似通っていた。
いつの間にか……よく話すようになっていた。拒絶したかったはずなのに、あまりにも似ている青年と話していると――まるで、生き返ったレイと話しているかのような感覚になって、楽しく思えてしまった。
だから、チケットを上げるという口実で自分勝手に街を連れまわして、レイが着ていたものと同じ鎧を着せて、自己満足に付き合わせてしまった。……最低なことをしたと思う。この人は、決してレイではないのに。別人なのに。
生徒たちが消えて、異界に一人で突入しようとする青年を見て、あの日の、嘘をついて一人で戦いに行ったレイと重なった。死んでしまうかもしれないと不安になって、自分もついて行くと無理やりについて行った。
あの日のわたしとは違うはずだった。《回復魔法》も《蘇生》以外ならほとんど覚えた。必死に努力して、もう二度と死なせないように、傷ついても癒せるように、頑張ってきたつもりだった。
「……わたしの、せいだ」
でも……何度行使しても青年に《回復魔法》が掛かることはなく、何も出来ずに死んだ。
そもそも、青年がわたしを守るために剣を投げなければ、こうなることは無かった。つまり――無理やりについていったせいで、死なせてしまった。
変わっていない。あの頃と何一つ、変わっていない。
もう弱い自分じゃないと思ったのに。その為に努力してきたのに……あの頃と同じで、無力なままだった。死んでいく青年をただ見ていることしかできなかった。
「ごめんなさい……ごめん、なさい……」
悲しいと思っているはずなのに、精霊契約のせいで涙があふれ出ることは無かった。ただ、たった一粒。たった一粒の涙の雫が――
――青年の頬に、ぽとりと落ちた。
「……え」
その瞬間。青年の身体全体を神秘的な光が包み込む。
七色のオーロラのような、柔らかで幻想的な光。
呆然と見つめるわたしに構わず、光は輝きを放ちながら、青年のぽっかりと空いた心臓部と失った左腕に収束し始める。そして――
――ピクリと一瞬だけ、青年の指先が動いた。




