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閑話 とある王宮護衛官の、職場でチビりそうになった件

ちょっと別視点の儀式を書いてみました。


ジャンヌが頑張ってるときに王子が何してたかです(笑)

その日、俺は今まで生きてきた人生の中で最も恐怖を覚えた一日だった。






一週間程前にネホンと言う、東の閉鎖された島国からやたらと顔の整った皇子がやって来て、ネホン神様だか何だかが降りてくるから、その儀式をしたいと訳の解らないことを言って、我が国の国王陛下はその胡散臭い話を信じて儀式をやらせるらしい。


それにしても、オウジってのはなんで揃いも揃って美形ばっかりなんですかね。ウチのアレクサンドル殿下はキラッキラの目映い金髪に、吸い込まれそうな蒼い瞳、第二王子のベルナルド殿下はコレまたキラッキラの銀髪に蒼い瞳。顔は滅茶苦茶整ってて、彼らに微笑まれた女は軒並みノックアウト、ついでに一部の男もノックアウト。正にオウジサマサマってやつ。


そんでもって、今ウチの国に来てるネホンの第一皇子がコレまたイケメンでやんの。身長は高くて、短く整えられた髪は漆黒。切れ長の瞳は少し流し目にしただけで男でも『!!』ってなるくらい色気があって破壊力が凄い。やっぱりウチの女達はメロメロになっていた。


まあ、何が言いたいかって言うと、リア充爆発しろってことなんですけどね。


俺も彼女欲しいっ!


と、まあ、心の中で虚しい叫びを上げては見るものの所詮俺らは一介の王宮護衛官。

長いものに巻かれて日々精進するわけですが。





んで、話を戻すけど、5日後のネホン国ご一行様の歓迎で変な儀式をやるからって王宮の一般参賀用ベランダを改築して、でっかい舞台作るんだそうな。


王妃様コンビが嬉々としてなにか企みながら歩いているんだけど、コレには深く関わっちゃいけない。下手なことすれば色々面倒なことになるので、知らないフリをしよう。


…………あっ、ベランダの改装やっぱり5日でやるんだ。結構な規模になるから国中の建築士呼ぶってドンだけたよ。設計して、切り出して、組み立てるの、5日じゃ、絶対に無理だろ。


って、いかんいかん。気にするな俺。気にしたところで俺は何も出来ない。




そんなことをぼぅっと考えていたら殿下に抱えられたジャンヌ様を目撃した。笑顔の殿下はこの世の終りのようなジャンヌ様を自室に連合していた。


ああ。ナカヨクするわけですね。けっ。リア充め。


でも、なぜあのアレクサンドル殿下はジャンヌ様に惚れたのだろう?

殿下の美貌をもってすれば色々選り取り選び放題だし、何人もの妻を持ってヤりたい放題だろうに。

まだ殿下は18歳で、これから沢山の美しい女と出会ったりするだろうし、6歳も年上で他の男と交際していた使用済みの女一人で満足なのだろうか。

まあ確かに、ジャンヌ様の胸は非常に魅力的な大きさだが、顔はネホン人とのハーフなので少し鼻が低く、物凄く美人と言うほどではないと思う。


俺が王子なら世界中の美女を集めて酒池肉林のハーレムを思う存分満喫したい。




さて、歓迎式典三日前。少しやつれたジャンヌ様と殿下を護衛しながら王宮の井戸へ向かう。

どうやらネホンの皇子と井戸の水をかぶりミソギというものをするらしい。


少し涼しくなってきたこの時期に頭から冷たい水をかぶるなんてアホじゃなかろうか。間違いなく風邪をひくだろ。それに、そんなことをして神様とやらが降りてくるなんてとんだサド神様だな。



真っ白の、変わった服(着物と言うらしい)を着たジャンヌ様はネホンの皇子と変な呪文を唱え頭から水を被る。


うへぇ。冷たそう!見てるだけでも背筋が震える。

それでも二人は震えもせず水を被る。


白い着物は水を吸い、肌に張り付いてジャンヌ様の体の線を映し出す。………うん。いい眺めだ。ジャンヌ様は胸が大きいと思っていたが尻もいい感じに大きい。でも、ウエストはほっそりとくびれて、確かに王子がこの体に溺れるのも分かった気がした。


ジャンヌ様達の禊が終わるとアレクサンドル殿下は速攻でジャンヌ様をタオルとマントでくるんで自室に戻られた。ちっ。もう少し見たかった。



そしていよいよ式典当日になった。

朝、殿下達の部屋に向かう途中、屍と化した建築士達が王宮の裏手で大量に伸びているのを発見したので、お疲れさま。と声を掛けた。

改築案が出てからずっと工事の音が響いていたから、本当に5日間で改築したのだろう。

何故か何時もと違う可愛らしい制服を着た女官達が建築士を甲斐甲斐しく世話している。しかもどの女官もかなり可愛い。精も根も尽き果てて居るのに可愛い女官にヘロリとやに下がる建築士達。地獄の中の天使達に癒され、ある意味幸せそうだ。…う、羨ましくなんてないんだからなっ!


部屋の前に到着すると、丁度最後の禊を終えて着替えに入るところだった。暫くすると着替えの終わったらジャンヌ様達がゾロゾロと出てくる。


そのジャンヌ様の姿に俺は一瞬見とれてしまった。

普段は、胸はでかいけどそんなにぱっとしない女 だと思っていたが、今日のジャンヌ様は白い着物に鳥の模様が入った薄布を纏い、目も冴えるような赤いスカート(袴と言うらしい)をはいていた。ドレスの時とは違う凛とした佇まいと、着物の端々から覗く肌の色香。そしてなに寄り目を引くのが、目元に引かれた赤い紅。


いっつも殿下に迫られてヒャァ~とか言ってる情けないジャンヌ様は何処にもいない。どこか禁欲的で触れてはならないような神々しさだ。


ジャンヌ様達は王宮内で簡単な歓迎式典を行った後、王宮裏で沢山の生きる屍となった建築士の汗と涙の結晶である舞台に向かい儀式に移った。


俺はアレクサンドル殿下の斜め後ろに立ち殿下の護衛をする。


ジャンヌ様達より少し高い場所は絶好の舞台観賞スポットで、今日の護衛任務はラッキーだな!なんて思っていたけれど、それも儀式の中盤で公開することとなる。


儀式が始まりジャンヌ様達が踊っていると、ジャンヌ様の父であるフォルゲン準男爵が陛下達に儀式の解説をしていた。


「この儀式はネホンの神である鳳凰の出会いを表しています。まず、舞台中央に、鳳凰の雄である鳳雅様の化身、輝来殿下が鳳凰の羽根を模した大扇で姿を隠し眠っています。そこに鳳凰の雌である凰麗様の化身ジャンヌが表れ、鳳雅様の回りの邪気を、剣で祓います。邪気を祓った凰麗様は疲れて羽根を休め、その間に鳳雅様が目覚め邪気の晴れた空を飛び回ります。そこで凰麗様をみつけ、二人は契りを交わします。」


準男爵の解説をコッソリ聴きながら舞台を見ると丁度ネホンの皇子がジャンヌ様の着物を脱がせている所だった。


うわー。儀式とは言え自分以外の野郎に婚約者の服脱がされるのとか嫌だな~とか考えながら、ちらりとアレクサンドル殿下を見れば、割りと余裕そうな表情だ。


あれかな?コートの上着を従者に脱がせてもらってる。位の感覚なのかも。


二人が互いに一枚目の服を脱がし終わると少し曲調が変わった。一曲目は割りと早く終わったが、二曲目は少し長い。ネホンの皇子が一人、舞台で舞う度に遠くの方から女達の溜め息が盛れる。異国の美丈夫が異国の美しい着物を身に纏い、美しく。時に荒々しく舞う様は女にとって惚れ惚れするものなのだろう。けっ!けっ!


ネホンの皇子の出番が終わると、ジャンヌ様が大扇を持ち優雅に舞う。60センチもあると言う大きな扇は、広げて振り回すのが大変そうだ。でも、そんなことはおくびにも出さず、ジャンヌ様は軽やかに舞う。ジャンヌ様はうっすらと微笑みを浮かべ曲の合間合間にネホンの皇子を流し見る。


「今の舞いは、契りを終えた鳳雅様が愛する凰麗様のために捧愛の舞いを踊り、それに、答える凰麗様が舞いで愛を返し、今度は凰麗様から契りを交わします。」


ヘエ~…。ネホンの神様は男からの愛に応えるために相手の服を脱がして迫るのか。結構大胆なんだな。


ジャンヌ様がネホンの皇子に後ろから抱きついて服を脱がしているんだけど、さっきの脱がせ方より何だかエロい。さっきはこう、シュツと脱がせてたのに、今のはじっくり脱がせてるって言うか、男をベッドに誘う女みたいな感じ。


そっと回りの男どもを見渡すと、皆少し前のめりぎみにジャンヌ様を見ている。

う~ん確かにあれは色っぽいよなぁ。男としてはああいうふうに服とか脱がされたら堪んないよなぁ。


そんなことを考えながら、王子はどうしているだろうと視線をずらせば、椅子の肘掛けに両手を置き、悠々と二人を見ている。


おお。これが男の余裕というやつか

婚約者のジャンヌ様を信じてらっしゃるんだな。男の嫉妬は醜いと言うし、眼下には大勢の臣下と国民が見ているのだ。下手に嫉妬して情けない所を見せられないということだろうな。


二枚目の着物を脱いだ二人は鈴と大扇を手に持って寄り添うように踊る。見つめ合っては少しずつ着物の紐を引いて、焦らすようにはだけてゆく。……ぅぉぉおう。なんかやたらとエロい雰囲気が流れている気がする!ネホンの皇子とジャンヌ様の視線が絡み合う度に互いの瞳が切なそうに細められる。

あっ!二人が抱き合った!うわっなっ、なんだその服の脱がせ方はァ!!!!抱き合いながら互いに脱がせるなんて、これからヤりますよーって言ってるようなもんだろ!


「今の舞いは、鳳凰が真の夫婦となり、寄り添い会う舞です。三枚目の着物を脱ぎましたね。あの三枚の着物の色には意味が有ります。赤、黄、緑、紫、白は鳳凰の羽の色と言われており、銀と金は鳳凰の瞳の色。

着物の三枚の脱ぐというのはこれから出現させる鳳凰の肉の代わりとして用いられ、鈴は鳳凰の声、剣は鳳凰の爪、大扇は鳳凰の羽根として用いられます。最後にあの二人の血が分け与えられ鳳凰がジャンヌの腹を借り、現世に降臨されるのです。」


「そうなの。あの着物と道具たちにはその様な意味が有ったのですね。それにしてもフォルゲン準男爵は御心配じゃありませんの?ジャンヌちゃんが、擬似とは言え出産を経験するのですよ?」


愛娘であろうジャンヌ様の際どい舞を淡々と見据え、冷静に解説するフォルゲン準男爵に王妃様が問いかける。


「………そうですね。もちろん心配ですよ。それでも……ネホンで巫女であったシノを妻に娶り、女の子が産まれ、その子に巫女の資質が有ったときからある程度の覚悟はしてきたのです。……………まあ、父親としては色々と複雑ですが。それはアレクサンドル殿下もきっと同じような気持ちでしょうから。」


フォルゲン準男爵が苦笑しつつ殿下を見れば殿下は微動だにせず、ジャンヌ様を見つめていた。


舞台の二人は着物を一纏めにし、天空に向かって何かを叫ぶと、手に握った剣を引き抜いた。


うげぇっ!痛そう!って言うか、絶対にイテェよ!


握った手からボタボタと二人の血が扇に向かって落ちて行く。あの出血具合からして相当深く切ったのだろう。さぞや当人達は痛いに違いないと顔を見てみれば、痛みに耐える表情というより、快感に耐える表情だった。



……………え?なんでそんな卑猥な表情してんの?気持ち良いの?二人ともMなの?


「準男爵、これが例の…………?」


国王陛下が準男爵に問いかける。んん?例のってなんだ?超気になる!


「はい。………………その、……………今の二人は、血液を介して結ばれているというか……………交わっているといいいますか…………。」


「いや、よい。詳しく説明せずともわかっておる。…………その、なんだ。同じ父親としては年頃の娘があの儀式をやるというのは、こう、なんとも言い難いものがあるな。」


……………………結ばれてる?交わってる?………血液を介して?………って、ヤっちゃってるってことか?!

マジで?!だからあの表情なの?ある意味公開***(ピー)なの?!ちょっ、ヤバッ、ヤバくない?!

この儀式ドンだけヤバイんだよ!


まあ、俺としてはあのなんとも言えないエロい表情のジャンヌ様を見れて眼福ですけど!アレクサンドル殿下にとっては耐えきれないんじゃないの?!



「…………そうでございますね…………ですが、これはネホンの神聖な儀式です。ご覧ください、二人の周りがうっすらと輝いております。輝来殿下が結界を貼っているのでしょう。彼らの口は動いているのに声が聞こえないということは防音の結界ですね。妻曰く、神力が強い殿下だからこそ出来る結界だそうで、皇族のなかでもごく僅かしか出来るものは居ないそうです。………防音の結界で我等に要らぬ心配をかけぬようにしてくださってきるのでしょう。」


すげえ、防音の結界ってなんだよ!魔法か?!

最初は胡散臭いと疑ってたけどあの光を見ていると、確かに凄い人達なのだろうと思えてくる。


その時、バキィッという鈍い音がアレクサンドル殿下の側から聞こえた。

何事かと殿下を見れば殿下の椅子の肘掛けが両方共おかしな方向に折れ曲がっている。


えっ、もしかしてあの肘掛け折ったの?

あれ、結構太い木で出来てて細かい彫り物がしてある高いやつだよね。あんなの握力だけで折れるもんなの?!


ちょ、ちょっ!殿下剣を持って何処に行くつもりですか?!まっ、まさか乗り込むの?あの舞台に下りちゃうの??


「あらあら、アレクったら。ちょっとそこのアナタ、アレクを押さえていて下さる?」


王妃様が此方を見て恐ろしいことを頼んでくる。


えええええええええ?!俺?!俺ですか?!うちの護衛隊長を沈めて、今しがた椅子の肘掛けを握力だけで破壊した皇子をこの俺が止めろと?!


無理無理無理無理無理!死んじゃう!死んじゃうって!


「さあ、何をしてるの早くっ」


王妃様の無情な命令に涙しつつ、殿下を止めるべく抱きつく。


「アレクサンドル殿下っ!おっ、おっおおおおおおお落ち着いてくださいっ!」


必死に声を絞り出して恐怖の大魔王にしがみつき訴える。


「…………五月蝿い。黙れ。僕の邪魔をするな。」


地の底を這うような恐ろしい声で話したかと思ったら凍てつく蒼い瞳で俺を睨む。


ヤバい!チビりそう!本気で恐い!超絶美形が怒るとこんなに迫力が有るのか!


って言うか、睨まれただけで、俺の心臓は止まりそうです!


「アレク、気持ちはわかるけどジャンヌちゃんも輝来皇子も必死で儀式をやっているのよ?それを邪魔してはいけないわ」


王妃様がそっと殿下の手を握り宥める。


おっ王妃様ナイスアシストっ!ありがとうございます!俺だけでは到底この王子様は押さえられません!


「………いえ、そんなことは致しません。………ただ、あのジャンヌを見て、良からぬ言動をする貴族どもを潰して来るだけです。僕のジャンヌを辱しめるような言動、万死に値する。」


「あらまあ、アレクも気づいていたのね。…………う~ん確かに、ジャンヌちゃんに対して、アバズレ女だの今度相手して欲しいだの言っているやつらが居るみたいだけど、全員は把握していないでしょ?」


「…………はい。でも、大体は把握しております。」


「あら、大体じゃ駄目よ。やるなら徹底的にやらなくては。事前に陛下が儀式の内容を説明して、ジャンヌちゃんがアレクの婚約者だと正式に通達しても解らないようなおバカさんは、私とファティマちゃんのお友達と私兵達が紛れ込んで全員リストアップしてくれてるわ。必死に頑張っている王子の婚約者を辱しめるような言動をするような方々には後でたっぷりお仕置きしてあげるから、今はジャンヌちゃんの儀式を見ていてあげなさい。」


王妃様の言葉に納得したのか殿下はゆっくりと席に戻った。


いつの間にか破壊された椅子は新しい椅子に変えられており、俺は元の持ち場に戻った。


…………怖かった。怒った殿下を始めて見たけど大魔王所じゃない、天災レベルで怖かった。あの瞳に睨まれただけなのに今でも手が震えている。


俺は決めた。絶対にあの王子は怒らせないようにしよう。もし、怒っているのを見掛けたら速攻で逃げよう。


ゆっくりと深呼吸をして心を落ち着けていると、会場が少しざわめいた。

はっとして舞台を見ると二人の流した血が美しい鳥の形になっている。

どうやったら流れる血が鳥の絵になるんだ?

…………ってあの絵、動いてる!そして、その絵が動く度にジャンヌ様の顔が辛そうに歪む。

何?何が起こってるんだ?!


「フォルゲン準男爵!ジャンヌが苦しそうにしていますが、まさか……」


アレクサンドル殿下がすかさず準男爵に問いかければ、準男爵はこくりと頷いてジャンヌ様を見つめる。


「はい。この儀式の集大成、神降ろしのための陣痛が始まったようです。ここからはほぼ、ジャンヌ一人で痛みと戦わねばなりません。私も男ですからその痛みがどれ程のものかは解りませんが、妻から聞いた文献によれば、その痛みは出産の痛みとほぼ同じとされ、更に、神を出現させるため大量の神力を使うとのことです。ジャンヌだけでは到底神力が足りませんので、輝来殿下が気を送り、出産の補助に当たるとか。」


な、なんじゃそりゃ!ジャンヌ様が神を産む?!今、

痛がっているのは陣痛?!


信じられない!いや、でも、さっきから血で描かれた鳥の絵は、波打つ様に動いているし、現実にはあり得ないことが起こっている。


「ジャンヌちゃん、相当痛そうね。私も出産の時は物凄く痛かったから解るわ…………。頑張ってジャンヌちゃん。」


「ジャンヌさんはまだ出産の経験が有りませんから、ほぼ初産と言って良いでしょう。絵から神が産まれるとはいえ、ジャンヌさんの身体に掛かる負担がいかほどのものか…………。」


出産のご経験がある王妃様とファティマ様が心配そうにジャンヌ様を見つめる。


「………ジャンヌッ…………」


殿下はベランダの手摺に掴まり、身を乗り出してジャンヌ様の名を呼ぶ。


「アレク、落ち着け。我等男が焦っても何も始まらん。彼女が心配ならしっかりと見守れ!」


国王陛下が、身を乗り出している殿下を諭す。


「っ、ですが父上、ジャンヌがあんなに苦しんでいるのです!あんなに苦しそうに涙を流すジャンヌを僕は見たことが無い!なんとか助けてあげられないのでしょうか?!僕はあんなに辛そうなジャンヌを見ていられないっ!」


眼下では痛みに耐えきれなくなったのか、ネホンの皇子に介助されながら座り込んだジャンヌ様が息を荒げ、涙を流しながら苦しんでいた。ネホンの皇子の結界のせいで全く声は聴こえないが、唇が動いてるので、きっと悲鳴を上げているのだろう。

血にまみれた手で皇子の着物を掴み、もがき苦しんでいる。


「助けることは出来ぬ。それが出来るのは、あそこにいる輝来皇子だけだ。我等に出来るのは彼女が無事この儀式を完遂することが出来るよう祈るだけだ。」


「そうよ、輝来皇子とジャンヌちゃんをよく見ていなさい。将来、ジャンヌちゃんが貴方の子供を産んでくれるとき、貴方は彼処にいる輝来皇子の様にジャンヌちゃんを支え励ますのです。決して今のように取り乱してはなりません。一番辛くて苦しいのはジャンヌちゃんなのですから。」


涙目になり訴える殿下に、国王陛下と王妃様が冷静に話しかける。


二人に諭された殿下は唇を噛み、涙を堪えてジャンヌ様を見つめる。



その後は、見ているだけで息を飲む光景だった。

荒い息をしながら皇子の着物を噛み、必死に神を産もうとするジャンヌ様。

その、痛みを和らげるかのように優しくジャンヌ様の腰と腹を擦り、銀色光をジャンヌ様に注ぐネホンの皇子。

その光と呼応する血で描かれた鳥の絵がゆっくりと舞台から剥がれ、中空に浮かんでゆく。


床に張り付いていた絵が全て剥がれると、ジャンヌ様はぐったりとネホンの皇子にもたれ掛かり荒い息をしていた。


そして、中に浮かんだ絵が輝き、そこからとてつもなく大きな鳥が舞台の上に出現したのだが、あまりにでかい鳥とアレクサンドル殿下が階下のジャンヌ様に駆け寄ろうとして、それをまた王妃様が止めろと命令してきたので俺が殿下に抱き付こうとしたところ、あの恐ろしい拳に一瞬で沈められ、俺の意識はブラックアウトしたのだった。



………もう俺、護衛の仕事辞めたい。


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