突っ込み処が多すぎてどうでもよくなった件
いよいよ儀式です。
色々調べてたら時間がかかってしまったのと、うちのJr.がインフルで入院してたので、かなり遅くなりました。
いつの間にかお気に入りが1000件越してて夢じゃないかと、顔をつねって見たら痛かったのでたぶん現実なのでしょう。
ありがとうございます!
儀式三日前の朝。ふらふらと廊下を歩いていたら輝来殿下に会った。
「さあジャンヌ、今日は禊だぞ!そんな所でへばっていないで、さっさと着替えなさい。」
目の前にいる18禁皇子と隣にいる、ちょっと前まで童貞だった王子のせいで、とんでもない目に遭った。
「何が、着替えなさい。だ!あのロクでもない本のせいで散々ぱら着替えさせられたわっ!この18禁エロ皇子!」
と、小心者の為口には出さず、心のなかでシャウトして、ノロノロと着替えに向かう。隣には元童貞王子がツヤッツヤの顔で笑みを浮かべ、私の着替えに付いてくる。
「アル、本当に私達の禊を見学するの? 」
「ああ、僕も禊というものに興味があるんだ。だってまだ、秋前だとは言っても、大分涼しくなってきたのに井戸の水を被るのだろ?」
「ええ、国王陛下が王宮で一番深い井戸のお水を使っても良いと許可をくれたから、そこで禊をするの。ネホンでも、深い井戸や滝で禊をするのよ。」
「へえ…でも、冷たい水を浴びて風邪を引いたりしないの?」
「うーん。殆んどの人は引かないかな。禊で穢れを落とし、神力を高めると少しだけ体力が上がるの。ただ、真面目に祈ってちゃんと穢れを落とさないと風邪を引いたりするから、気を抜けないのよね。」
「その禊って、僕にも出来る?」
コテリと首を傾げながら素朴な疑問符で王子が問いかけてくる。サラサラの輝く髪が揺れて、頬にかかり少しだけ幼く見え、キュンと胸がときめいた。
はぅ。いつもは、黒い笑みやら、キリリとした表情が多いのに時折見せるこの、母性本能を擽る表情がたまらんですたい!
って、イヤイヤ。それどころじゃない、この王子が禊をやるって事だよな。あの、冷たい水をバッシャバッシャ浴びるの?………………イヤイヤイヤイヤイヤイヤ!無理だろ。ネホンの神を知らない王子が禊なんてやっても神力があがるわけ無いだろうし、風邪なんて引かれたら大事だ。ここは黙って見ててもらおう。
「………えーと、アルはネホンの神様を知らないよね?さっきも言ったけど、祈るっていうのは、ネホンの神様、鳳凰を信仰しないと神力が上がらないの。それに、神力は天皇家の人と巫女だけが持ってるから、アルが禊をしたら風邪を引いてしまうかも。………そうなったら私は心配で儀式どころではいられなくなってしまう。だから禊は見ているだけにして?」
そっと王子の手を握り視線を合わせる。すると王子はふっ…と溜め息をつき、了承してくれた。その後部屋に戻り、母が用意してくれた禊用の白装束に着替え、皇子の待つ井戸へと向かった。
井戸に到着するとそこには私と同じく白装束を纏った皇子が片岡様と護衛達に囲まれて立っている。そして片岡様の足下には儀式で使用する楽器と舞で使用する道具たちが並べられていた。
「お待たせして申し訳ありません。…それにしても儀式用の楽器と舞用の道具、よく揃えられましたね。」
「ああ、これか。まぁ、楽器はこの国へ来たときに皆で披露しようと持ってきた物で何とかなった。道具類に関してはシノが持っていたものと、ネホンで私がこの国へ向かうよう神託が降りた時に、念の為と持ってきて居たものだ。流石に双血点画神生の儀は想定していなかったから焦ったが、何とか事足りた。後は舞で使う三枚の衣装がまだ揃っていないからシノ達に代用出来そうなものを探させている。」
あー。確か、あの儀式の衣装は特別な形をしてるんだっけ。舞の間に効率よく脱がせなくてはならないから普通の着物とは違うんだよね。
と言っても私も実物は見たことが無いし、双血点画神生の儀、自体も実に二百年ぶりらしいから書物でしか知らないんだけど。とりあえず、禊を済ませてしまおう。
「そうですか。では、私達は禊を済ませ、舞の合わせ練習に移った方がいいですね。」
「そうだな、衣装の所はフリだけやって流れを確認するしかないだろう。では、早速禊を行うよ?」
「はい。ではアル、これから私達は禊に入ります。少しだけ離れていてください。」
王子に一声かけ、私と輝来殿下は井戸の石場に膝付き、手を合わせ禊祓詞を唱える。
天空に 神留坐す
神鳳雅 神凰麗の 命以ちて
皇親神根照輝本の 大神
羅園 日向の 桜の 小門の 天流留波原に
禊祓ひ 給ふ 時に 生坐せる 祓戸の 大神等 諸々 禍事罪穢を 祓へ 給ひ 清め 給ふと 申す 事の 由を
天つ 神 地つ 神 八百万神等共に
天の 角羽駒の 耳振立て 聞食せと 畏み 畏みも 白す
禊祓詞を唱え終わると井戸から汲まれた水を頭から被る。そしてまた手を合わせて禊祓詞を唱え、詞が終わる毎に右半身、左半身、右下半身、左下半身と水をかけてゆき、最後にもう一度頭から水を被って禊は終了する。
地中深くから組み上げられた水は冷たく、体の芯までピリリとした冷えと痛みを与えるが、その分脳は冴え渡り身体にまとわりついていた重みが、取れたように軽くなる。
水をかけ終わり、私と皇子は立ち上がると片岡様から盆に乗せられた塩を受け取り一摘まみを口に入れ、残りを互いの身体に振りかける。
これは禊をして浄化された身体に穢れを入れぬようにする儀式最後の仕上げだ。
『よし。これで朝の禊は終わりだ。新之助、すまぬが身体を拭く布をくれ。』
「アル、これで朝の禊は終了しました。後は、昼と夜にまたこれと同じことをするので一度着替えて、朝食を取ったら舞の練習に移ります。」
濡れた白装束のまま王子に近寄れば、険しい顔をした王子が準備されていたタオルを物凄い勢いで私に巻き付け、それでも納得がいかなかったのか自らのマントを剥ぎ取り、私の首下から足下までぐるぐると巻き付けた。ちょっ、王子!これじゃあ簀巻きになって歩けませんけど?!
「ジャンヌ、この禊という儀式が神聖なもので穢れを祓う為、必ずやらなければならないのはわかっているが、この格好はいただけない。白い布が水で透けて体の線が全て見えている!」
「えっ?体の線デスカ?!」
あわあわと視線を巡らせれば、輝来皇子が惜しげもなく鍛え抜かれた上半身をさらけ出し身体を拭いていた。そのまま視線を下にやれば確かに白い着物が濡れて身体に張り付いている。生地が重なっていないところはうっすらと肌色も見え隠れしていて、神聖な意味を無視して言えば、エロい。こう、見えそうで見えないところがかなりエロい。今まで禊は神聖なものとして考えてきたからそんなのは全然気にしてなかったけど改めて言われると少し恥ずかしくなった。
そのまま視線をさ迷わせれば半裸の皇子と目が合う。
『なんだジャンヌ、この私の身体に見とれていたのか?……ふふっ、なんなら触ってみるか?』
皇子が短めの前髪をかきあげ、クスリと笑いながら流し目で近寄ってくる。
う…。確かにイイ身体だ……六つに割れた腹筋が美しい。ちょっと触ってみたい気がする。
髪から滴った雫がツゥっと一筋鎖骨から臍に向かって流れ行く。禊で清められた身体なのに溢れ出てくるこの色香…水も滴る良い男とはこの事か!
と、考えているうちに視界が真っ暗になった。
「なんと仰っているかは解りませんが、これ以上ジャンヌに貴方の裸体を見させたくないので一度部屋に戻ります。この後は舞の練習でしたよね?僕は執務があって御一緒出来ませんが昼にも禊をされるのでしたらお早くご準備をなさってください。では!」
あ。急に暗くなったのは王子に目隠しされたからか!と理解した瞬間身体がグイッと浮き上がった。目の前が明るくなったのは良いが王子に俵担ぎされて部屋へ連行された。うっ!簀巻きで王子に俵担ぎなんて恥ずかしすぎる!まだ禊の後の濡れた身体で歩いたほうがましな気がする!
部屋に到着し、そっとベッドの上に下ろされる。巻かれたマントとタオルを外されていると王子の濡れた瞳がこちらを見ている。頬に手が触れ、濡れた髪を払われた。
「……………ジャンヌ…………」
ゆっくりと王子の顔が近づいて来る。つい瞳を閉じてしまいそうになるが、そっと王子の胸に手を当て、距離を取る。
「ごめんなさい…。禊の間は…」
「ああ、そうか。口付けも駄目なのか………。解っては居ても辛いものだ。」
切なそうに顔をしかめた王子に胸が苦しくなる。でも、この儀式は必ず成功させねばならない。でも、禊の度、身体が触れ合う度に、王子にこのような顔をさせたくない。
それならば、この儀式が終わるまで、私達は離れていたほうが良いのではないだろうか。
「アル、私はこれから儀式に集中力するためにアルとは会わない方が良いと思うの。………だから、」
胸に当てた手を王子の背中に移動させる。………だからの先が上手く伝えられない。
言葉にならない想いを王子に抱き付くことでなんとか伝えたかった。
「解ったよジャンヌ。では僕はジャンヌ達の儀式が恙無く進むよう手を回すよ。次に逢うのは儀式当日だ。お互いに頑張ろう……。」
王子がギュッと私を抱き返し、名残惜しむようにゆっくりと身体を離すと私の頭を一撫でして部屋を出ていった。
「わたし、かんばるから……。」
王子の消えた扉に声をかけ、身支度を整える。
何がなんでもこの儀式は成功させる。そう意気込んで部屋を後にした。
それからあっという間に三日が過ぎ、いよいよ儀式当日になった。
元々今日はネホンから来た皇子達の歓迎式典がメインなので朝早くから近隣の領主達が続々と王宮入りし、遠方の領主達は昨日までに皆が王都の領主館に詰めていた。
儀式前の最後の禊に向かう前に、チラリと来客者の様子を確認したら、人、人、人…物凄い沢山の人が押し寄せていた。
「ヒェェェェェ…こんなに沢山の人が歓迎式典に参加するの?」
柱の影でガクブルしていると不意に肩を叩かれヒョワァ、と変な声を出してしまった。振り返ると、何とも地味で目立たなさそうな格好をした王妃様とファティマ様がニコニコと笑って立っている。
「お早う、ジャンヌちゃん。昨日は良く眠れた?今日は凄い人が沢山居るでしょ?遠路はるばるやって来てくれたネホンの皆様のために私達頑張っちゃった!」
うふふ…と楽しそうに笑う王妃様をウットリ見詰めるファティマ様。………相変わらず揺るぎない。
「今日はジャンヌさん達が特別な儀式を行うと言うことで国中の貴族を集めましたの。何でも、輝来殿下に伺いましたら大変美しい舞を踊られるとか。より多くの方にご覧頂きたいわと申しましたら特別な神事ではあっても、観覧制限は無いとのことでしたので舞台も特別に設えましたのよ。」
「え?」
ちょ、ファティマ様!何言ってくれちゃってるの?!とっ特別に設えたってどういうこと?!より多くの人に見てもらうって…?!
「王宮の一般参賀で使われるベランダを少し改装して舞台を作ったの。貴族達は王宮側から見れるように場所を確保して、城下の国民達は少し離れたら舞台下から見れるようにしたわ。なんて言ったって神様が降臨なされるのでしょ?私達の国では神様への信仰なんて殆ど無いから、神様がどの様な方なのか興味津々だと思うのよね。だから、みーんなに見てもらえるようにしにゃったv」
いやいや!しちゃったvテヘペロじゃないですよ王妃様!ファティマ様は王妃様を見てトゥンク☆ってやってる場合じゃない!
「そう言えばジャンヌさん。」
「はっ、はい。何でしょう?」
「そろそろ準備しないと時間無くなるわよ?」
ふと、壁にある大時計に目をやると大分時間が過ぎている。
「え?あっ、あああぁぁぁ!本当だっ!直ぐに禊をして着替えないと!すっすみませんこれで失礼いたしますっ」
慌ててお二人の前を辞し、禊の場所へ向かうと輝来殿下が待ちわびていた。
「遅いぞジャンヌ。さあ、最後の禊を始めよう」
「はっはい、申し訳ありません!」
手早くかつ、これまで以上に精神を集中させ禊を行い、母達が待つ部屋へと向かう。
部屋に着くと入ると母と片岡様が皇子と私の衣装を準備していた。片岡様は衣冠という束帯のような大祭用の正装で、母は巫女の常装の緋袴で着付けの補助をしてくれる。
私は母と同じ緋袴の上に千速を羽織るのだが、全ての衣に鳳凰の地織りが入っている。
輝来殿下の狩衣は千歳緑の狩袴に白い上衣で、私と同じ鳳凰の地織りが入っている。
狩衣と千速は神職の衣ランクでは下の方だ。今の段階では片岡様が着ている衣冠が最高ランクで、皇子と順位が逆になっているが、双血点画神生の儀では儀式を執り行う舞手の衣は神職の常装で執り行わなければならないのだ。
「ジャンヌ、此度の大役、母は誇りに思います。」
そっと千速の紐を結ぶ母がポツリと呟いた。
「母さん………。」
「この双血点画神生の儀は最後に執り行われたのが約二百年前………神の降臨は幾度も有れど、血肉を得て降臨なされるのは久方ぶり。しかもその場所がネホンの地ではなく、ネホンの神々のお力も届きにくいこの地で……。儀式で捧げる貴女の血と神力がいかほどのものか………。いくら神からの神託で安全とは解っていても………… 」
母さんは私の両肩をゆっくりと撫でて心配そうに瞳を揺らす。
「大丈夫です。必ずやこの大役、果たして見せます。」
普段は般若か阿修羅と思われるほど怖い母さんがこんなに心配してくれている。仮にとはいえ出産のような痛みを身体に受けるのだ。負担は相当なものなのだろう。それでも、やりとげて見せる。愛する人のいるこの国とネホンを繋ぐ架け橋として。
『ジャンヌ、そろそろ時間だ。参るぞ』
狩衣に着替えた皇子と共に、まずは歓迎式典の開かれる大広間へと向かった。
大広間へ到着すると、すでに国王陛下達は壇上で私達を待っていた。そして高らかに輝来殿下達の名前が呼ばれ、殿下と共に人垣の割れた道を進み、国王陛下達、王族のいる壇上に登った。
「皆も知っているかとは思うが、このたび、我クロスクロウ王国と東の閉ざされた神聖な国、ネホン皇国との和平協定により国土の一部を互いに譲り合う事と相成った。そしてその和平協定を結ぶため遠い東の果ての地より、次期天皇となるネホン皇国第一皇子が来国した。これより彼等の歓迎式典を執り行う。」
国王陛下が皆に歓迎式典の開始を告げ、手を上げると。参列している貴族達が次々と頭を垂れる。
その後、輝来殿下達の紹介等が行われ、輝来殿下がクロスクロウ語で挨拶を述べる。
鍛えられた身体に白い狩衣を纏い、低く、腰に来るような美声と濡れた黒い瞳の異国の皇子に、列席している女性達からは溜め息が漏れ聞こえる。
そして皇子の隣でひっそりと息を殺している私には"なんで美形の隣にあんたみたいなのが居るのよ"と鬼気迫る殺気を滲ませた視線が送られる。
ああ。儀式前に神経が焼ききれそうです!
輝来殿下の挨拶が終わり、気が付くと王子が私の隣にたっていた。
え?ちょ、なんで王子がここにいるの?!さっきまで反対側に居たよね?
いつのまにか皇子が隣に居て慌てていると、王子にそっと手を取られた。
「さて、この機会に、皆へ1つ伝えたいことがある。先日、我が国初の女性辺境伯となったジャンヌ・フォルゲン嬢と、我が息子アレクサンドルはこの度婚約する事と相成った。彼女はネホン皇国の高位巫女の血を引き、我が国とネホン皇国の和平の橋渡しとなった。その功績と我が息子アレクサンドルたっての願いによりこの二人の婚約をここに宣言する。」
ワァっと会場から歓声が上がるが半分は女性の悲鳴だった。
ちょっと!国王陛下!!なんでまたこんなタイミングで婚約宣言なんてするんですか!!
今や会場中の女性から殺意の視線が向けられてるんですけど!!!!(涙)
「ジャンヌ、三日ぶりだね。今日の君は輝くように神々しく美しいよ。」
キラッキラの衣装を身に纏ったキランキランの王子に言われても悲しくなるだけですからっ!
「そしてもう1つ、彼女と輝来皇子が揃いの衣服を纏っているが、これはかの国の特別な儀式の衣装だ。先日、神のいる国ネホンの巫女であるジャンヌの母、シノ準男爵婦人に神託が降りた。これよりその神託を遂行させるため、王宮の一般参賀王族降臨所の特設儀式舞台で神降ろしの儀式を執り行う。ネホン皇国を司る神が我が国に降りるのだ。皆も無礼無き様に振る舞え。」
国王陛下が王子との婚約発表から畳み掛けるように儀式の内容を説明する。なんだかもう色々と展開が早すぎて目を回しそうです!
「ジャンヌ、そろそろ太陽が真上に昇る。儀式を始めるから舞台に移るぞ。」
輝来殿下が舞台に向かうため移動を始める。
「じゃあ僕はその舞台まで君をエスコートするよ。」
えっ!王子にエスコートされながらあの射殺されそうな視線の真っ只中を突っ切るの?
何その無理ゲー!
「…………ふむ。では私も反対側に回って巫女殿をお連れしよう。これから大役を努める巫女だ。何かあっては大変だからな」
えええっ!なんだそれ!いや、いいよそんなことしなくて!王子だけでも酷い睨まれようなのに、あんたが反対側に居たら確実に呪い殺される!
視線で、結構です!と訴えても皇子はニヤニヤと面白そうに笑って私の手を取った。
あぁほらぁ~ご婦人がたが更に殺気立ってるよぉ~。
ヤメテーモウホントニヤメテー!!(大泣)
そうこうしているうちに特設の舞台に到着した。
………………ナニコレ?
年に数度王族が国民の前に姿を表す広いベランダの一ヶ所には階段と手刷りが作られ、そこから1メートル程階段で降りた所へ、競り出すように作られた20畳程の舞台があった。
ベランダから見た地上には多くの国民が王族とネホン皇国皇子の登場を今かいまかと待ちわびており、物凄い歓声が聞こえる。
なんだこれなんだこれなんだこれっな、ん、だ、こ、れぇ~!!!!!!!!
なんでこんなに国民が集まってるの?
地上から15メートルは有るであろうこの舞台を僅か5日で作れるもんなの?
って言うか、私以外の人たちは何でこの状況で平然としてるの?
ああもう何処から突っ込めば良いのやらっ!
ふと、王妃様を見ると「私達頑張っちゃった☆」と国王陛下の両腕を掴んでウインクしている。王妃様とファティマ様に腕を組まれ、ドヤァと笑う国王陛下に殺意が沸いた私は悪くないはず。
引きつる唇をなんとか叱咤して、楚々と階段を降り舞台端に到着すると、片倉様達が楽器を手に舞台の脇に陣取る。その中に見知った顔が居て更に驚いた。
「シン!あんた何でそこに居るのよ!ってか衣冠似合わない!」
「うっせー!楽器弾く奴が足りないからって駆り出されたんだよ。姉さんだって、千速に着られてるっつーの。それより、ちゃんと踊れるんだろうな?!」
「はぁ?踊れるに決まってるでしょ!母さんの鬼の特訓で完璧です!あんたこそトチるんじゃないわよっ!」
「俺がトチる訳ないだろっ!それこそ母さんの地獄の特訓で楽器捌きは完璧だ!失敗なんかしたら間違いなくこの世からサヨナラさせられるんだ。死ぬ気でやるさ。」
私とシンが言い争っていると、王子が苦笑しながらエスコートの手を離した。
「……………なんと言うか、シノ殿の教育の恐ろしさが滲み出ているね。でも、シン君のお陰で緊張は大分取れたみたいだ。僕は上からジャンヌの儀式を見ているね。上手くいくように応援してる。頑張って。」
ゆっくりと私の頬を撫で王子は階段を上りベランダに設えられた椅子に座る。
母がやって来て私と皇子に儀式で使う三枚の衣を着せる。
『殿下、ジャンヌ。準備はよろしいですか?』
『ああ。何時でも大丈夫だ。』
『はい。大丈夫です。』
『では、これより双血点画神生の儀を執り行います。』
舞台に置かれた太鼓が大きく叩かれる。
太鼓が叩かれるたび、周りの喧騒は静まり、場の緊張が高まってゆく。
皇子と共に舞台中央へと足を進める。
太鼓の音が鳴り止み、私と皇子は二礼二拍手一礼をしてから御祓詞を一度唱え、舞台前方に置かれた舞の神機を手に取る。
私は右手に両刃の小太刀を持ち、左手に神楽鈴を持つ。皇子は両手に60センチの大扇を一本づつ持ち、舞台の右端と左端に移動し、向かいあって立つ。
曲が始まった。
まず皇子が大扇を広げ、舞台中央へと進み扇で体を隠すように踞る。
私は曲に合わせて鈴を鳴らし、皇子の居る所まで行き、抜き身の小太刀を振るいながら時計回りに皇子の周りを歩く。
一周したところで止まり、小太刀を舞台に突き刺す。扇の中に隠れた皇子がゆっくりと顔を上げ私と視線を合わせると、扇を大きく広げ立ち上がる。それに同調するように今度は私が踞り、着物の袖で顔を隠す。その周りを皇子が反時計回りに歩き一周したところで扇を畳む。右手に持った扇で私の顎を持ち上げ再び視線を合わせると、私は立ち上がり目を閉じる。皇子が私の一枚目の赤い着物の紐を解き、後ろに回り込むと、それをゆっくりと引き抜く。赤い着物が引き抜かれ下から黄色の着物が現れると皇子は自分の着ている一枚目の着物の紐を解き目を閉じる。今度は私が皇子の後ろに回り込み、皇子が左手に持った赤い着物ごと皇子の千歳緑色の着物を引き抜く。緑色の着物の下から現れたのは目も冴える紫の着物。
私は引き抜いた二着の着物を抱え舞台の前方端に座る。その間に皇子は舞台に突き立てた小太刀を引き抜き剣舞を踊る。それが終わると小太刀を持って私の居る所までやって来て私の抱える着物を受けとり座り込む。皇子と入れ換えに私が舞台中央に置かれた皇子の大扇の一本を取り、末広の舞を踊る。この扇は大きいだけあって非常に扱いづらく一本を両手で振り回すだけでかなり大変だ。それでもふらつかないよう優雅に踊らなくてはならない。末広の舞を踊り終えると扇を畳んで皇子の所に向かう。座っていた皇子が立ち上がり
先程の着物を片手に持つ。私が皇子の後ろに立ち両脇下から手を差し入れ皇子の二枚目の紐を解き、手に持った着物と共に引き抜き、皇子と同じように片手に持つ。紫の着物から銀色の着物になった皇子は私が先程やったように、私の後ろへ回り脇下から手を差し入れ紐を解き、手に持った着物ごと黄色の着物を引き抜く。
金色の着物になった私は皇子と共に引き抜かれた着物を中央へと運び、その上に小太刀を乗せる。
その後皇子は二本の大扇を手に取り、私は神楽鈴を持つ。
ここから曲調が一気に早くなり、皇子は二本の大扇を悠々と広げ舞踊り、私も鈴を高らかに鳴らし、皇子と対の舞を踊る。その舞の最中、時折私達が寄り添う時に少しづつ互いの着物の紐を解き、舞が終わる最後に舞台中央で向かい合い、抱き締めるような形で互いの着物を脱がせる。脱ぎ落ちた最後の着物を今までに脱いだ着物の上に重ね、神楽鈴に付いている五色の紐で結ぶ。それを挟み込むように二本の広げた大扇の間に差し入れ、舞台中央に置く。
ここで曲が一度止まり、白い狩衣と千速になった私達は皇子の左手と私の右手を絡め合わせ、天空を仰ぎ見る。
『我、皇親神根照輝本の末裔、輝来。かくも尊き鳳凰神よ、我が血・我が肉・我が気を以て地上に降りましたまえ』
『我、神の声を聞く神託の巫女、ジャンヌ。かくも尊き鳳凰神よ、我が血・我が肉・我が腹を以て地上に生誕されませ』
皇子と私が神への詞を唱えると、皇子が小太刀を手にする。
『ジャンヌ、この刀で私達の組んだ手を切りつければいよいよ神が降りるぞ。覚悟はいいか?』
『はい。必ずや産みの痛みに耐え、神を出現させて見せます。』
『…………よい心がけだ。ならば、参るぞ。』
『………はい。』
組んだ掌の間に皇子が小太刀を挟む。
『…………ではジャンヌ、引き抜くぞっ!』
『はい。………っあああああああっ!』
皇子が掌に挟んだ刀を引き抜く。焼けるような痛みが右の掌を襲い、無意識に悲鳴が上がる。
『ッ!!!!ジャンヌ、私と手を擦り合わせろっ』
皇子にギュッと指を握られ互いの傷が触れ合う。そのとたん、今度は痛みでなく、強い快楽が身体を襲う。
傷口を擦り合わせ、血が混ざり合い、その滴りが扇の上に落ちる。
『くっ……………これは結構クるな………。大丈夫かジャンヌ?』
荒い息の皇子が目尻を染め、色の滲んだ表情で問いかけてくる。
『………んっ………はっ……はい。……………なんとか、だ………ぃじょ、ぶ………です。』
腰からゾクゾクと這い上がってくる快楽に耐え答えると、皇子が更に強く傷口を擦り合わせる。
『ひぁっ!』
グリッと擦られた手と、強い快感に思わず甘い声が上がる。
ヒイイイイイイ!変な声出たっ!これじゃあマジでヤマシイことしてるみたいじゃないかッ!!!!
『………っほう………随分と良い声で啼くな………』
は?!何言ってんだこの皇子は!まさか、まさかこんなところで18禁皇子発動じゃないだろうな?!
『気に入った。…………もっと啼け。』
『………ちょ、………まっ………な……に………………やめっ…………っあ、………ダメっ!』
こんの、じゅうはちきんおうじぃぃぃいぃいぃぃぃい!!!!!!!
欲望を孕んだ瞳が私を捕らえたかと思ったら、直ぐ様握った手の上に皇子の右手が添えられ、傷口を抉るように手を強く合わせられる。
普通に考えたら痛みに失神するんじゃないかと言うくらい傷口を開かれ抉られているのだが、身体を襲うのは蕩けそうな程の快楽。
鬼畜ドs皇子の、これってある意味18禁攻撃!に抗うため、左手で皇子の右手を押し返そうとするのだが、如何せん力に差が有りすぎて殆ど意味がない。寧ろ皇子は更に握る手に力を込めてくる。
正直、立っているのがもう限界だ。崩れ落ちそうになる腰を、唇を噛んでなんとか持ちこたえさせる。
これならばおかしな声も出ないしなんとかやれそうだ。
『なんだジャンヌ……そのように唇を噛んでは血が出てしまう。…………それに声も聴こえないではないか。…………安心しろ、この儀式に入ってすぐ防音の結界を発動させた。好きなだけ声を出していいぞ』
皇子の顔が近寄ってくる。視線は私の唇を捕らえ何となく目的が分かった。コイツ、キスして私に声を出させるつもりだな!!
快楽に狂ってなのか、ただ単に鬼畜ドS18禁皇子だからなのかは解らないが、このまま好きにさせて堪るか!私には金髪蒼眼18歳王子がいるんだ!
近づく皇子の顔から距離を取り、美しい顔に向けて思いっきり頭突きをかます。
ゴンという音と共に超至近距離で皇子の黒い瞳と対峙する。
『~~~~~~~っジャンヌ……………。』
思いっきり頭突きしたから凄くおでこが痛い!でも、お怒りになった輝来殿下の視線はもっと痛い!!
一瞬、身体を襲う快楽が消え失せ、危うくチビりそうになった。
こっ恐ぇぇぇぇぇぇぇえぇぇえぇぇぇ!!!!!!
私は半分涙目で皇子を見据え口を開く。
『………儀式…に…しゅ……しゅうちゅ……って……下さい…………間もなく……鳳凰が書き上がり………ます!』
皇子の視線を床下に誘導させれば、私達から滴り落ちる血が扇で受けられ。更にそれが舞台床へと流れ出て鳳凰の絵姿になっている。今、最後の尾羽が描き出され、先程まで身体を襲っていた快楽の波はゆっくりと引いていった。
『………チッ、もう少し楽しみたかったが仕方あるまい。どうやら鳳凰が書き上がったようだ。間もなく鳳凰生誕の陣痛が始まるだろう……っ!』
皇子が話終えたとたん、血で書かれた鳳凰がドクリと脈打つ。
そしてその鳳凰が脈打つと同時に下半身に痛みが走る。陣痛が始まったのだ。
『……………痛っっ!!!!!!』
手を切った時とは比べ物にならないくらいの痛みが下腹部から沸き起こる。
皇子と絡めていた手をほどき、無意識に腹を押さえる。千速が血で汚れるがそんなことはどうでも良い。
とにかく、物凄く腹が痛い!
ドクン、ドクンと鳳凰の絵が脈打つ度に私の腹は痛み、腰がミシミシと悲鳴を上げる。
『陣痛が来たか…ジャンヌもう座れ。これから私が気を送る。痛みで舌を噛まないように私の衣を噛みなさい。』
皇子にゆっくりと絵の前に座らされ頭を皇子の肩口に寄せられる。皇子の狩衣を食まされ、皇子の血塗れた左手が腰に回された。
その時、また鳳凰がドクリと脈打つ。最初の痛みから脈打つタイミングと痛みの間隔が短くなってきた。
『……ふっ……ううっ』
『痛みの間隔が大分短くなってきたな。だがまだ息む時ではない。鳳凰の絵が床から剥がれはじめてから息むのだ。それまでは、極力息むな。痛みが来たら細く長く息を吐け。………大丈夫だ、私が付いている。私の呼吸に合わせろ。』
皇子の右手が腹に添えられ、皇子の気が流れ込んでくる。うっすらと銀色の光を纏った温かい気は、少しだけ痛みを和らげる。そして、その気の流れと連動し、鳳凰の絵も薄銀色に輝く。
短い間隔で痛みの波が次々と押し寄せる。痛い。言葉に言い表せないくらい痛い。腹がグググっと圧迫されるような感覚に陥り、身体から何かが出ていこうとする。
『うぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!!!』
『っ、よしっ、絵が剥がれ始めてきた!息んでいいぞ。自分の頃合いの良い所で息め!』
皇子の右手と肩に捕まり、痛みの間隔を縫って息む。
余りの痛みで若干パニックに陥り上手く呼吸が出来ない。流れる汗のせいなのか、酸欠で意識が朦朧とするのかは解らないが、視界がボヤける。
『ジャンヌっ!目を瞑るな!私を見ろ!私の呼吸に合わせるんだ、さあ。』
皇子がゆっくりと呼吸するのに合わせて私も呼吸をする。
『上手いぞジャンヌ。その調子だ』
皇子がニコリと笑いながら誉めてくれる。よく見れば彼の額や首もと、握った手にも玉のような汗をかいている。
『見えるかジャンヌ。鳳凰の絵がもう首のところまで剥がれてきている。後は胴体さえ剥がれれば尾羽はあっという間に剥がれると聞いた。……あと少しだ!共にこの儀式を成功させよう!』
『……は……い…。 』
そうだ、なんとしてもこの儀式を成功させたい。いっぱい、いっぱい頑張ったねって王子に誉められたい!抱き締められたい!そして、18禁皇子の頭を思いっきり一発殴りたい!
その目標達成のため渾身の力で思いきり息む。
すると、みるみるうちに鳳凰の絵が剥がれ、胴体の一番太い所を過ぎた所で一気に絵が剥がれた。
『やったぞジャンヌ!絵が剥がれた!鳳凰が降臨したぞっ!』
強烈な脱力感と共にグッタリと皇子にもたれ掛かる。
朦朧とする視線の先で、鳳凰の絵が金色に光り、そこから赤を基調とした極彩色の鳥が大空に翼を広げ、舞台中空に舞い降りた。
『赤い鳳凰………凰麗様か。』
皇子がポツリと漏らせば、鳳凰は床に座り込む私達の前に降り立ち、広げた羽根で私達を包み込んだ。
"『輝来、ジャンヌ………此度の大役よくぞ頑張りましたね。』"
鳳凰から優しい女性の声が聞こえた。神様からのありがたい御言葉なのに私の口から飛び出した言葉は何とも情けない言葉だった。
『鳳凰様って…………でっかい。』
脚注で御祓詞は半分オリジナルです。御祓のやり方も、儀式も全部オリジナルなので、本当のやり方はコウジャネェ!というツッコミは無しの方向でお願い致します。
ほら、日本じゃなくて、ネホンだし♪テヘペロ。
それでは次回、"おうじ"が大変なことになります。お楽しみにっ!




