名前2
「エンリルによくも……許さん」
山の半分の下り道を狼に跨り駆ける中、馬に乗るアルクトスからは狼に対する殺気を感じていた。たまに狼が大きくジャンプするときがあって、お尻を強くうつときがあった。そういうときに、アルクトスは熱り立っていた。
また夜になる頃には、明日で国境を超えられるというところの距離になっていた。山の麓は山頂よりもすごしやすい気候だ。
「狼さんすごいのね。本当に早いわ」
倒れている木に腰かけて狼の頭を撫でた。撫でるたびに、隣りにいたアルクトスがその光景に納得がいかないような顔つきをしていた。
「おまえ……エンリルは………絶対渡さん」
アルクトスが小言を言いながら薪を次々に入れるから、焚き火はバチバチとうねりながら、いつもよりも盛んに燃え上がっていた。座っているのがこの座り心地のいい岩でなければ、今頃燃え移っていたかもしれない。
「そこまで言わなくても」
炎の大きくなった焚き火を見て、さすがにアルクトスの手を掴んで薪を入れるのを止めさせた。
「分かってないんだ……エンリル………何度も尻をうたれただろう?あれは……わざとだ」
私の手を握り返してアルクトスは真剣に言うものだから、少し笑ってしまった。
「あれはいろいろ地面に障害物があったから避けるためよ」
「…なら……俺も」
アルクトスは私の腰に手を回して、体をさらに引き寄せた。なにか、嫌な予感がしたので彼からできるだけ距離を取ろうと彼とは反対の方向へ体を傾けた。しかしアルクトスの強い力によって、逆に彼の方へ引き寄せられ、その勢いのまま彼の前に座らせられる。背中にアルクトスの胸板や腹筋が感じ取れ、鼓動までも響いて伝わった。
「なぜ…逃げる?」
彼の腕が私の腰を確りと固定して離さず、明らかに今までとは違った態度で近かった。
「ちょ、ちょっと!」
彼は抱きしめるだけでは足りないようで、私の耳にふっ、と息を吹きかけてきた。
くすぐったくて、声を上げながら思わず耳を抑えた。突然何をしてくるのか。
「…」
今度は黙って太ももを触られた。
「わかった、わかったわ。つまり、狼さんはこういうことをしてたのね」
「いいや、もっとだ」
彼は私の太ももを触ったあとに、また耳に刺激を与えてきた。
「あ……アルクトス……やめてよぉ」
情けない声を出すしかできなかった。彼が私の耳を舐めては、首筋にキスを落としてきた。チウチウと印をつけるかのように、強く熱烈に私の皮い上げるような口づけだった。
生温かなザラザラとした舌の感触が何度も何度も首周りを舐めて、とうとう私の初めてのキスをも奪った。
「んんっー……」
初めてだというのに、長く熱を帯びたキス。アルクトスの薄い唇が私が紡ごうとする言葉を遮った。遮っては、私の足をその温かい手で、太ももや、ついにはお尻の方まで撫でてきた。
彼の行為が終わる頃、私は頭が真っ白になっていた。
「狼は……明日には…別れよう」
アルクトスは立ち上がると、薪が足りないと言って、そのまま森の奥へと行ってしまった。




