番外編 〜子供への教え方〜
二人の最初の生
子供二人のはしゃぐ姿と、純粋に教えを乞う姿。
微エロになるので、苦手な方はあらかじめご了承下さい
私の子どもたちは今日も元気よく走り回っている。
「母上……見て」
「きれいな花ね、リーントス」
「母上、僕のも見て!」
「いい色ね、ルクン」
二人の上の兄弟たちは、自力で走り回れるようになった。獣人の子供は幼少の頃から足腰が強いらしいから、三歳でもかなり早く走れてしまう。
弟のルクンと、少しばかり手加減しながら追いかけ合うリーントス。
公爵邸の庭園で、先程まで鬼ごっこをしていたかと思えば。その小さな手に、地面から生えていた花を摘んできた。
「ふふふ。二人から貰えるなんて、私はモテモテね」
「その花言葉……愛だもんね」
「兄上、花言葉分かるの?」
ルクンが兄リーントスに尋ねた。リーントスはアルクトスに似て、薬草の知識を蓄え中である。
花言葉が愛を示す赤い星型の花弁を持つこの花。リーントスは獣耳をピコピコさせながら、ルクンに頷いた。
「赤は愛……母上の色。ルクン……赤は母上の愛情」
「赤は母上の愛。わかった!」
無邪気に二人が頷きあうものだから、ものすごく可愛い。半年前に生まれた妹のエルリズも天使のように可愛らしくて、今は乳母に見てもらって眠っている。
私も久しぶりに芝生の上に腰を下ろして、空を見上げた。
春の薄水色の空は、まだまだ晴れ模様。
遊ぶには最適で、ルクンとリーントスが隣にちょこんと座った。
「兄上、聞いてもいい?」
「何……?」
「子作りって何?」
思わず空耳かと疑った。
ま、まさかルクンの口からそのような言葉が出るとは。
どこでその言葉を聞いたのか。
アルとそのような話題は二人の前でしたことはない。
ハラハラしながら、兄の回答を待つ。右側にいるリーントスは答えた。
「子供を作ること……母上と父上から……僕たちが生まれた」
ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間。活発なルクンは突っ込むのように聞いた。
「どうやって作んの?」
「……分からない。それは……どの本にもない…」
それもそのはず。
彼らに与えている本は、そのような知識を載せないようにしている。
まだ知るには早すぎる。
と、アルクトスと同じ金色の真ん丸なお目々たちがこちらを見た。
「な、何かしら?」
苦笑いしか出ない。
背筋に何か冷たいものが流れる。
「母上、僕たちどうやって作るの?」
「僕も知りたい……どこにも載ってないから……」
「そ、そうねぇ」
どう答えれば良いのだろうか。
私が王妃教育を施されていたときは、確か十四歳ぐらいには知っていた。男性を気持ちよくさせるのと、子供を作るというのはどういう行為を経るのか。
しかし、彼らはまだ十代に入るか入らないかというところだ。
答えにあぐねていると、二人の体が膝に乗ってきた。
「どう作るの?子共って」
「母上……知ってるよね……?」
「あ、うん。し、知ってるよ?」
四つの金色の目がこちらを向いて、純粋に見てきた。
いけない、私は知ってしまっているからこの子達にどう伝えればいいのか分からないわ。
子供の性教育って、いつから始めればいいの!?
問い詰められるようにして、二人の目線から逃れようと背中を後ろに傾けた。
「リル……ここにいたのか」
「アル!!丁度いいところに来たわ」
公爵邸での仕事を終えたアルクトスが来たので、急いでその大きな手を引っ張った。
助け舟は、アルクトスしかいない。
私にはこれをどう答えてやればいいのか分からないから。
「二人がね、その…子作りについて知りたいそうよ。リーントス、ルクン、お父さんの方が良く知ってるわ。だから、よく聞きなさい」
丸投げして、どうにか四つの満月な目を自分から反らした。
ごめんなさい、アルクトス。既に私は、顔が真っ赤でお手上げよ。
「父上教えて!」
「父上…分かる?」
純粋な目の攻撃はかなり堪えるであろう。しかし、アルクトスは芝生に座り込むと、私の背中とピッタリ胸を合わせた。
後ろから彼の手が腰に回されて、私だけを腕の中に閉じ込める。
「こうするんだ……リーントス…ルクン。心の底から愛しあう番と……助け合う…支え合う……そういう覚悟を…決めてからだな。だんだんと…二人で幸せを増やしたい………そう思ってきたときに…お前たちができた……」
優しく投げかけるように、アルクトスは子どもたちに聞かせた。
まるで優しいおとぎ話を聞かせるときのように。二人は獣耳をピンと立てて聞いている。
「お前たちは……幸せそのものだ。俺とリルの…幸せと…喜びと……楽しみが……全て混ざり合ってできた……。子作りとは………番との愛情……それから…生涯を共にする覚悟…そこから始まる」
心のなかで流石だ、と思いながら頷いた。
「番との愛と覚悟?僕にはまだ分かんないや。兄上はわかるの?」
「僕もまだ…番はいない。でも…母上も父上も……この赤い花みたいだ…」
リーントスが握っていた赤い花を、私の髪に刺してくれた。
赤い髪に赤い花。
血のような色だと、昔は思い、言われてきた。でも今は、どうだろうか。
愛情の色だと彼等は言ってくれる。私達なりに紡ぎ出した愛の色は、こういう色なのだと思えて美しく見えた。
「ありがとう。二人共、いつか番が見つかるわ。その時になったら、また愛と幸せを増やしていくのよ。覚悟とともに」
アルクトスと歩む覚悟を決めて。
それを今でも忘れていないように。
リーントスとルクンは、また興味がそれたのか鬼ごっこをし始めた。二人のはしゃぐ姿を見ていると、本当に今の幸せがたくさん詰まっているようだ。
「エドワード王子もナスタシア様も、ルクンが生まれる頃に離婚したと聞いてるわ。根強い覚悟も、やっぱり重要なのね」
「そうだな…だが彼らも……少しは成長して…また新しい歩みを…始めてるだろう……」
アルクトスの太い腕に手を重ねて、彼の体温を感じ取った。背中から温かい心臓の鼓動が流れてきて、私の鼓動を作り上げるようだ。
二人で調和するような、溶け合うような。そのぐらい、私達の愛は近づき合っていた。
「ところでリル……俺に丸投げしたな……」
「な、何のことかしら」
「誤魔化すな………俺にはいつでも頼っていいが……聞くぞ。何て答えようとした……?」
「ど、どうかしらねぇ」
視線を泳がしてしまう。
穴があったら入りたい気分だ。公爵邸に戻りたいが、彼の後ろから抱きしめてくる腕は強い。
言い逃れなどできない状況である。
「その…夜の営み部分をどう優しく伝えるか考えてしまったわ。アルみたいな素敵な考え方よりも、現実を伝えようとしてしまったの。本当、母親失格よ」
彼のおとぎ話を語るようなものではなく。
王妃教育で聞かされていた通りに話そうとしてしまっていたのだ。
落ち込んでいると、耳元にフッと吐息がかかった。
「リルの耳…真っ赤だ……」
「もう、私で遊ばないでよ」
「嫌だ……君で遊ぶのは…朝から晩まで…俺の特権だ。特に……今晩は…激しくなるかも」
「っ!もうっ、もうっ…そういうのダメだから」
耳の先を舐められて、肩が強張ってしまう。
いつになっても、彼に遊ばれるのはものすごく恥ずかしい。
リーントスもルクンも、使用人に見守られながらも少し遠くで走り回っている。
そのせいで、アルの遊びが止まらないのだ。
「リル…」
愛称を呼びながら、その鍛錬を積み重ねる手が胸元を探るように伸びてくる。
もはや逃げる余地はない。
「ちょっ、ちょっと!や、ダメ」
「赤い……リルの耳も…顔も……全部真っ赤だ」
「言わなくていいからっ」
「可愛い……いつまでも可愛い…」
囁くように、焦らすように。
耳元をゆっくりと撫でるように話してくる。
顔も体もものすごく熱い。
春の陽気な過ごしやすい気候だというのに、真夏かと思えるほど暑い。
「発情しそうだ……リルの匂いだけで」
「それもう病気じゃないの」
「ふっ…病気かもな…。リル依存症……」
何だろう、その危ない病名は。
胸にいく手を離そうとしたが、彼の手は中々離れてくれない。遠くにいるけど、目の届くところに子供がいるのだから。私は焦って焦って仕方ない。
しかし、彼はこの状況をかなり楽しんでいる様子だ。
「あなたと子供ができにくいはずなのに。いっぱいできちゃって、むしろ困っちゃうわ。もう、どうしてこんなに幸せを増やしちゃうのかしら」
「リルが魅力的だからな………加減ができない…。早く貪りたい……」
これは夜が来たら、こってり絞られてしまうやつだ。
「君の耳も…唇も……胸も……全て…俺のものだ。俺の匂いで…満たしたい…」
「お陰様で、朝起きたら子供たちにお父さんと間違われるのよ?私の香りがどっかに消えてしまうわ」
「フフっ…それがいい。君の匂いは…近くで嗅がないとわからないほどに……俺の匂いをつけておこう…」
よく聞こえるクマの耳なのに。
彼は私の言葉をあまり聞かない、こういうときだけ。
大きく骨太な手は、続けて私の腰の方へと伸びていく。
まさか、ここでするの?
「ダメダメダメ。さすがに、これはいけません!」
「なら……行こうか…」
アルは決断したように、私をお姫様抱っこすると、使用人に子供を預けた。
まさか、まだ昼間だというのに、今から始まるというのか。
「ま、待って!心の準備もないし、下着も全然駄目なのよ!こんなの見せたくないわ!」
「見せてくれ………むしろ見たい。君の恥ずかしがるところ……それと…俺の準備は…いつもできてる」
「いろいろと、そういう問題じゃないのよ!」
彼の厚い胸板を押すも、やはり抵抗はできない。
新しいシリーナの王が立ち上がったこの頃も、アルクトスの最強の獣人という地位は揺るがない。
ダブルベッドに転がされて、アルクトスが胸に顔を埋めてきた。
「リル…リル……甘い匂い…」
獣耳がピコピコと忙しなく反応して、彼の息が荒くなる。満月じゃなかろうと、アルは私に近づくだけで大概こうなってしまう。
彼の発情を誤魔化すように、クマの耳をそっと触る。
フワフワ、プニプニ。
毛皮と肉の感触が伝わってきて、夢中になって触ってしまう。
「アルが私のを触るときも、こんな感じなのかしら」
「リル……余裕そうだな…………今日は歯止めが…効かないかもしれない…」
「……え?」
二人で寝室で過ごしていたら、気づいたら朝になっていたなど、ここだけの秘密だ。
ブクマ、いいねをありがとう。
こんなにもたくさんの方に評価もされて嬉しいです。
大きな愛をテーマに書いた優しい物語を、たくさんの方にお届けできたらいいなと思ってます。
ご愛読ありがとうございました。




