エピローグ〜終天の星となる〜
青々とした草原に、温かな黄色の光が溢れかかる。小鳥のさえずりが時折聞こえてくるこの場所は、リルエヴェーネの星だ。
二人は腰を下ろして読んでいた日記を閉じた。
「最初の人生を思い出していたら、二回目の人生も思い出してしまったわ」
クスッと笑うと、アルが私に回していた腕を強くした。
「最初の生……そのおかげで…君とずっと共にいれる」
背中から来る彼の体温が、ますます熱くなった。もう何度も結ばれているのに、その度に愛を確かめあっても、互いを求める欲が湧いてまだまだ足りないのだ。
「こんなに愛し合ってるのに。人間のときよりも欲張りになってしまったわ」
「君は……欲張りな方が丁度いい。まだ俺を……求めてくれるか…?」
「そうね」
私は振り返って、彼の胸に顔を押し当てた。
これを言うには、いささか恥ずかしい気持ちを隠せる自信がないから。
「私達はこの世界の終天が来るまで、生き続けるわ。何万年と何億年と。でも、その時間じゃ足りないくらい、あなたへ渡したい愛は多いの」
どれだけ不器用な言葉でも、彼は私のことを強く抱いてこたえてくれる。
森林のように落ち着く彼の匂いに胸をいっぱいにして。
「あなたと出会えたこと。あの時代の、あの学園で、あなたの瞳に恋したことを今でも思い出せるわ」
神様が人と人の縁を結んでくれた。
彼と私の縁を結んでくれたことは奇跡だ。
「奇跡よ。あなたに巡り会えたこと。あんなに多くの人々がいる地上で、たった一つの存在に会えたのだもの」
「リル……俺だって…君と会えた日のこと………よく思い出せる。太陽の雫を宿した赤い瞳……今だって…この世で一番美しい…」
出会いは恋となり、恋は愛をも育み、愛は永遠の力をもたらした。
二人の力は不運を乗り越え、やがて星になる資格を神から授けられた。
人間と獣人。二人は地上ではあまりに小さな存在であったのに。人を思い合う力こそが、永久の力を持った。
「これから何万年何億年だって、あなたといたいに決まってるじゃないの」
私は笑った。彼の瞳を覗けば、ハチミツのように甘い金の瞳を細めて笑いかけてくれた。
「そうだなリル……俺の愛は重いからな」
「ふふっ。あなたからの愛なら、いくらでも受け取るわ」
彼の頭の上に生えている獣の耳を触った。
手の中で忙しなく動くクマの耳は、いつだって私に素直な気持ちを伝えてくる。
フニフニと弾力のある耳を揉めばさらに動いた。
「くすぐったい………」
顔をバラのように赤くした彼が可愛い。
この愛おしという気持ちは、これからも変わらないであろう。
何度生まれ変わっても、その獣化の能力を私のために使ってくれた彼。
美しい瞳と、柔らかで優しい体温を持つあなたこそが、私の唯一だ。
「終天の星になれたこと。神をも認めさせたその思いは計り知れないわよ。私はあなたと、この世の最期まで一緒にいたいの。私の方こそ、愛が重いわ」
笑った赤い星は、金の星をさらに薄い赤に染め上げる。花のような赤髪が風になびくと、太陽の如き見事な赤い花々が二人を囲うように咲きほこった。
ご愛読ありがとうございました。
これにて、『終天の星となれ』は完結します。
もし要望があれば、“神話編”も書き溜めてありますので、投稿しようと思っております。
ただただ深くて甘い愛を書きたくて、書かせてもらった物語です。リルとアルを、どうか忘れないでください。
本当にここまで読んでいただき、ありがとうございました。




