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昔話

「アルクトス!良く来た!」


ジエールの国王が一人の青年を招き入れた。

学園を卒業してから、すぐにシリーナ国からジエールの王へと相談の手紙が来た。

アルクトスが城にあるものを破壊し尽くすので、引き取ってほしい。

シリーナ国は軍の力が大陸一と言っていいほどに強い。だからこそ、最強と言われるアルクトスが来るのは歓迎したし、何より破壊し尽くされるとはどういうことかと気になったこともある。王と王妃、王子までもその要望に答えたのだ。


「……」


ジエール王の活気のいい出迎えを受けても、アルクトスは反応しなかった。彼は元から無口なんだろう。第一印象は、無口で、無愛想、何よりその金色の目が今にも灯火を無くしそうな表情だった。

使用人を使わせ部屋に案内してやると、うつむいたままであったそうだ。

その日の晩には客人のことで話は持ち切りになった。


「アルクトス、何に絶望しているのかしら」


「そうだな、マリー。友からは、番と離れ離れになってしまったとだけ書かれていたが」


番を失う。確かにそれは大変な悲劇だ。王妃は納得した。

次の日からアルクトスは一緒に、王子と訓練や模擬試合を組むことになっていた。見学させてもらったが、アルクトスの力はやはり半端ではなかった。ただ、まだ本調子ではないらしく、たまにボーっとしてハッと、気づく様子が見られた。

他にも、廊下で歩いていれば壁にぶつかったり(壁にヒビが入る)。お茶を飲む姿を見かけると壊してしまったり(金属の水筒がぺちゃんこに)。何度もいろんなものを壊しているのを目撃した。こちらも国の予算は軍備に使っているのであまりものを壊さないでほしい。王がその旨を伝えると、彼はもっと顔が沈んでいった。


人間の国の第一王子とその婚約者が不仲であると噂が流れてきた頃。アルクトスはなぜか激昂して今度は、自室にあるものを全て破壊し始めた。物音に気づいた使用人に呼び出され言ってみると惨劇の後であった。枕からは羽が散らかり、机は二つに割れ、カーテンが引き裂かれ、インテリア達がことごとく握りつぶされていた。


「アルクトオオオオス!」


王妃である私はカンカンに怒って、王へと進言した。あのインテリアや部屋の内装は私が手配したもの。コレクションを踏み潰されたことには流石に血が上った。だが、王は番である王妃のために叱るのではなく、アルクトスを憐れむように見ていた。


「番は、人間の第一王子の婚約者であるな?」


「っはい……」


初めてアルクトスの言葉を聞いた。弱々しく返事した彼をよく見れば、目の下は赤く腫れ、泣いていたのが分かった。


「人間となると大変であろう。お前さんは獣人で、今にも死にそうな顔をしているというのに」


「…くっ………」


奥歯を噛みしめるアルクトス。彼は目を閉じて王の言葉を聞いていた。


「辛いのなら物に当たってはならない。鍛錬するように。いつか、番を迎えるときにひ弱な人など誰が好きになるだろうか、いや、なるわけないだろう?獣人は強さだ。最強と名高いアルクトスなら、獣人の誇りを高く持て。弱き者を助けなさい」


王の真剣な言葉を聞いてからかものを壊さなくなった。鍛錬鍛錬鍛錬。休み時間はひたすら読書。そうして、シーリナ国に戻れるようになった頃、アルクトスはジエールの国でも一番の軍兵になっていた。



「ま、それからシリーナ国へと戻ってね。エンリルが、捨てられたと聞いてとんでいったと聞いたわ」


「そういうことが…」


王妃は長話を終えて喉が乾いたようなので、棚に隠していたらしいお酒とグラスを持ってきた。それを注ぎ、私にもくれた。飲めば、喉がスッとして、体がすこしポカポカになった。

王妃は少し興奮気味に続けた。


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