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「……っ無理だ」


彼は目の前で涙をボロボロ流し始めた。

獣人が涙を流すのは滅多にないことだと本にも書いてあったのに。彼は私の目の前で、二回目の涙を見せた。


「こっちに来て頂戴」


ベッドの隣まで誘うと、彼は自ら膝を床につけた。


「俺は……俺はっ………」


彼は顔を抑え、しゃくり上げるように肩で呼吸した。

私はベッドに腰掛けるように移動して、彼の側に寄った。

雫を何滴も流す、彼の頭に手を伸ばした。柔らかな焦げ茶色の髪に、愛おしい気持ちでいっぱいになった。


「アルクトス、いつものように抱きしめてはくれないの?」


「そんな資格…俺には…」


「もう、仕方ないわね」


ベッドから立ち、アルクトスと同じように床へ膝をつくと腕を伸ばした。

大きな背中をした彼の体を寄せて、抱きこんだ。泣いて体を震わす彼の体がはみ出さないようにと、精一杯体を張って。大丈夫、大丈夫と慰めながら。

こうしていると、不思議なもので、背中の痛みは消えているように思えた。


「アルクトスは、私のこと嫌いなのかしら」


大丈夫だと言っているのに。背中を撫でてあげても、涙を流す彼に聞いた。


「違うっ!そんなこと……絶対ない」


「なら、目を合わせて頂戴」


腕の力を緩めて、アルクトスの顔を見覗き込んだ。

彼は泣き腫らして赤くなった目でこちらを見た。金の瞳は相変わらず美しく輝いていた。


「ふふっ。心配しすぎよ。ちょっと深手を負っただけじゃない」


泣き止まない彼に、私は笑いかけた。


「ちょっと…じゃない……」


アルクトスは静かに私を抱き上げると、ベッドに横になるようにそっと戻した。

そのまま彼が私の上に影をつくった。アルクトスの体で私の体が覆われるような体勢になったから、よく目があって、こっちが恥ずかしかった。


「自分に……傷を負ってまで………助けようとするな……」


「守りたかったのよ。あなたには命がけで守ってもらった恩があるわ。それに、あなたの隣がわたしの居場所。あなたが助かるならこれくらい、どうってこと」


彼は私に口づけをした。これ以上何かを言わせないように、口止めさせるように。


「アル……ちょっ、アル!」


彼は私の首元や鎖骨にまで口づけを落とした。

くすぐったい。彼の体温が、唇から直接に伝わってきた。


「もうっ、恥ずかしいわ」


「生きている……な……」


存在を確かめるようにもう一度唇を重ねてきた。いつもよりずっと長い口づけは、互いの液を交換するほどの情熱的なものだった。

その頃には私の顔が真っ赤になっていた。


「ふっ……耳まで真っ赤……」


「だ、誰のせいだと思ってるの!」


アルクトスは静かに微笑んだ後、ベッドから降りた。彼は椅子を持ってきて直ぐ近くに座った。


「リルが……生きてて…本当に良かった…」


アルクトスは私の左手を握った。腕輪を見て頷きながら、私を柔らかく見て言った。


「ずっと……愛してる」


「私もよ。あなたが愛おしいわ、アル」


学生の時ずっと気づかないふりをしていた気持ち。膨らむばかりのこの気持ちはいつしか、恋の枠を超えて愛をも同時に育んだ。ようやく彼に伝えれた。愛していると。

王子と婚約していたときでさえ、エドワード王子にこんな言葉を言ったことはなかった。

赤い瞳は麗しく、番を見ていた。

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