第93話 反応
次話で最終話です!
故郷の村に戻ったハンナとラーシャ。
ハンナはラーシャの家の椅子に座り、新聞を眺めていた。
「いやー……ほんまにやりよったな、あのやばい人……」
新聞の一面を飾っていたのは、やはりアルバラードによるアリアス教壊滅事件である。
国家間の戦争ではなく宗教間の戦争というだけでも耳目を集めることだが、さらに小さなシャノン教が巨大なアリアス教を返り討ちにしたということが、さらに注目を集めていた。
しかも、それがシャノン教の一人の男でほぼ完遂されてしまったのだから。
まあ、さすがにこれは新聞に明らかになっているわけではないが、その騒動のさ中に出会っていたハンナからすると、簡単に予想できることだった。
「普通、ほとんど単騎で巨大宗教勢力潰すか? どんなことがあったら潰せるんや……?」
「どうだろう……。たとえば、信仰している神か、それに準ずるものを潰したりとかかな?」
「い、いやいや、さすがにそこまでは……ない、よな……?」
ハンナの前にお茶を置いたラーシャが笑いながら言う。
うんうんと唸るハンナを見て、ニコニコとしていた。
「また一緒に行こうね、ハンナ」
「えぇっ!? い、いや、行きたくないけど……んー……っ」
うにゃうにゃと悩む仕草を見せるハンナ。
身体をくねらせるものだから、立派に実った胸も卑猥に歪んでいる。
その様子を冷たく見下ろしたラーシャは……。
「やっぱり……」
「な、なにが!?」
顔を赤くするハンナに、ラーシャは警戒心とちょっとした快感を覚えるのであった。
◆
「うわぁ……」
ドン引きの声を漏らすのは、新聞を眺めるルルである。
王城という選ばれた者しか入ることのできない場所に、彼女の姿はあった。
今代の五人の勇者の一人であり、比較的良識を持っていて社会にも貢献している彼女は、王城に入ることを許されていた。
ちなみに、同じ勇者でもアンタレスは出禁である。危険人物過ぎて。
「あれ、どうしたのぉ?」
ひょっこりと新聞を覗き見るのは、彼女と既知の騎士、スピカである。
とんでもない胸の大きさで、それが頭に当たってビキッと青筋を浮かべるルルであるが、新聞報道の内容で元気もないため、力なく一面を指で示すだけだった。
「いや、これ……」
「あー、あのつよつよ勇者コンビかぁ」
スピカの頭に浮かぶのは、邪悪な笑い声をあげるアルバラードとアンタレスである。
彼ら二人なら、何をしても不思議ではなかった。
「いや、本当助かったにゃ……。もしあのまま一緒に行動していたら、たぶん私の胃が完全に破壊されていたわ……」
ぐでーっと全身の力を抜いて勝ち誇るルルに、スピカは笑って声をかける。
「そうだねぇ。でも、また近いうちに会えるかもしれないよぉ?」
「はぁ!? 絶対に嫌にゃ! というか、二度と会うことないから! にゃはははははは!」
「そっかそっかぁ」
高笑いしているルルには言っていないことではあるが、スピカの主人からアルバラードとアンタレスを王都に呼ぶよう指示を受けており、すでに動き出している。
彼らが王都に来ることは確定しており、何かと苦労人のルルも巻き込まれるであろうことは簡単に想像がついた。
「ふふっ、おもしろ」
ただ、今の場では何も言わないことにするスピカであった。
◆
実はこっそりと騒動の場所に使い魔を送り、情報を映像で得ていたのは、魔王軍四天王のレイフィアとルードリック、そして裏切りの勇者メリアである。
全員一度アルバラードに殺害されているという共通点を持つ。
「いや、ちょっと……。えぐすぎませんか……?」
そんな彼らは、新聞報道で情報を得た他の者よりもより鮮明で新鮮な情報を得ていた。
だからこそ、恐ろしかった。
なにせ、アルバラードは確実に敵に回る存在だからだ。
神殺しまで遂行してしまった化け物と、誰が正面切って戦いたいだろうか。
「なあ。神って、かなり強いよな?」
「ええ。もちろん、ピンキリですが、たとえキリだとしても相当の力を持っていますよ。私たちに匹敵するほどには」
「……なあ。それを殺したって……」
ルードリックの言いたいことは分かっているが、レイフィアは止める。
絶対に勝てない、なんてことは内心では理解しつつも、口に出してしまえば終わりである。
「い、いやいや。もう大丈夫ですよ。ほら、私たちはあの化け物が生きている間に行動しないと決めましたから。しょせんは人間、寿命には逆らえません。寿命で死んでくれるのを待つだけで、私たちの勝ちです」
そう、彼らはすでに対アルバラード作戦を考え付いている。
すなわち、寿命で死ぬのを待つ作戦である。
人間は、どれほど長生きしても数十年。百を超えることは稀だ。
そして、魔族にとってそんな時間はあっという間に過ぎていく。
いや、もっと言えば、完全な身体能力を誇る時間はさらに短い。
全盛期は、続いても30年ほどだろう。
つまり、この作戦は完璧だった。
問題は……アルバラードなら、その寿命も何らかの手段で克服してしまっていそうなことである。
「だ、だよな。もう二度と会うことはないよな。……な?」
「何度も言わないでください。フラグに聞こえますから」
はあ、とため息をつきつつ、レイフィアは黙っているメリアに声をかける。
「ということです。あなたも勝手に行動しないように、メリア」
「ええ、分かっています(棒読み)」
ろくに話も聞かずに適当に返答するメリア。
彼女の頭の中は、アルバラードでいっぱいだった。
ほう、と熱い吐息を吐き出す。
「やはり、あなたは……。私と一緒に、真の平和の世界を創りましょう」
◆
新聞を見て先日のことを思い出すのは、アリアス教の聖女であるルサリアである。
彼女はこの新聞報道されている事件の現場にもいた。
聖都リアスで、アルバラードとアンタレスと会話をしている。
何なら、アリアス教の幹部を殺害することを手引きしたくらいだ。
あまりにも上層部が腐っていてよわきを助けるどころか私腹を肥やすことしか考えていなかったため、アルバラードが行動を起こしていなければ、いずれはルサリアが誅することになっていただろうが。
「見逃した私が言うのもなんですが、神を弑するとは……。アルバラードさん、やっぱり格好いいですね……」
チョキチョキと新聞の一面を飾る、凄惨な笑みを浮かべるアルバラードを切り取るルサリア。
彼女は丁寧に作業を進めながら、目の前に座る女を見た。
「あなたもそう思いませんか、ロイス?」
ルサリアの前に座るのは、今代の勇者の一人であるロイスだった。
顔はたれ布で隠されているため、うかがい知ることはできない。
ただ、ロイスもルサリアも、その胸の大きさは豊満であった。
「此方はそのような感情は持ち合わせません。ただ、やるべきことをやる。それだけです」
「そうですか。それも良いと思いますよ。何かきっかけさえあれば、コロッと変わりそうですし」
どこか人間離れしたような機械的な声質にもルサリアは動じず、チョキチョキと切り抜きを続ける。
そんな彼女をじっと見ながら、ロイスは口を開く。
「変化は望ましくありません」
「まあ、そうおっしゃらず。今度、一緒にアルバラードさんとアンタレスさんのところに行きましょう。お二人とも、本当に素晴らしい方たちですから」
アルバラードとアンタレスのファンであるルサリア。
推しを他人に紹介する彼女の言葉には、とてつもない強さが込められていた。
そのため、普段は他人の感情なんて気にせず、機械的に受け答えをするロイスであるが……。
「…………検討します」
非常に珍しく、折れたのであった。
新作『殺戮皇の悪しき統治 ~リョナグロ鬱ゲーの極悪中ボスさん、変なのを頭の中に飼う~』を投稿しています。
いつも通りのコメディ作品ですので、良ければ下記からご覧ください!




