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その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~  作者: 溝上 良
最終章

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第77話 お前の血がどんな色をしているのか

 










 アルとアンタレスが立てたテロ計画は至極簡単だった。


「この街で攻撃を仕掛けてきているアリアス教の大元を叩き潰す」

「考えるの面倒くさいですわ!」


 こんなさわやかなテロ計画策定があるだろうか?

 いいや、ない。


 というか、あったとしても知りたくないわ。

 しかし、アンタレスがアルと再会してからというもの、どんどんと知性が退化していっている気がするんだけど。


 アルの言うことを全肯定して、うっきうきで背中にちょこまかとついて行っている。

 本当に忠犬よね……。


 なお、主人の命令があれば容赦なく人を殺す忠犬である。


「アルバラード様は仰った。多くの人を救うために、教義を捻じ曲げ専横を振るう愚かな異教を叩き潰すと。それは、まさしく世のため人のためになることだった……。ヨシ!」

「ヨシじゃないが」


 かと思えば、その隣でゴリゴリと分厚い本に一心不乱に何かを書きなぐっているエウスアリアがいる。

 いや、本ぶあつっ。歴史書とか辞書のレベルになっているじゃないの。


 しかも、全然史実と異なることを書き記しているし。

 エウスアリアが言っていた、アルに対する妄信。


 それの教典だろう。嫌すぎる。

 私の顔を見て、きょとんと首を傾げるエウスアリア。


「え? 何がですか?」

「恐ろしいほど冷静に史実を捻じ曲げてんじゃないわよ」

「歴史は勝者が作るものです」

「堂々と言ってんじゃないわよ」


 確かにそうかもしれないけど、大っぴらにそんなこと言ったら終わりでしょ!

 堂々と歴史を作る発言をしたエウスアリアに戦慄する。


 そんなテロ計画策定を経て、現在である。


「――――――そうか。私はお前の血がどんな色をしているのか、楽しみで仕方ないぞ」

「わたくしは、どんな悲鳴を上げるのかが気になりますわ」

「私はアルバラード様の雄姿を教典に書き記すことが楽しみで仕方ありません」


 三者三様、それぞれ言いたいことを言ってアリアス教の教会にカチコミする三人。

 アリアス教って、一応相当でかい宗教派閥なのよね?


 それに喧嘩を売るって言っているのに、こんなリラックスしているのは何なの……?

 しかも、たった三人だし。


 私? カウントしないでくれる?


「な、なんだお前らは!? 今は立ち入り禁止にしているだろ!」

「それは、お前たちアリアス教の話だろう。私たちには関係のない話だ。やりたいときに、やりたいようにやる」


 こちらを見て怒鳴り声をあげるひげのおじさんに、アルは相変わらずの自分勝手な発言である。

 他人のことをここまで気にしないでいられるのは、ある種才能かもしれない。


 普通、罪悪感とか思いやりとかありそうなものなのに、アルに関しては一切ないものね。怖い。


「お、お前ら、まさかシャノン教の……!」

「わたくしは違いますけどね」


 どうやらこちらの素性に心当たりがあったのか、震えながらひげが指をさしてくる。

 マスターを見習って、アンタレスもマイペースに答えていた。


 カチコミしているのになんでこんなマイペースを貫けるの……?


「こ、ここを警備していた懲罰部隊はどうした!? お前らを見逃したのか!?」

「いえ、しっかりとお仕事を果たそうと頑張っていましたよ」


 エウスアリアの答える通り、ここに来るまでには多くのアリアス教信者たちが立ちふさがった。

 しかも、全員が特別な訓練を受けていたわね。


 少なくとも、そこらにいる普通の一般信徒というわけではなかった。

 全員が戦う方法、そして人を殺す方法を叩き込まれた手練れたちである。


 ……なんで宗教がそんな屈強な武装勢力を保持しているのよ?

 国にとっては怖すぎるでしょ。


 まあ、そんな屈強な武装勢力も、この三人にかかればどうにもならなかったんだけどね。

 正義狂いの自分が聖剣に認められた勇者だと思い込んでいるヤバい奴、アルバラード。


 そんなやばい奴をマスターと慕い、忠犬のように懐き、同じく正義狂いで人殺しに躊躇のないアンタレス。

 アルのことを妄信し、なぜか信仰する神以上に信仰し、盲目的な狂信者となり果てているカルト宗教の教祖、エウスアリア。


 そして、そんなやばい奴らに囲まれてあまりにもかわいそうな聖剣の私。

 ……うん、ちょっと強いだけの武装勢力が、敵うはずもないわね。


 私が敵側だったら、勝てるビジョンが見えないもの。


「今はだいたい床でお眠りになっていますわ。永遠に眠っている者はいない……と思いますわ! 知りませんけど」

「腕とか脚とか首とかが変な方向に向いている人はいたけどね」

「首は致命的だろ!?」


 ひげのおじさんが衝撃を受けているが、なにを言っているのかと私は思わず笑ってしまう。

 首が飛んでいないではないか。


 アルとアンタレスがそろって確実に死んだわ、と思うような傷を与えていないことが、どれほど素晴らしいことなのか理解していないらしい。

 やれやれと首を横に振る。


「だ、誰か! 誰かいないのか!?」

「先ほど、警護していた連中はだいたい致命傷を負わせたと言っただろ。誰も来ないぞ」

「致命傷って言ったぞこいつ! 確信犯だろ!!」

 うるっさいわねぇ! 首が変な方向に曲がっているんだから、致命傷でしかないわよ! バカなの!?

「な、なんなんだお前たちは!? いったい何の用だ!?」

「質問が多いな……」


 やれやれと首を横に振るアル。

 気分が悪ければ、問答無用でぶっ飛ばしていたことだろう。


 しかし、今のアルはちょっとばかりテンションが上がっている。

 どうやら、信仰する神のために働けることが嬉しいらしい。


 この男にそんな殊勝な考えがあるのだとびっくりしたが……。


「私はシャノン教の今代教祖を務めさせていただいています、エウスアリアと申します。こちらは同じくシャノン教最高終身名誉顧問であらせられるアルバラード様です」

「うむ」

「そのバカそうな肩書は何なの……?」


 さいこうしゅうしんめいよこもん……?

 馬鹿がよいしょされていることに気づかずに喜びそうな肩書だった。


 最高とか、終身とか、名誉とか、顧問とか。

 なんだかそれぞれの言葉がバカな人間が好きそうな単語である。


 そして、満足そうに頷いているアルがバカだった。


「そして、アルバラード様の愉快な仲間たちです」

「勝手に仲間にすんな!」


 エウスアリアの言葉に怒声を上げる私。

 仲間じゃない! 無理やり引きずられているだけよ!


「わたくしは犬ですわ! わんわん!」

「人間としての尊厳はないの……?」


 アンタレスがウキウキで犬になっている姿を見て、私は唖然とする。

 最初に出会った時なんて、かなりやばそうな女勇者だったのに……。


 今ではこんなふうに壊れてしまった。

 早くルルとアランに押し付けなければならない。


 脳内でその二人が激しく抗議してくるが、完全に無視しておく。


「そして、われわれの目的だが……」


 アルはひげに対して、まったく無慈悲に告げた。


「シャノン教に歯向かう愚かな人間どもを、神の御意思のもと、皆殺しに来たのだ」

「わらわそこまでしろと言ってないって!!」

「また誰!?」


 絶対シャノンっていう神、こっちに遊びに来ているでしょ!

 しかも、アルのことばかり見てそう!


 また声だけしてすぐに消えた存在に、私は確信するのであった。




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