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その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~  作者: 溝上 良
最終章

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第76話 私もそう思う

 










 アルバラードたちが滞在している街の一等地。

 そこには、多くのお金持ちたちが住まう住居が立ち並んでいる。


 そんな裕福層の家が立ち並ぶ中、さらにそれよりも豪奢で巨大な教会がそびえたっていた。

 そこは、アリアス神を信仰するアリアス教の教会であった。


 普段は礼拝に来る信者たちでにぎわっているが、現在は一時立ち入り禁止にしているため、信者の姿はない。

 立ち入ろうとする者を止める警護の人員は、アリアス教の闇の部分を担っている懲罰部隊だ。


 彼らががっちりと固めている以上、誰も侵入は認められない。

 それこそ、国家権力が介入しようとしてきたとしても、彼らは信仰心を盾にそれに抵抗することだろう。


 その教会の大きな礼拝堂の中で、二人の男が向かい合っていた。

 一人はひざまずき、一人は立っている。


 この姿から、二人の関係性が明らかになっていた。

 立っている男は、アリアス教の方針を決める大幹部、枢機卿の一人だった。


 名をモルムニ。立派なひげを蓄えた、恰幅のいい男だった。


「ふむ……」


 ひげを撫でながら目を落とすのは、現在のアリアス教布教活動に対する報告書である。

 中身を見ているふりをしているが、ぶっちゃけ見ていない。


 長文を読むのは面倒くさいのだ。

 ということで、目の前でひざまずく男に声をかける。


「あげられた報告資料も確認しているが、やはり直接口でも報告してくれるかね?」

「はっ」


 一切疑うことなく、男は報告を始めた。


「ご命令通り、他宗教への攻撃を開始してから数か月。多くの宗教を弾圧し、壊滅させることに成功しました。他の街や村ではほぼ完遂し、この街でもあと少しです」

「素晴らしい……。アリアス神もお喜びになっていることだろう。それで、他宗教がため込んでいたものは?」

「はっ。抜かりなく徴収しております。これらは本部に移送していく予定です」

「うむうむ。であれば、私が事前に少し確認しておこう」


 満足そうに頷くモルムニ。

 彼にとって、宗教とは自分の欲を満たすための手段でしかなかった。


 アリアス神に対する信仰心も非常に薄い。

 そもそも、姿さえ見たことがない存在を、どう信じて崇拝すればいいのかとさえ思っていた。


 もちろん、アリアス教は巨大な組織なので、いくら枢機卿という高い地位にいたとしても、モルムニ一人の考えで思い通りに動かすことはできない。

 だから、彼はこの立場にまで上り詰めたお金と政治力で、他の幹部たちの大部分を抱き込んだ。


 耳障りの良い、布教と他宗教に対する敵意を用いて。

 他の幹部たちは信者が増えて嬉しい。


 自分は他宗教が抱えていた財物の一部をかすめ取って嬉しい。

 他宗教を弾圧するのは、誰にとってもウィンウィンの素晴らしいものだった。


「素晴らしい結果だな。アリアス教の財と信者を急速に増やすことができる。他の宗教なんて、まったく必要のないものだからな。アリアス神のためにそれらの資産を使うのは当然と言えよう」


 とはいえ、そんな我欲にまみれたことはさすがに口にできない。

 そのため、あくまでもアリアス教のためにしているのだと何度も主張する。


 そもそも疑ってすらいない男は、モルムニの言葉をあっさりと信じた。


「それでは、この街も完全に掌握できたか?」

「それが……。まだ唯一抵抗をしている宗教があります。シャノン教という、この地域では小さな宗教なのですが……」

「少しは歯ごたえがあるということか」


 二人して難しい顔に代わる。

 アリアス教は信者の数も多く、財力も強く、何より大っぴらには認めていないが武装すらしている。


 数の力、お金の力、そして物理的な暴力。

 これらを持っていて弱いはずがなかった。


 実際にほとんどの他宗教が屈してアリアス教に帰順するか逃げ出するかしているのだが、唯一の抵抗勢力がシャノン教である。


「厄介なことに、多少の武力を持っているようです。あのマサドが返り討ちにあっています」

「マサドが? それは確かに厄介だな。あの男は、性格にこそ問題はあったが、実力という意味では有数のものだったからな」


 アリアス教神父であるマサドの名は、教団の中でも知られていた。

 好き勝手行動する欲深い男ではあるが、アリアス教に対して歯向かうことはしなかった。


 まあ、それは信仰心というより、逆らったらデメリットが大きいというものだったが。

 そんな自分勝手な行動を許されていたのは、ひとえに彼の強い力である。


 力があれば、わがままも通る。

 今回の他宗教への攻撃でも大きな功績をあげていたマサド。


 そんな彼が叩きのめされたことは、アリアス教にとって非常に大きな衝撃だった。

 とはいえ、彼のことを邪魔だと思っていた者も多いのは事実。


 偶然ということもあるだろうと、アリアス教の中ではあまり大きな問題にはなっていなかった。

 モルムニの考えも、同じようなものだった。


「いかがいたしましょうか。聖女ルサリア様にお声がけし、お力をお借りしようかとも思っているのですが……」

「あの聖女様はいささか布教活動に非協力的なところがある。それに、聖女様にばかりお願いするのも、私たちの力がないと言っているようなものだ」


 苦い顔をするモルムニ。

 聖女ルサリアは、アリアス教において非常に高い人気と力を誇る存在。


 彼女がその気になれば、他宗教はたやすく壊滅させることができるだろうに、まだ抵抗勢力が残っているということは、彼女がそういうことに乗り気でないということ。

 自分の思い通りにならない存在で、かつ自分では手出しができない存在。


 だから、モルムニにとってルサリアは快く思えないのだ。


「こういうこともあろうかと、すでに私も動いている」

「と、言いますと……」

「非常に神具に対して適性の高い者を見つけられた。彼女はすでにこちらに呼んである。多少準備期間は必要だろうが、聖女様のお力を借りなくとも、彼女に頑張ってもらおうと思っている」


 ルサリアは思い通りにならないため、思い通りになる存在を作り出そうと動いた。

 その人間は、もうすぐ自分の手元に届く。


 しかも、見目麗しい少女だという。

 清廉な少女なのだろう。モルムニは、何ならその少女を愛人として置いてやってもいいと思ってさえいた。


 ……ちょっと特殊な性癖持ちであることは、まだ知らないようだった。


「なるほど……。ご慧眼、さすがでございます」

「うむ、楽しみだ。この世界が、アリアス教一色に染まるところをこの目で見届けることがな」


 むろん、それだけでなく、甘い汁を啜れることを楽しみに思っている。

 にやりと笑うその顔は、なかなかに醜悪なものだった。


 そんな笑顔は、すぐに凍り付くことになる。


「――――――そうか。私はお前の血がどんな色をしているのか、楽しみで仕方ないぞ」

「わたくしは、どんな悲鳴を上げるのかが気になりますわ」

「私はアルバラード様の雄姿を教典に書き記すことが楽しみで仕方ありません」


 バン! と強く扉が開かれる。

 後光で見えづらいが、四人の男女が立っていた。


 恐ろしいことを平然と口にしている男女が。


「なっ、何だお前ら!?」

「私もそう思う」


 四人の中の一人、人間ではない聖剣が、げんなりとした顔つきで肩を落とすのであった。




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