第65話 ふっ、自慢の二つ名だ
「私はアルバラード」
「わたくしはアンタレスですわ!」
「そんな二人に引き連れられているかわいそうな美少女よ」
シスター……ルサリアが自己紹介をしてきたので、こちらも答えていく。
私は完全に誘拐被害者である。助けてくれて構わないわよ。
「お二人があの……」
「知っているの?」
ルサリアは多少目を見開いて、驚きを露わにする。
あのと言われるくらい、悪名が知れ渡っているのかしら?
「アンタレスさんは有名ですよ。『血染めの勇者』。多くの悪人を独断で殺害する勇者」
「ふふっ、自慢の二つ名ですわ!」
「これが……自慢……?」
どこが自慢になるのか。私は訝しんだ。
というか、本当にこれが勇者というのがね……。
聖剣を使えるからって、勇者と呼ぶようになるのは考えた方がいいんじゃないかしら?
でも、聖剣を振るえるのは善良な心を持っていないと無理だし、あながち間違いでもないんだけど……。
でも、アルとかアンタレスとか、そういう理外の存在も現れ始めたから、再考は必要かもしれないわね。
「そして、アルバラードさん。『血みどろバーサーカー』、『生まれてくる世界が間違っていてほしかった奴』、『話が通じないやばい奴』」
「ふっ、自慢の二つ名だ」
「冗談きつすぎるでしょ」
これこそどこに自慢できる要素があるのか。
全部極悪犯罪者の異名でしょ。
というか、二つ名というか、もう普通に悪口じゃん。
「共通しているのは、悪人に対する苛烈な対応ですよね」
「というか、あなたはどう思っているの? この二人について」
私は思わずルサリアに問いかけた。
とんでもない悪名だけれど、彼女に嫌悪するような色はなかった。
とはいえ、どうにもこの子は無表情キャラのようだから、確認しないことには分からない。
「私は……」
私の問いかけを受けて、ルサリアは口を開いた。
「好意的に思っていますよ」
「なん、だと……?」
私は唖然とした。
このバカ二人の考えに賛同する奴がいる、だと……?
好意的に思える要素がどこにあるというのか。
「確かに苛烈だとは思います。できるならば、しない方がいいことでしょう。ですが……」
慈愛と博愛の象徴であるシスターは、冷たく言い放った。
「世の中、死ななければならない者もいますし、殺されなければならない者もいます。お二人は、それを実践していらっしゃるのだと思います」
「ひょえええ……」
バイオレンスシスターだった……!
勝手に私が幻想を抱いていたのが悪いんだけれど、まさかシスターがこんな過激な思想を持っているとは……。
「うむ、分かる者には分かるのだ」
「ですわね!」
「そんなの、ごく少数だと思うけど」
理解者を得られてご満悦の二人。
そんなの、そうそういるわけないし、いてたまるか。
「あー……ところで、どうして炊き出しをしなければならない状況になっているのかしら? この街って、もともとそんなに貧しいの?」
このまま話を続けてバカコンビが喜ぶようになったら嫌なので、話題を変えてみる。
ずっと気になっていたことだ。
街の雰囲気も、ギルドの受付嬢の態度も、そしてルサリアがしている炊き出しも。
絶対に面倒だから聞きたくないのだが、今の話題よりはマシかもしれない。
そう思って尋ねた。
「いえ、そんなことはありません。特に裕福というわけではありませんが、普通の街でした。ただ、外囲的な要因で影響を受けることがあります。この街も、そうだったのです」
「外囲的な要因?」
ルサリアは、言いづらそうに顔を背けた。
「戦争、です」
「あー……人間が大好きな戦争ね。分かる分かる。いつの時代も、どの場所でも、飽きずによくやるものねぇ」
聖剣である私には、あまり理解できないことだった。
死を極端に恐れるのが生物の本能であり、人間だってそうだ。
だというのに、人間は積極的に殺し合いをする。
それも、大規模なものを。
嫌がることを積極的にやるって、意味わからないわ。
「国と国の戦争ですの?」
「いいえ、宗教です」
「……宗教?」
私はピクリと肩を跳ねさせる。
……いや、別に不思議なことではない。
国、民族、種族。大きなくくりになりやすい概念で、対立相手がすぐにできるものが、大きな戦争を引き起こす。
宗教もそうだ。大勢の人が関わるからこそ、争いが起きる。
しかし、つい先日アルがなんだかやばそうな宗教に手を出していることを知ったものだから、過剰に反応してしまった。
何も関係ないのにね。
「私は先ほど戦争と言いましたが、少し大げさだったかもしれません。とある宗教が、他の宗教に攻撃を仕掛けているんです。当然、攻撃を受ける側も抵抗するので、争いが勃発。街にも影響が出ているということです」
「どこの宗教がそんなはた迷惑なことをしているのよ」
私が問いかければ、ルサリアは気まずそうに顔を反らした。
「……アリアス教です」
「あっ……」
思いきり目の前でディスってしまったああああああ!
やばいわよ。こいつがどの程度宗教に入れ込んでいるのか知らないけれど、往々にして信者の目の前でそれをバカにするのはマズイわ!
間違いなくろくでもないことになる!
「ふぅむ……」
「ううん……」
「え、なに?」
悩む様子を見せるバカコンビ。
自分のことで手一杯で気づいていなかったが、このバカ二人は何を悩んでいるのだろうか?
すると、アルはこちらを見て困ったように言った。
「いや、他者に迷惑をかけるのは悪だ。だから、アリアス教の信者であるこいつらも皆殺しにするべきか悩んでいたのだが……」
「じゃあ、私にめちゃくちゃ迷惑をかけているあんたも死ぬべきじゃない?」
人に迷惑をかける=悪となるのであれば、アルは極悪人である。
私が常時迷惑をかけられっぱなしだからである。
「でも、あんたたち二人が悩むなんて珍しいわね。意味わからない理論で、速攻殺しにかかっているのに」
悩むというところを見たことがないくらいだったのに。
とりあえず殺してから考える、みたいな思考をしている二人だ。
しかし、今は困ったように眉をひそめている。かわいくない。
「しかし、こうして慈善活動もしていますし……。この方たちが攻撃をしていたら話は別ですが、それも見られませんから……」
「うむ、そうだな。では、アリアス教の他の信者を見かけたら、殺すとしよう。お前たちは、とりあえず見逃しておく」
結論が出たようだ。
……どんな結論の出し方よ。少しでもボタンを掛け違えていたら、速攻で殺していた宣言である。
そんなのを聞いて、いい気分になるはずがない。
ヘタをしたら、殺されていたかもしれないのだから。
シスターなんて、どう考えても抗うすべを持っていないだろうし。
だというのに、彼女は少し困ったような雰囲気を醸し出すだけだった。
「できれば、そういうことをしていない信者は見逃してあげてください」
「考慮しよう」
「えっ……。同じ組織の仲間を殺害宣言されて、止めないの?」
普通、そこは止めるよう説得するのではないだろうか?
問いかければ、ルサリアは無表情で答えた。
「組織は大きくなると、色々とありますから。全員仲良しの仲間ではないんですよ」
「ひぇ……」
何か、このシスターも一癖ありそう……。
まあ、もう二度と関わることがないだろうから、別にいいんだけど。
ルサリアは、私たちを見て頭を下げた。
「それでは、また。私はあなたたちのファンです。またお会いできれば、幸せです」
嫌です……。
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