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その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~  作者: 溝上 良
第1章 自称勇者と自称聖剣編

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第1話 これからよろしくな、聖剣

 










「――――――暇って、素敵」


 私は空を見上げながら、満面の笑みを浮かべていた。

 辺りはとても静かだ。


 緑豊かで木々に囲まれており、人の往来する場所からは遠く離れているので、喧噪もない。

 ここが……この場所こそが、私のアヴァロンだったのだ……。


「本当、あんな忙しくて危ない思いなんて二度としたくないわね」


 まったく、どうして私が人間ごときのためにあくせく働かなければならなかったのか。

 あれが何年前のことなのかさっぱり分からないが、記憶は色あせない。


 まあ、私を使っていた人間もとっくに死んでいるくらいには年月が経っているでしょうけど。

 しかし、それだけ時間が経ってもやりたくないと思えるのだ。


 どれほど嫌だったのかと、自分でも笑いそうになる。


「ま、もう関係ないわね。あんな気の迷いなんて微塵も起きないし、起こさせないわ」


 私は自分に言い聞かせるように呟いた。

 地面に一つ突き立てられている、聖剣のすぐ側で。










 ◆



「くそっ! 抜けねえ……!」

「あーらら。無駄な努力ねぇ。絶対に抜かせてあげないっての」


 私の目の前では、聖剣を地面から引っこ抜こうと悪戦苦闘している男がいた。

 人相が悪い。荒々しい雰囲気からも、おそらく普通の一般人ではないだろう。


 まあ、人間じゃない私にとっては、人間同士がどれだけ傷つけ合おうと知ったことではないが。


「どれだけ力を入れてもビクともしねえ! どんな魔法を使ってやがる!?」

「いや、魔法というか、普通に嫌だから抵抗しているだけよ」


 相手に聞こえないから言いたい放題している。

 私が私を抜かせるはずないじゃない。


 私は一生ここで引きこもりながら、暇と退屈を謳歌するのよ。


「ちっ! 聖剣なんて持っていれば、好き放題生きられると思っていたのによぉ……。無駄足だったわ」

「じゃあねぇ」


 悪態をつきながら去っていく男を、手を振りながら見送る。

 いやー、カスだったわ。


 剣の柄を握られれば、その人間がどういった人間なのか、だいたい分かるようになっている。

 まあ、一応聖剣だしね。


 善人というか、勇者と称されるような人間でないと、基本的には扱えないものだ。

 今の男は、どう考えても悪寄りだった。


 自分のことしか考えず、自分の欲望を満たすためにこの私を使おうとしていたのだ。

 そんな男に、私を抜かせるはずがなかった。


「まあ、勇者とか聖人とかが来ても、絶対に抜かせないけどね」


 私は引きこもるのだ。

 他の聖剣とかはいい子ちゃんぶって人のために色々としているのだろうが……。


 たまにやってくる人間が、今のご時世、あまり良くない感じであることも言っているし。

 でも、私は知ったことじゃないし。


 私は嫌な思いしていないから。

 こうやって一人のんびり過ごし、退屈を貪りながら、たまにやってくる人間をバカにしていれば、それでいい。


 なんと素晴らしい人生……じゃなくて、剣生だろうか。


「んあ? また人間が来たのかしら?」


 ザリザリと地面を踏みしめる音が聞こえてくる。

 とくに隠されているわけではないからまったく人が来ないことはないのだが、人里から結構離れており、周りに魔物とかもいるからそんなに頻繁には来ないのだが……。


「珍しいこともあるのね。まあ、結果は全部同じだけど」


 私はそう言いながらのんびり空を見上げていると……その男が現れた。

 私の人生をぶっ壊した、最強最悪の『勇者』が。


「これが、聖剣か……」


 男はスラリとした長身だった。

 真っ白な髪に赤い目が特徴的。あまり見られる身体的特徴ではなかった。


 人は見た目で色々と判断できるが、この男はつかみどころがなかった。

 荘厳な雰囲気の中地面に突き立てられている私を見て、ゆっくりと近づいてくる。


「そうよぉ。すっごい剣なのよぉ。私の持ち主になれたら、そりゃもう凄いことになるわよ。まあ、絶対に抜けないんだけど」


 ふふんと胸を張る私。

 誰が相手でも抜かせるつもりはないが、私が凄いということは伝えたかった。


 まあ、姿を認識させていないから、この言葉も届かないのだが。

 男はゆっくりと近づいてきて……私の前で立ち止まった。


「私は、この聖剣を手に入れて……やらなければならないことがある」


 力強く宣言して、男は私の……聖剣の柄を握った。


「――――――ッ!?」


 先程の男もそうだが、剣の柄を握られると、だいたいその人間がどういった人格なのかが分かるようになっている。

 その能力を使って、先程の男は小悪党であると認識できた。


 たとえ、私が誰かに抜かれたがっているような聖剣であったとしても、彼は引き抜くことはできなかっただろう。

 そして、今回の男。


 彼も柄を握ったため、その人格が伝わってきたのだが……。


「ぎゃあああああああああ!?」


 私は絶叫していた。

 悲鳴を上げていた。


 その理由は簡単だ。

 この男が……恐ろしく聖剣にとって魅力的な、善の人格者だったからである。


「な、なにこの清廉な心は!? 純真無垢!? に、人間がこれほどの清らかな心を……!?」


 かつて私を使っていた元勇者や、たまに抜きに来ていた聖人ですらも、これほどまでの白い心は持ち合わせていなかったわよ!?

 今まで出会った誰よりも、純粋に正義という心を持っている!


 それで困るのは、私である。


「と、溶かされるぅっ!? 私のかたくなに閉ざされた心がこじ開けられるぅ!!」


 私は誰が持ち主になろうとしても、引き抜かれるつもりはない。

 過去、一度は人間のために色々と働いてやったのだ。


 もう二度とそうすることはない。

 引きこもって、穏やかな日常を送るのだ。


 だから、聖人であっても絶対に抜かせなかった。

 だけど、問題がある。


 私はそう思っていても、聖剣は聖剣なのだ。

 そして、聖剣という性質上、どうしてもこういった『善』とか『正義』とか、そういったものに非常に弱い。


 それでも、私は鉄の意思で今まで聖人であっても弾いてきたのだが……。

 め、めちゃくちゃ魅力的に見える……!


 聖剣に特効があるレベルの男だ、これ!

 止めて! もう諦めて!


 全力で抵抗しながら強く念じる。

 しかし、その想いは届かず、男はビクともしない聖剣を引き抜こうとさらに力を込めて……。


「うおおおおおおおおおおおおおお!! 抜けろおおおおおおおおおおおお!!」

「嫌あああああああああああああああ!! 抜けないでええええええええええええ!!」


 大絶叫である。

 私と男の絶叫が響き渡る。


 ああああああああああ! ちょっとピクピクしちゃってるううううう!


「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

「ぬ、抜けないわ! どうやっても、私は引きこもる! 人間なんて知らないのよ! 私はここでのんびり隠居するのよ!」


 たとえ、どれほど聖剣にとって魅力的な男でも!

 私は堕ちない! 他のアバズレ聖剣たちと違うのよ!


 断固として男を拒否し続けて、そして……。


「ふぅんっ!!」

「――――――」


 ボゴォッ!! って言った。

 聖剣が引き抜かれた音では、決して形容されないであろう音が出た。


 男は誇らしげに聖剣を空に掲げていた。

 しかし、私は引き抜かせていない。負けなかったのだ。


 では、どうして男は高々と聖剣を掲げているのか。

 それは、簡単だ。


 ――――――男が、周りの地面ごと聖剣を引っこ抜いたからである。


「……抜けた」

「いやいやいやいや! 抜いていないわよそれ! 私了承してないもん! 周りの地面事引っこ抜いているじゃない!」


 剣の切っ先に瓦礫といっていいほどの分厚い土がこびりついていますけど!?

 どこをどう見たら『抜けた……』って感想が出てくるのよ! 馬鹿じゃないの!?


「私が、聖剣に選ばれた、ということか……」

「選んでない選んでない! 全然選んでない! 無理やり力業じゃない! というか、力技でどうして抜けるのよ! いや、抜いていないんだけど!!」


 どんな……どんな引き抜き方だ!

 今までこんな引き抜かれ方をした聖剣なんていないわよ!?


 嘘でしょ? これで選ばれたって思える頭ってなに?

 もしかして、こいつ相当やばい奴なの?


 正義と善の心を持っているから魅力的に見えていたんじゃないの?

 私が目を白黒とさせていると、そんな私をスッと見据える男。


「それで、さっきから騒がしい君は誰だ?」

「あ……」


 今までは、姿を見せないようにできていた。

 だが、私の所有者となった者は、当然ながらその力は効かなくなる。


 私の姿も、彼にはしっかりと見えていることだろう。


「え、えっと……」


 ど、どうする……?

 ここから一発逆転できる方法はあるか?


 私は考えに考えて……。


「通りすがりの村娘です」

「これからよろしくな、聖剣」

「知っているじゃない!!」


 なんで誰だって聞いたのよ、こいつ!!

 こうして、私は訳の分からない男に、正式にではなく無理やり引っこ抜かれたのであった。


 本当、こいつ何なの……?




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守銭奴無自覚ブラコン妹と盲目ヤンデレいじめっ子皇女に好かれる極悪中ボスの話


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