帰還に向けて
帰還に向けて
機動部隊が異世界に迷い込んで100年が経過した。
艦隊の乗員達は地下迷宮で若返りという延命を行いつつ、艦隊再建の準備を着実に進めていた。
給油艦に関しては特に変更はなかったが、艦艇に関しては徹底した運用試験を行い改善点を出し、改良していった。
大きく変更したのは、空母と駆逐艦であった。
空母は翔鶴型空母を基にして、今後重量が増し高速化する航空機に対応するための改良が行われた。それに伴い艦容が大きくなり、搭載機数を増やす余裕ができた。
射出機も強化された物が開発設置され、運用の幅が広がったのであった。
駆逐艦は陽炎型駆逐艦を基に建造され運用試験が行われたが、主砲が平射砲であるため対空戦闘能力が低く、対艦砲戦能力は下がるが12.7cm高角砲を主砲とする事にした。
主砲の12.7cm高角両用砲には、陽炎型に近い形で防盾が設けられた。
航空機は、水上機についてはほぼそのままであったが、艦上機に関してはいろいろと手が加えられていった。
最終的に、艦上戦闘機と複座の艦上攻撃機、三座の艦上偵察機の三機種が製造される事になった。
当初は、零式艦上戦闘機、九九式艦上爆撃機、九七式艦上攻撃機の三機種を基に、ほぼ同じ物が造られていた。
しかし、交代で訓練を行い、運用試験を行ううちに、九七艦攻の三座は多いのではないかという意見が出てきた。九九艦爆は複座で事足りている事から、九七艦攻を偵察専用に改良した艦上偵察機を造り、九七艦攻を改良し複座化した攻撃機を開発した。
九九艦爆も引き込み脚とすべきでは?という意見が出て、試行錯誤しているうちに、複座化した九七艦攻改に急降下爆撃性能を持たせてはどうか?という意見が出てきた。
時間も資金もあるため、九七艦攻改に急降下爆撃性能を持たせた機体を開発してみたところ、エンジン出力に不満が出てきたのである。
栄エンジンと金星エンジンが艦上機の発動機なのだが、どちらも複列14気筒で千馬力前後の出力であり、物足りなさを感じていた。
そこで、複列18気筒化や4列28気筒化、さらには4列36気筒化までもが検討された。
検討の結果、金星エンジンの18気筒化で統一される事になり、まずは千四百馬力程度が目指された。
千四百馬力も出るのならと、零式艦上戦闘機もこれを載せる前提で改良される事になり、機体が大型化し頑丈になり、急降下制限速度が緩和される事になっていった。
同様に、九七艦攻を基に改良された艦上偵察機にも金星18気筒化エンジンを載せるための改良がなされ、高速性と長大な航続力を手に入れる事になった。
新たな機体が開発され、搭乗員が試験飛行士となり試すのだが、皆が高位階であるため事故が起きても怪我すら負う事がなく、徹底的に試験が行われた。
また、試験飛行士がどんな無茶な試験でも行ってくれるため、機体開発は大いに進んでいった。
試験飛行中に問題が発生し、持ち直せず墜落しそうな場合、試験飛行士は脱出し自由落下である程度降下し、地表に落ちる前に浮遊魔法を使い着地していた。
地上では魔法の効果は下がるものの、浮遊魔法で降下速度を落とす事は容易だった。
墜落しそうな航空機から脱出すれば怪我すらしない事から、機動部隊司令部は司令長官を始めとして、全ての司令部要員の飛行訓練を行う事にした。
これにより、水雷の専門家であった司令長官も、航空への理解を深めていくのであった。
ちなみに迷宮都市国家では、旅客機が開発され、諸外国との行き来が始まっていた。開発企業は、派閥「艦隊」の資本で立ち上げられており、艦隊の資金源にもなっていた。
その他にも、様々な企業立ち上げに派閥「艦隊」は絡んでおり、迷宮都市国家を発展させると共に、艦隊の資金源になっていた。
110年が経過した。
艦隊は模擬戦を繰り返していた。機動部隊同士の海戦がどんな物になるのか、それを検証するためにも激しい模擬戦が行われていた。
その結論として、偵察と制空権の重要性が見えてきた。
高位階となった機動部隊の搭乗員達は、搭乗している航空機の周りに魔法で障壁を張る事ができ、魔力の続く限り機銃弾や高角砲弾の破片を防げた。障壁に攻撃を受け続ければ魔力は消費され、被弾してしまう。
つまり、高位階の搭乗員が操縦する攻撃機ですら、目標への攻撃を行う前に落とされる可能性があるのである。
模擬空戦を行っていく中で、通常の搭乗員を想定し、障壁に着弾すれば撃墜判定とした結果、直掩機を減らし攻撃機を増やした陣営の攻撃成功率は著しく下がってしまった。
また、艦隊の直掩機が少なくても、艦隊の被る損害は増した。
模擬戦の結果から、戦闘機の割合を増やす方針となり、艦隊の航空機数は増える事になった。
攻撃力の不足は、戦闘機に爆装させ戦闘爆撃機として運用する事で補った。
航空機の搭載能力の増加が必要になり、さらなるエンジン出力の向上が求められ、試行錯誤がなされていった。
現在の金星18気筒化エンジンの出力は、千八百馬力であったが、元の世界に帰還するまでには二千馬力に届きたかった。。
迷宮都市国家の発展は、凡そ元の世界に追いついていた。テレビなどは日本よりも進んでいるくらいだった。
しかし、元の世界のように義務教育はなく、近代兵器を使う戦争もないため、革新的な発明などは見られなかった。
元の世界への帰還まで10年となった事から、派閥「艦隊」は後進への引継ぎを開始した。
91階層以降を探索できる高位階の艦隊乗員達が抜けるため、大幅な戦力低下となってしまうが、陸戦隊先鋒の精鋭に匹敵する力を持った探索者も育ってきており、派閥の規模は大分小さくなるものの、大きな資金力は維持されるため、派閥「艦隊」は今後も安定して続いていくと思われた。
しかし、元の世界についていきたいと言い出す者達が大勢現れた。その数、千数百名に上った。
主に、艦隊乗員と恋仲になり、共に深層探索を行った高位階の女性探索者であった。
日本への移住を希望する女性探索者達は、既に相手の艦隊乗員との間に子や孫や曾孫などもおり、迷宮探索も百年前後行っている事から、今度は異世界に行ってみたいということだった。
あちらでは寿命は延ばせないし、戦争が起きるのだぞと言い聞かせても、もう十分長生きして子孫も増えたし、高位階の自分達を殺せる存在など早々いないと言い張った。
艦隊司令部としては、実は非常にありがたい申し出であった。
彼女らに訓練を施せば、こちらで建造した艦船を、日本へ持ち帰る事ができるからである。
艦隊司令部は彼女らの申し出を受け入れ、操船などの訓練を施していくのだった。
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