悩む魔術師
「えーと、ペンタクルを使って……いや、これじゃない。カップを使えばなんとかなるですかな……いいや、違うかもかな。では、ソードでひとおもいにグサッと刺してみようかな……」
魔術師ちゃんは首を傾げながら、テーブルの上の五芒星の護符や聖杯や剣などをまさぐり始めていた。
「おい! なんかアイツ悩んでるぞ? 本当に大丈夫なのかよっ!」
ルーヴが鼻をこすりながらイライラした様子で愛流華奈に言った。
「クウウーンッ! なんだか頼りないのですワン……こんなことで本当にカードの中の愛しのお方に会いに行けるのでしょうか……」
シエンヌは半べそになりながら吠えるのだった。
「やっぱり……あたし月に帰ろうかな……あたしなんて役立たずだし……ブツブツ……」
月ちゃんは暗い表情で下を向いたまま、何やらブツブツと呟き続けていた。
「魔術師ちゃん! ワンドよ。ワンドを使ってみたら?」
愛流華奈がたまりかねて魔術師ちゃんに助言する。
「なんと! 我輩もこのワンドの力を使いてトート・タロットの中に入ろうと思っていたところですかな!」
魔術師ちゃんはテーブルの上の棒を手に取り、
「エエイッ!」
と、トート・タロットの『恋人』のカードに向けて棒を一振りした。
「はあ? なんも起きねえじゃんかよ……」
ルーヴが鼻先の地面に置かれたトート・タロットの『恋人』のカードを見て、鼻で笑った瞬間、カードがみるみるうちに大きく広がっていった。
「うわわっ? な、なんだこりゃあああっ?」
ルーヴが驚愕の表情で、拡大していく『恋人』のカードを見つめる。
今や『恋人』のカードは人間大の大きさにまで広がり、ピンク色の輝きを発しながら、路地裏の狭い道を塞ぐかのように空間上に浮かび上がっていた。
「ふう~っ! まあ、こんなものですかな……」
魔術師ちゃんがその額の汗を拭いながら溜め息をつき、その場の皆の方を見て言う。
「……ホレ、カードの中に飛び込むのなら、今のうちですかな……」




