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あたし月に帰ろうかなあ……

「ウォォ―ンッ! やっとシエンヌに追いついたぜえええ……」

 路地の向こうからオオカミ耳の少女、ルーヴが四つん這いのまま駆け寄ってきた。

「シエンヌお前さあ、色っぽい変な雄叫びを上げたと思ったら、もんのすごい速さで走り去りやがって! お前、このオレよりか超絶速えじゃねえかよおっ!」


「あははは! あは! あは!」

 空中を飛ぶ三日月型の乗り物、『ヴェロモトゥール・リュネール』に跨り、月ちゃんもシエンヌの元へようやく追いついた。


「シエンヌ、どうしたの? なんでそんなにガッカリしているの……?」

 空中に浮かぶ三日月から、ストッ、と地面に飛び降りた月ちゃんは、首をうな垂れさせているシエンヌの姿を見るや、そのテンションを下げ、表情を不安げなものに変えた。


「はぁーっ、はぁーっ……シエンヌちゃんたちにやっと追いついたわ……はぁーっ、はぁーっ……」

 自転車に乗った愛流華奈が息を切らしながら、シエンヌたちの前へその姿を現した。


 キキキィィッ、と自転車のブレーキの音が闇夜に甲高く響き渡る。


 愛流華奈は自転車を降りると、首をうな垂れているシエンヌを覗きこんだ。シエンヌがその手に持つ一枚のタロット・カードが愛流華奈の目に留まった。


「あら……このカードは……?」

 愛流華奈はシエンヌの手からカードを抜き取ると、カードの絵柄をしげしげと眺めるのだった。


「トート・タロットの『恋人』のカードね。『兄弟』のカードという言い方もするけれど……」

 愛流華奈がそう呟くと、

「クウウーン……シエンヌはそのカードの中から愛しのお方の匂いを強烈に感じるのですワン。きっとそのカードの中に愛しのお方が入って行ったに違いないですワン。でも、シエンヌがいくらオツムをカードになすりつけても、カードの中に入ることが出来ないのですううーっ!」

 シエンヌが顔を上げ、大泣きして愛流華奈に訴えかけた。


「んだとおーっ! 教科書の匂いの奴がこのカードの中にいるだとおおおっ!」

 ルーヴが愛流華奈の手のカードに飛びつき、カードをパクッと口に咥えて奪い取った。


「このオレがカードの中にワイルドに飛び込んでやるぜえ!」

 ルーヴがその鋭い耳ごと頭をグイグイとカードに擦りつける。

「くそおっ! オレのワイルドな歴史のいちページを更新できるところだってのに、このカードの野郎、オレを拒んでいやがるぜっ!」


「えええーっ……カードの中に入れないんじゃ、アルカナちゃんの男友達を助けらんないよー。せっかくここまで来たのに、何も出来ないなんて……もう、あたし月に帰ろうかなあ……」

 月ちゃんは不安げな顔でそう言うと、目に涙を浮かべて夜空の満月を見上げるのだった。


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