18番 THE MOON 「月」
「え? 月ちゃん?」
それは『月』のカードであった。
夜空に浮かぶ月が描かれているカードであるが、月の表面には女神の横顔が描かれている。月からは月光の雫が地上に向かって降り注いでいる。そして地上には一匹の犬と一匹のオオカミがいて、夜空を見上げている。その手前には池があり、水の中から一匹のザリガニが浮かび上がろうとしている姿が描かれている。また、地平の向こうには二つの塔が、門を作るかのようにしてそびえ立っている。
「月ちゃん、私に何か伝えたいことがあるのかしら……」
愛流華奈は、『月』のカードの上にそっと手を乗せると、
「18番、THE MOON.『月』のカードより具現化せよ、月ちゃん!」
と叫んだ。
すると、ボムッ! という音とともに、『月』のカードから黄色い煙がたちこめ、しだいに人の形を作っていった。
「アルカナちゃん、随分と寂しそうにしていたよね。なんだかとっても可哀想になってしまったの。大丈夫?」
そう言って愛流華奈のことを心配そうに見つめる少女は、額に三日月のマークを付けた銀髪銀眼で、白いドレスを身に纏っていた。見た目には十代後半くらいであろうか。
「まあ、月ちゃん、私を心配してわざわざ出てこようとしてくれていたの? ありがとう。私なら大丈夫よ」
愛流華奈は、月ちゃんに優しく微笑んだ。
「そう? アルカナちゃんの表情、とっても悲しそうに見えるよ……」
月ちゃんは不安げに愛流華奈の顔を覗き込むと、
「……アルカナちゃんのパパとママは外国にずっと行ったままで帰って来ないんだよね? パパとママに会えなくて寂しいよね……寂しい時は、いつでも、このあたしを呼んでよね」
と精一杯の笑顔を作り愛流華奈に言うのだった。
「月ちゃんは優しいのね。私はもう独りぼっちにも慣れちゃったし、こうして月ちゃんだって側に居てくれるし、それにね、新しい学校でも優しい男の子のお友達が出来たのよ。だから、パパもママも居なくたって、ちっとも寂しくなんかないのよ……」
愛流華奈はそう言って、月ちゃんに微笑み返すと、
「……ありがとうね、月ちゃん。もう夜も遅いから、月ちゃんもカードの中でゆっくり休んで。ね? 月ちゃん。もう、おやすみなさいしましょうね?」
と、月ちゃんの手を優しく握りしめて言うのだった。
「それがね、アルカナちゃん。あたしの霊感が告げているんだ。アルカナちゃんの、その優しい男の子のお友達がね、何か危険な目に遭っているかもしれないんだよ……この町のどこからか、トート・タロットの悪しき波動を感じるんだよね……」
そう言って、月ちゃんは愛流華奈にその手を握られたまま、真剣な目で愛流華奈のことを見つめ返した。




