私を食べて、ご主人様
「だ、大丈夫かい?」
矢を投げ返した途端に、清陀はハッと我に還った。
「ごめんよ……怖くなって、つい、矢を投げ返しちゃったけど、き、君の胸に当たってしまって……い、痛くなかったかい……?」
清陀が恐る恐る魔人ラヴァーズに近寄っていく。
「い、いえ……大丈夫です……」
魔人ラヴァーズの左胸に刺さったはずの矢は、いつのまにか消えていた。
矢の刺さった箇所には傷一つなく、艶のある美しい乳房が清陀の目に焼き付くのだった。
「うわあっ……ついつい、おっぱいをマジマジと見つめちゃった……」
清陀は魔人ラヴァーズの美しい乳房に見とれ、その頬を真っ赤に染めた。
「ご、ごめんよ……変なつもりで君の胸を覗いたんじゃないんだ……」
清陀が顔を逸らすと、清陀の腕がグイッと掴みあげられ、魔人ラヴァーズの胸へと引き寄せられた。
「私の胸は貴方のもの……私の肉体のすべて、私の心のすべて、そして私の魂のすべて……すべてが貴方の所有物にございますよ……私の愛しいご主人様……」
魔人ラヴァーズが清陀の両手の手のひらをそっと自らの乳房にあてがう。
「わあああっ! あ、あの、ま、魔人ラヴァーズさんでしたよね? あの、その、ぼ、僕は君の、ご、ご主人様なんかじゃないし、えっと、その、あの……」
清陀がドギマギしながら口ごもっていると、魔人ラヴァーズの目を覆っていた目隠しが緩み、ハラリ、と落ちて、風に靡いて飛ばされていった。
「私を食べて……どうぞ食べてください……愛しのご主人様……」
魔人ラヴァーズが、その切れ長の桃色の瞳を露わにして、清陀を上目遣いで見る。
清陀を見つめる魔人ラヴァーズのその頬は紅潮しきっていた。
「ええ、た、食べてって……ぼ、僕、そ、その、あの、は、恥ずかしいよおおおっ!」
清陀は絶世の美女と言っても過言ではない魔人ラヴァーズの誘惑に、思考回路がショートする寸前だった。
「お、おい! 魔人ラヴァーズ! お前、我の恋の獲物を横取りするとは何事だあっ! その男は我がアルカナに先んじてモノにするつもりなのだぞ? それなのに、お前がその男に恋心を抱いて誘惑するとは、一体、どういうことだあっ!」
広げた日傘を片手に、上空からスウウッと降りてきたアテュが地面にストッ、と足を付けると、鋭い眼光で魔人ラヴァーズを睨み付けた。




