忍び寄る警察官
「おい、お前たち、何をしているんだ!」
その時、道路の向こうから制服姿の警察官が二人、怒鳴りながら駆け寄って来た。
「住宅街の道路の真ん中で大男が民家の塀に穴を開けたとか、骸骨が大鎌を振り回して少女を襲っているとか、訳の分からん通報があり、駆け付けたのだ! さあ、詳しく事情を聴かせてもらおうか!」
そう言いながら警察官が愛流華奈とアテュに向かって詰め寄っていった。
「ううむ、なんだこの剣は? こんな鋭い刃物を所持するとは、お前たち二人とも、銃刀法違反だぞ!」
警察官が剣士姿の愛流華奈の持つ剣と、アテュの持つ剣を見て喚き出した。
「……しかも片方の女は宙に浮いているぞ? 一体、どういうトリックを使っているんだ?」
「あの……その……こ、この剣はですね……ええと……その……」
愛流華奈がドギマギしながら言葉を詰まらせる。
「うるさいな! 我の邪魔だてをする奴らは、誰だろうと、この剣の餌食にしてやるよ!」
アテュが、その身を宙に浮かせたまま、その剣の切先を警察官たちの方へ向けて叫ぶ。
「愚かな人間どもめ、我の剣でその身を切り刻まれるがよいわ!」
「だめよ、アテュ! やめなさい! その人たちに手を出しちゃだめよ!」
愛流華奈がアテュに向かって必死に叫んだ。
「ううむ、本官たちに抵抗しようというのか!」
警察官が威嚇のため、腰に差している拳銃を抜き、手に構える。
「アルカナちゃん! 私に任せて!」
審判ちゃんは愛流華奈にそう微笑むと、高らかにトランペットを吹き始めた。
「♪ プッププププッププップップー、プッププププッププップップー♪」
トランペットの軽快なその音色が、アテュの身体と警察官たちとを包み込んだ。
「うわあ! 一体どういうことだ? 本官たちは踊りなど踊りたくないのに、か、身体が勝手に! 勝手に踊りだすぞ!」
二人の警察官は銃を手にしたまま、お互いに組み合って軽やかなワルツのステップを踏み出した。
「ど、どうして職務中に男同士で社交ダンスを踊らなければならんのだあ!」
二人の警察官はワルツのステップを踏みながら、道路の向こうへと去って行く。
「ぎゃあああ、やめろ! やめろお! 我だってダンスを踊りたい心境ではないぞ!」
アテュの手にした剣が日傘へと形を戻し、アテュは日傘を差したまま、優雅に舞い始めた。
「アルカナあ、我は必ずお前に復讐してやる! お前への積年の恨み、必ず晴らしてやるぞ! 覚えていろおおおおっ!」
アテュは、クルクルクルッと優雅にターンをしながら叫び、そのまま空間上の暗闇の中へと吸い込まれるようにして消えていった。
「うわあああ、アテュ様あ、お待ちください! この魔人フールも一緒に戻りますゆえ!」
力ちゃんの腕の中でペットの犬のように甘えていた魔人フールは、アテュが空間上の暗闇の中へと吸い込まれていくのを見るや、慌ててアテュの後を追うようにして暗闇の中へと飛び込んでいった。
アテュと魔人フールが姿を消すと、シュウウッと音をたて、空間上に口を開いていた暗闇が跡形もなく消えた。




