16番 THE TOWER 「塔」
「三枚ともカードはすべて正位置で出ていますね。カードには正位置と逆位置というものがあります。カードが逆さまに出ることを逆位置と言いますが、今回はすべて正しい向きで出ました。カードが正しい向きで出ると、それだけエネルギーが強いということを表し、逆位置で出るとエネルギーが弱まっているということを表します。今回は、過去、現在、未来、の三枚ともカードが正位置ですので、それだけ過去から未来へと向かって流れるエネルギーの勢いが強い、と言うことができます」
出たカードは愛流華奈から見ると、三枚とも正しい向きで出ていた。
「な、なによ! わ、私から見ると、二枚のカードは逆さまに出ているわよ?」
しかし、そこで青峰貴梨花が怯えた声で、愛流華奈の説明に口を挿むのだった。
「はい、カードの正逆と言うのは、占い師の視点から見ての向きなんです。ですので、当然、私と向かい合う貴梨花さんから見れば、カードはすべて反対向きになります。占い師である私の位置から見て、今回はすべてのカードが正位置で出ているということなんです」
愛流華奈が対面する貴梨花にニコッと微笑んで説明する。
「でも、真ん中のこのカードは私から見て正しい向きよ?」
貴梨花が、真ん中の『現在』の位置に出た『吊るされた男』のカードを指さして言う。逆さ吊りにされた男性の絵が描かれているカードだ。
「はい、このカードは逆さ吊りにされた男性を描いているカードなので、男性が逆さまに見えるのが正位置なんです。なので貴梨花さんから見た男性がきちんと立っているように見える向きは逆位置になるんです」
愛流華奈が真ん中の『吊るされた男』のカードをひっくり返し、貴梨花に逆さ吊りにされている男性の絵柄を見せながら説明する。
「そ、そうなのね……分かったわよ……でも、出たカードが全部正しい向きなら、何か縁起が良さそうだわね……」
貴梨花がすこしホッとした表情を見せる。
「まあ、すべてのカードが正位置だからと言って、占い結果も良いとは必ずしも言い切れないのですが……とにかく出たカードを一枚ずつじっくり観てみましょう。では、まずは『過去』の位置のカードから観てみます」
愛流華奈はそう言って、テーブルクロスの左側に置かれたカードを手に取ると、目の前に座る青峰貴梨花にカードを向けて喋りはじめた。
「『過去』の位置には、16番、THE TOWER.『塔』のカードが正位置で出ています」
愛流華奈は、そう言いながら、周囲のクラスメイトたちにも見えるようにカードを持つ手を左右に動かした。
カードには、真っ暗な闇の中にそびえ立つ高い塔が描かれていた。その塔を目がけて天から稲妻が落ち、塔のところどころから火の手が上がっている。塔はいまにも崩壊しそうな有様で、塔の中から飛び出してきた二人の人間が、真っ逆さまに落下しようとしている。




