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タロット・リーディングのコツ

「まあまあ、青峰さんも落ち着いて! 青峰さん、いいから席に座ってちょうだい……」

 担任の森咲杏奈は、立ちあがったままずっと愛流華奈のことを睨み付けている青峰貴梨花をなだめるようにそう言うと、

「ねえ、上井戸さん……あなたが持っているカードって、もしかしてタロット・カードなのかな? 私、朝は何だか幻覚を見ちゃったみたいだけど、よーく考えたら、タロットの『愚者』のカードにそっくりな女の子の姿を見たような気がするのよね……」

と、愛流華奈に向かって訊いた。


「はい、私が持っているのはウェイト版のタロット・カードです……」

 愛流華奈は森咲杏奈の質問に答えたが、すこし後ろめたさのようなものが感じられる声のトーンだった。


「あら、やっぱりタロットなのね! 上井戸さん、そんなに後ろめたく思わなくてもいいのよ……実は私もね、タロット占いをすこしだけ自分でやってみたことがあるの。本屋さんでね、タロット占いの本を買ってきて、カードの意味を調べながら自分自身のことを占ってみたりしたんだけど、タロット占いってなかなか難しいのよね。出たカードをどう解釈していいのか、本を見てもちっとも分からなかったわ……」 

 杏奈先生は、好意的な笑みを浮かべて、愛流華奈に言った。


「たしかに、初心者は教科書に書かれているカードの説明を、占って出たカードに無理やりあてはめて解釈しようとしますね……タロットのリーディングは理屈で考えようとすればするほど、その解釈が硬直的になります。その結果、占いは外れることになるでしょうね……」

 愛流華奈は、杏奈先生の好意的な微笑にすこしホッとした。

 タロットのリーディングについて思うことを語ろうとすればするほど、その口調には熱が増し、興奮気味にまくしたてるように続けた。


「……タロット・リーディングのコツは、インスピレーションです。占って出たカードの絵柄に注目し、そのカードにえがかれている視覚情報から、自分の心の中に思い浮かんでくるインスピレーションを広げていくんです。占者せんじゃの心に浮かびあがってくるインスピレーション、すなわち直観こそがカードが告げようとしているメッセージそのものなんです。占いが外れることなど、恐れず、ためらわず、感じたことをそのまま言葉にする、これこそが当たるリーディングをする秘訣なんです……」

 そこまで言い終えて、愛流華奈は途端にハッと我に還り、急に恥ずかしさがこみあげてくるのを感じた。


 愛流華奈が周囲を見回してみると、クラスメイトたちは目を丸くして、愛流華奈の饒舌な説明に聞き入っていたようだ。皆、一様にその瞳には、驚きと感心と興味の色が浮かび、そこに愛流華奈自身への尊敬の眼差しとが入り混じっているように思えた。


「へえ、上井戸さんはまるで本物の占い師みたいだ。すげえなあ! 俺もぜひ占ってもらいたいよ!」

 男子生徒の一人がそう声をあげると、

「私も上井戸さんに占ってもらいたぁーいっ! 彼氏が出来るかどうか観てほしいーっ!」

と、別の女子生徒からも声があがり、

「僕もーっ!」

「あたしもーっ!」

と、次々にクラス中から、「占い鑑定希望」の大合唱が起きた。


「フーッ、フーッ……ぼ、ボクは二次元のお嫁さんとのことを占ってもらいたいんだなぁ……フーッ、フーッ……」

 四谷一郎太も、鼻息を荒げながら顔を赤くして興奮気味に声をあげた。


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