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この想いが届くのはいつになるのやら

「うひゃあ! アルカナや、済まんかったのおおおっ……」

 隠者ちゃんはペコリと頭を下げて謝りながら、ボムッという音とともにその姿を灰色の煙に変え、スウ~ッと愛流華奈が手に持つ『隠者』のカードの中へと吸い込まれていった。


「やれやれ……」

 愛流華奈は、『隠者』のカードを制服の内ポケットにしまい込むと、いまだ机に突っ伏したままの清陀に視線を向けた。


 私の鈍感な王子様に、この想いが届くのはいつのことになるのやら……


 愛流華奈は軽く溜め息をつくと、机に顔を埋める王子様の元へと近寄った。


「スー、スー」

と寝息をたてて、王子様は気持ちよさそうに眠っていた。


 まあ、なかなか顔を上げないと思っていたら、いつの間にか眠っちゃったのね……お昼休みにお昼寝だなんて、まるで子供みたいな王子様だわ……


 愛流華奈は、清陀の小さい子供のような寝顔を見て、クスクスッと微笑んだ。


「風邪ひいちゃうわよ、私の王子様……」

 愛流華奈は自分のコートをそっと清陀の背中にかけた。


 朝に愚者ちゃんの割った窓はいまだにそのままで、冬の冷たい風が割れたガラスの隙間から入り込んでいた。


 しかし、穏やかな冬の陽射しが教室の奥にまで差し込み、清陀の机を優しく照らし出していたのだった。



「ふぁ~あ。よく眠ったわ……」

 午後の授業・四時限目。担任の森咲杏奈が、あくびをして伸びをしながら、教室に入って来た。杏奈先生は、朝、保健室に運ばれてからというもの、昼過ぎまで保健室のベッドで眠っていたが、やっと起き上がれるようになり、教室に戻って来たのだ。


「あら、教卓が壊れているわね……これは一体どういうことなのかしら? 困ったわね。四時限目は私の担当する倫理の時間なのに……」

 森咲杏奈は、教室の隅の方にとりあえずといった形で片づけられて置かれている、真っ二つに分かれた教卓を見て溜め息をついた。

 教師が授業を行なう教壇には、これまたとりあえずという感じで、余っていた生徒用の机と椅子とが生徒たちと向き合うように置かれていた。どうやら、教師はこの席に座って授業をしろ、ということらしい。


「しかたないわねえ……」

 杏奈先生はそう言って、教壇に置かれた席に着くと、

「そう言えば、さっき職員室で先生方が騒いでいたのだけど、現代国語の柿淳先生が急に居なくなったと思ったら、体育の先生がね、体育倉庫で柿淳先生が泣いているのを見つけたそうなのよ……柿淳先生ね、身体中をロープでグルグル巻きにされて一人で泣いていたそうよ……一体どういうことなのかしらね……?」

と、不思議そうに首をひねりながら生徒たちに言うのだった。


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