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タロットに違いなんてない

「ふうん。なんだかよく分からないなあ。僕には魔術も魔法も同じもののように思えるけど……でも、タロット占いの学術的文献ねえ……きっと僕には難解で理解できない本なんだろうなあ……」

 清陀はパラパラとページをめくりながら手にした本の中身に目を落とした。


「うわ、これ、英語? 全部英語で書いてあるよ? 僕、英語苦手なんだ……」

 本の活字がすべて英文だったので、清陀は読むのを諦めようと思った。しかし、あるページに描かれていた一枚のカードが目に留まった。


「あれ? The Foolフールって書いてあるけど、これ『愚者』だよね? なんか君の持っているカードの愚者とはだいぶ違うねえ?」

 清陀が目にした本の『愚者』は二本の角を頭に生やした大男が両腕と両足をまるで「大の字」のように大きく広げ宙に浮かび上がっているような絵が描かれていた。大男は緑色の衣を身に纏い、その肌は黄金色で、男の左足の太腿には虎が噛みつき、右足の足元にはワニが横たわっていた。


「よくぞ気づいてくれましたね!」

 愛流華奈は仔猫のようなパッチリとした瞳を爛々と輝かせながら、人差し指をビシッと清陀に向けて突き出した。


「その本に描かれているタロットはトート・タロットと言う種類のタロットでクロウリーが考案したものです。私が使うタロットはウェイト版タロットと言うまた別の種類なんです。なので同じ『愚者』のカードでも描かれ方が異なるんです!」

 愛流華奈は上気した顔で半ば興奮気味に一気にまくしたてるように言う。


「……でも、トート・タロットを考案したクロウリーも、ウェイト版タロットを考案したアーサー・ウェイトも、共に同じ魔術結社、『黄金夜明ゴールデン・ドーン』のメンバーでしたし、世界の叡智を探究しようとするタロットには、本来は違いなんていうものは存在しません……」

 そこまで言い終えると、フ~ッと愛流華奈は軽く息を吐いた。


「ふーん。君はホントにタロットが好きなんだなあ。説明するとき、目の輝きが違うよ……」

 清陀は愛流華奈のあまりにも興奮しながらの説明にすこし引き気味になりながら言う。


「でもさあ、それなら僕は君の使うウェイト版とか言うやつのほうがいいかなあ……だってさ、こんな大男の愚者ちゃんがカードから飛び出して来るよりも、やっぱり可愛い女の子の愚者ちゃんのほうがいいもの」

 清陀は頬を赤く染めながらそう言うのだった。


「むう……やっぱり愚者ちゃんのことが好きなんだ……」

 愛流華奈は不機嫌そうに唇を尖らせて、ふくれっつらになりながら言う。


「まあ、私の使うウェイト版の愚者も男の子の姿で描かれていますから厳密には女の子ではないんですけどね……どうして私の使う具現化魔術ランカルナスィオン・ド・ラ・マジは女の子を呼び出してしまうんでしょうかね……」



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