戦慄きのこ少女
「心配かけたな、琉詩葉! もう大丈夫じゃ。ここからはわしが戦うぞ!」
燃え立つ炎のような紅髪をなびかせながら、白面の美少年の姿に戻った冥条莉凛が、地面にへたり込んだ琉詩葉の方に歩いてきた。
「やん! お祖父ちゃん、スッポンポンだよー!」
琉詩葉が悲鳴を上げて莉凛から貌をそむける。
「むむっ!」
莉凛はようやく自分のいでたちに気づいた。
復活の炎に焼かれて、彼の衣服は全て燃え落ちてしまっていたのだ。
「やー。すまんすまん!」
たまたま地面に落ちていたイチジクの葉っぱを拾い上げて、大事な所を隠した莉凛は、琉詩葉の前に立つと彼女の手を取り、地面から助け起こした。
「それにしても琉詩葉、わしを助けるためにここまで?」
莉凛は、胸に熱いものが込み上げてきて、思わず涙ぐんだ。
「そうだよ、お祖父ちゃん……心配してたんだから!」
琉詩葉もまた目頭が熱くなった。
「琉詩葉……! 成長したな!」
感極まった莉凛が、いつものように孫をハグして頭をナデナデしようとした、しかし、その時だ。
「え……! やだ!」
なぜだ? 琉詩葉が顔を真っ赤にしながら、彼の手を振り払おうとしたのだ。
「ん? どうした琉詩葉?」
莉凛が気にせず、琉詩葉の頭に手をやって、紅髪をクシュクシュしてやろうとしたその目前で、
「そ、そんな……だめだよお祖父ちゃん、だってうちら、祖父と孫じゃない……」
琉詩葉がうつむいて、急に、声が小さくなる。
「な……! 琉詩葉……!」
琉詩葉が、わしのことを、意識してる……!?
そう気付いた莉凛は、顔がカッと熱くなり、何十年かぶりに胸の内に湧き上がってくる甘酸っぱいような、痺れるような衝動に、自分を抑えきれなくなってきた。
「ふおーーー! 琉詩葉ーーー!」
「あーん……だめ! お祖父ちゃん!」
目の中に入れても痛くないくらい可愛い孫娘が、自分を見て、モジモジしている!
この、あまりにもトキメキ☆キュンキュンなシチュエーションに一瞬理性を失った冥条莉凛が、琉詩葉の肩を抱いて、孫の頬に無理矢理チューをしようと貌を寄せた。だが、その時だ。
ふわん。
これはいかなることか?
きのこ園の地面に転がっている、幾つもの石ころ。その石の一つがいきなり空中に浮かび上がったのだ。
「ん……」
呆然とする莉凛むかって、石礫が飛んでくると……
ごちん!
莉凛の額に、ものすごい勢いで命中した!
「うぎゃーー! 痛たたー!」
「うおわ! お祖父ちゃん! 大丈夫?」
おでこから血をダラダラ流しながら悶絶する莉凛と、慌てる琉詩葉。その時だった。
「はしたないわ莉凛さん! るっちゃんに、何をしているの!」
怒りでワナワナわなないた女の声が、きのこ園一帯に響き渡った。
「な……? その声は、まさか!」
愕然として、声の元を向いた冥条莉凛。
そこにあったのはブレスレットだった。獄閻斎がいつも肌身離さず身に着けていた、チタン製の『遺骨ブレスレット』なのである。
究極奥義『獄炎転生』の炎にも燃え尽きることなく、地面に落ちていたそのブレスレットのカロート部分から、何やらモクモク、薄紫の煙が立ち上ってくると、次の瞬間、しゅん。
煙が凝集して、ヒトの形になった。
「莉凛さん! わたくしというものがありながら、なんたる破廉恥!」
おお見ろ。現れたのは結い流しの黒髪に矢絣の小袖に海老茶の行灯袴という、時代がかった出で立ちの一人の女学生。
だがその全身はボンヤリとした薄紫色の燐光に包まれた、後ろの景色が透けて見える、半透明の美貌の少女の姿だったのだ。
幽霊少女である。
「うおわーーーー! 魂子! 化けて出たか!」
莉凛の目が、恐怖で見開かれた。
「うそ! まさか、お祖母ちゃん?」
琉詩葉が驚嘆の声を上げた。
「るっちゃん、三日ぶりね!」
少女が琉詩葉を向いて、そう言って笑いかける。
出で立ちこそ琉詩葉の知らない姿だったが、その口調、ものごし、ニッコリ笑ったその顔つきには、琉詩葉も確かに覚えがあったのだ。
二人の前に立っていたのは、十年前鬼籍に入ったはずの、獄閻斎こと莉凛の妻にして、琉詩葉の祖母。
冥条魂子の、うら若き日の乙女の姿だったのだ。
「わーい! お祖母ちゃんも生き返ったんだ!」
無邪気に歓声を上げて飛び跳ねる琉詩葉に、
「んー。生き返ったのとは少し違うけど、世界の『狭間』が広がって、『こっち』にも出てきやすくなったのよ!」
魂子が、ボンヤリ光った小袖と袴をながめ回しながら、そう答えた。
「それにしても……!」
莉凛を向いた魂子の貌が、琉詩葉に見せた笑顔から一転、苦虫を噛み潰したような表情に変じた。
「まったく! 忍者との戦いで手こずっているから心配して顔を出してみたら、こんな処で、るっちゃんとイチャコラしているなんて!」
ぎらん! 魂子の紫の瞳が怒りで燃え上がった。
「シャキッとしなさい! 莉凛さん!!!」
月下のきのこ園に響いた大喝一声。
「す……すみません魂子さん! つい出来心で!」
ずさっ!
みじめ、莉凛はきのこ園の地面に土下座した。
「まあまあ、お祖母ちゃん! 許してあげてよ、お祖父ちゃんも悪気は無かったんだから!」
琉詩葉が、無責任に笑いながら二人に割って入る。
「んー。るっちゃんがそう言うなら仕方ないわね! さ、立ちなさい莉凛さん! 本丸に攻め込むわよ!」
「は……はい……」
ションボリした様子で立ち上がる莉凛。その時だった。
「こらー! 勝手に家族で盛り上がるなーー!」
怒りに燃える声が一帯に響いて、三人が振り向けばそこにいたのは、密生するきのこの陰から姿を現したアミガサダケ。
間一髪で琉詩葉の『ダーク・ルシオン』から逃れ、不気味な菌状腫を怒りでフルフル震わせた粘菌斎の頭部であった。
「あ……! まだいたんだ。忘れてた!」
琉詩葉が口を覆う。
「きのこじじい! 今まで好き放題やってくれたな!」
莉凛が粘菌斎を指さし叫ぶ。
「お前の術は見破っとる! 今日が年貢の納め時じゃ!」
そう言って怒りに燃える目で、地面に刺さった日本刀『花殺め』を手にする莉凛だったが、
「年貢の納め時じゃああ?」
なおも粘菌斎は不敵に嗤った。
「ここは、わしのきのこ園! 何人たりとも生かしては帰さん! 出でよ、アミガサ五毒拳!!!!!」
粘菌斎がそう叫んだ、次の瞬間!
ぼん! ぼん! ぼん! ぼん! ぼん!
またもや周囲の地面が盛り上がると、きのこ園地下から、一斉に何かが飛び出してくる。
「こ……! こいつらは!」
琉詩葉は目を瞠った。
現れたのは、これまで倒してきた、どんなきのこどもよりも、さらに禍々しい姿をした五つの魔影だった。
「ふしゅしゅー! みたかーーー! きのこ園最強の暗殺茸! アミガサ五毒拳よ!!!!!」
粘菌斎が勝ち誇った嗤いを上げた。
見ろ。三人の前に立ちふさがった異形の五体を。
「ぐしゅしゅしゅしゅしゅしゅ……!」
臨終ポドストローマ・コルヌダマエ拳のカエンタケ。
その様は地獄の業火を体現したような紅蓮の棍棒。
触っただけで皮膚がただれ、一口しただけで全身の皮膚糜爛、呼吸困難など激烈な症状を引き起こし摂食者を死に至らしめる。最強の毒きのこ談義で、その名の上がらぬことはない、毒きのこ界のエターナルチャンピオンである。
「くきゃーはははははははーーーー!」
臨終パナエオルス・パピリオナセウス拳のワライタケ。
殺傷能力こそ待たないものの、中枢神経に作用する神経毒シロシビンを有し、摂食者にサイケデリックな幻覚を見せては正常な思考能力を奪い、突然大笑いをさせたり、服を脱いで裸踊りさせたりしてしまう毒きのこ界のお調子者である。
「にゅふふふふふふふふふ…………!」
臨終アマニタ・ムスカリア拳のベニテングタケ。
これまた多幸感、健忘、強い幻覚作用やおう吐感を起こすことで知られる。古来より酩酊薬としても使用されてきた。
殺傷能力こそ弱いものの、毒きのこと言えばベニテングタケを連想するくらい古くからみんなに愛されてきた、毒きのこ界の紅一点である。
「けけけけけけけけけけけ…………!」
臨終プレロシベラ・ポリゲンス拳のスギヒラタケ。
北国では、味わいのよい食用きのことして一般的に古くから食されてきたきのこであったにも関わらず、近年の研究の結果、急性脳症発生の原因となる可能性が浮上してきた、しゃれにならない毒きのこ界のダークホースである。
「ぴっかっちゅうううううーーーー!」
臨終オンファロトゥス・グエピニフォルミス拳のツキヨタケ。
幼少時は、夜になるとぼんやりとした青白や緑色の光を発する、幻想的な山の夜景を演出する美小茸であるが、その身に宿した毒は摂食者に下痢、嘔吐などの消化器系の障害をひきおこし、脱水症状で死に至らしめることもある。毒きのこ界のファム・ファタールである。
「琉詩葉! 魂子! 下がっておれ! こんなやつら、わし一人で十分じゃ!」
ぎらん。莉凛の目が、不敵に煌めいた。
「わーい! よろしくねお祖父ちゃん!」
「たのみましたわ。莉凛さん!」
莉凛の背中から声援を送る琉詩葉と魂子。
ざざっ!
五人の魔茸が、一斉に莉凛に飛びかかる! だが……!
一分後。
カエンタケ、軸部さば折り。死亡。
ワライタケ、いしづき断裂。死亡
ベニテングタケ、つばが柄にめりこんで窒息死。
スギヒラタケ、かさ部陥没。死亡
ツキヨタケ、軸部破損。
なんたることか。得物の『花殺め』すら持たず、徒手空拳にて五茸瞬殺の冥条莉凛。
「ふん! こんな連中、表道具を用いるまでもないわい!」
全盛期の肉体を取り戻した莉凛の拳は、生身であろうと凶器そのものである。
「おつかれさま莉凛さん! さ、石を落としますわー!」
そう言って、笑顔の魂子が小袖を振ると、
ふわり。ふわり。ふわり。ふわり。
地面から次々に、巨大な庭石が浮かび上がってきのこ達の真上にくると、
ぐちゃっ! ぐちゃっ! ぐちゃっ! ぐちゃっ!
きのこの頭部に落下して、確実なるとどめを刺していった。
『騒霊現象』である。
幽霊屋敷につき物の、そこにいる誰一人として手を触れていないのに、お皿が割れたりコップが宙に浮いたり、ラップ音が鳴り響いたりする怪奇現象である。
日本でも古くより、家鳴り、天狗礫など、妖怪の所業として、広く全国に言い伝えられている。
肉体を持たない幽霊少女、冥条魂子が用いる、念動力にも似た超常の能力であった。
恐るべきは冥条夫婦が殺人コンビネーションよ。瞬く間に五茸のうち四茸は屠られ、昏倒したツキヨタケの一茸のみが生かして残された。
この者は、冥条流の強さを世に示す生き証人になるのである。
「それにしても、せっかく『こっち』に出てきたのに、このナリだと、やっぱり不便ねえ……」
自身の半透明の体をながめ回して、魂子が不満げに呟いた、その時だった。
「おのれー! きさまら! かくなる上はー!」
五毒拳を倒された粘菌斎が憤怒の雄たけび。
「ねーーーーんきーーーーん! 復活!」
菌状腫を震わせながら粘菌斎がそう叫ぶと……!
ずにゅるるるるるるるる……!
見ろ、またしてもきのこ園の地下から湧いてきたのは、黄褐色の、巨大な、粘菌の塊だった。
湧き出した粘菌が、粘菌斎のアミガサ茸に寄り集まって行くと、再び粘菌斎の肉体へと再構成されていくではないか!
「お祖父ちゃん! あいつ! また復活するつもりだよ!」
琉詩葉の驚きの声に、
「ぐぬぬ! 安心せい琉詩葉、あんなやつ、何度でも引導を渡してやるわい!」
猛り立つ莉凛。
だが……その時だった。
「あらー! あんな所に、丁度いい依代が!」
復活していく粘菌斎に気づいた魂子が、目を輝かせてそう言うなり、
とろろーん……
これはいかなることか?
少女の姿が一瞬にして溶け去ると、紫の燐光を放った空中を流動する粘液になって、粘菌斎むかって襲いかかったのだ!
「な……! なんじゃ!」
突然の怪事に一瞬固まった粘菌斎の体に、半透明のドロドロになった魂子が覆いかぶさった!
『霊的半物質』である。
降霊の儀式の際に、霊能者の口や鼻から出て来たりする半透明のスライム状物質で、その場にいる霊が自身を物質化したり、様々な怪奇現象を起こすのに利用したりする、なんだかよくわからない謎の触媒である。
そして見ろ。エクトプラズムと化した魂子の霊体が粘菌斎の粘菌体に絡みつくなり、
ぐちゅっ……ずちゅっ……じゅちゅるるるるるるる……
なんというおぞましさよ。怪忍者の体に食い付き、潜り込み、浸潤しながら、彼の肉体を細胞レベルで捕食、同化を始めたではないか!
「あなたのお体、このわたくしが、そっくりいただきますわー!」
スライムから聞こえてくる、うれしそうな魂子の声に、
「うぎゃーーー! 熱い! 痛いーーー! 気色悪いーーー!」
おそるべき霊体スライムと化した魂子に浸食された粘菌斎のアミガサダケが、恐怖の叫びを上げた。
もにゅ もにゅ もにゅ もにゅ……
「ひぎゃ! ぎゃひ……ひぃやぁらぁあぁあぁ……」
だがやがて、アミガサダケの頭部も溶け落ちて、粘菌斎の断末魔も絶えて尽きると、見ろ。怪忍者の肉体と混ざり合ったエクトプラズムが、茶褐色と半透明のマープル模様を渦巻かせた、一種筆舌に尽くしがたい不気味に蠢き絡まり合った一個の粘塊を形成していき……、次の瞬間!
ぽんっ!
蠢く粘塊が白い煙に包まれて、
「あー! やっぱり身体があるってイイわー!」
満足げな様子でそう言いながら煙の中から姿を現したのは、矢絣の小袖に海老茶の行灯袴をはいた、今度はハッキリと現世での実体を有した、女学生の姿の魂子であった。そして見ろ彼女の頭部を。結い流した黒髪の間からチョコンと生えているのは、小さなかわいらしいベニテングタケである。
「お……お祖母ちゃんが、きのこ人間に!」
祖母の復活を目の前にして、琉詩葉が驚嘆の声を上げる。
「るっちゃん、莉凛さん、お待たせ!」
きのこ肉体を受肉して、この世に復活を果たした冥条魂子が琉詩葉と莉凛に笑顔でそう言った。
「さあ、悪漢どもをやっつけに行くわよ。エイエイオー!」
「わかった! お祖母ちゃん。エイエイオー!」
和気藹々と勝鬨を上げながら歩き出した魂子と琉詩葉に、
「ううーーー! なんだか、やりずらいわい……」
冥条莉凛が、微妙な表情でブツクサそう言いながら二人のあとを追った。
「にゃー! お前ら! 私も連れて行けーーー!」
三人の背中から声が聞こえてきて琉詩葉が振り向くと、声の主は粘菌斎に縛り上げられて地面に転がった、いまや甲賀衆最後の一人。焔だった。
ネコミミをヒクヒクさせながら必死で縛めを解こうとする忍者少女に、
「わ! ごめんごめん焔ちゃん、忘れてた!」
そう言って焔のもとに駆け寄って、彼女の手足の縄を解く琉詩葉。
「世話になったな! 娘!」
立ち上がった焔が、素直に琉詩葉に礼を言った。
「まったく粘菌斎め! 甲賀の忍びの面汚しが!」
焔はいまだに憤懣やるかたない様子できのこ園を見回してから、
「一時休戦じゃ娘! このような蛮行、我ら甲賀衆としても見過ごしておけぬ! 一緒に大月教授を退治するぞ!」
そう言って、琉詩葉に手を差し出したのだ。
「あたしは琉詩葉だよ! こっちこそよろしくね! むらむら~!」
「にゃ……! その呼び方はやめろ~~!」
がしっ!
互いを戦友と認めた琉詩葉と焔が、月下のきのこ園で固い握手を交わした。
「イイ話ですねー莉凛さん!」
「ああ、イイ話じゃ魂子!」
二人の少女の姿を、温かい目で見守る莉凛と魂子。
焔は知る由もなかったが、三日前の戦いで彼女の下男の頭を一刀にてかち割って屠り去ったのは、紛れもなく冥条莉凛本人なのであるが、その事は黙っていようと莉凛は決めた。
「あら、あれが本丸への入り口ね!」
何かを見つけた魂子が声を上げて皆がそちらを向くと、
ぎぎぎぎぎ……
胞子の靄が晴れていき、その向こうから姿を現したのは、巨大な悪魔城の城門だった。
誰もいないのに、門の閂が外れ、扉がゆっくりと開いていく。
「ふん! 入って来いということか! いいじゃろう、行くぞ皆の者!」
「わかった! お祖父ちゃん!」
一行は覚悟を決し、悪魔城に入城した。
#
「な、なんなのよ此処!」
小一時間後。
悪魔城に仕掛けられた数々のトラップをどうにか躱し、襲いくるモンスターを片端から蹴散らしてきた一行。
ようやく『悪魔城玉座の間』に辿り着いた琉詩葉たちの前に広がっていたのは、目を疑うような狂気の光景だった。
巨大な玉座の間の壁面を埋め尽くしているのは、何千個もの色とりどりの『カプセル』だった。
薄ぼんやりと虹色に輝くカプセルの中には、大月教授が多摩市全域から攫い集めてきた、女子中学生や女子小学生、いたいけな女の子達が、閉じ込められ、眠らされているのである。
「ふははははーーーー! 悪魔教ーーーーーー授!」
そう叫んで黒曜石の玉座から立ち上がったのは、蛸足をくねらせた大月教授。
だがその姿は、三日前とは異なる更なる異様を呈していた。
翼である。教授の背中から生えてパタパタと羽ばたいているのは、巨大な、黒鳥の翼なのである。
「あんたが教授ね! うちらの街をめちゃくちゃにして! 許さないんだから!」
怒りに燃える目で琉詩葉が教授を睨んで叫んだ。
「ふははは! いかにも! だがな、ただの教授じゃないぞ。今の私は、この世の理を乱し、書き換えてしまった魔なる者。そんな存在は、もう悪魔教授とでも呼ぶしかないんじゃないかなぁああ'`あ'`あ'`あ'`あ'`あ'`あ'`あ'`……」
どうかした目つきで教授が嗤う。
「あ……『悪魔』じゃと! ざけんじゃねーぞ (#゜Д゜)ゴルァ!!!!!!!!」
かの映画の『新編』を、孫にも内緒でお忍びで計11回映画館で観賞して、その度に恥も外聞も無く落涙し、今もジャングルで取り寄せたブルーレイDVDを夜な夜な自室で見返しては、上映版との細かい違いにブツクサ文句を言いながらも、結局最後は身悶えしながらむせび泣いたり、布団の上を転げまわったりしている獄閻斎こと冥条莉凛が、紅髪を振り乱しながら憤怒の形相で大月教授に怒号を上げた。




