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刹那、らんだまいず!  作者: めらめら
第6章 風雲悪魔城
26/36

獄閻斎月明に燃ゆ

「ぐきゅきゅきゅ……」

「プルートウ……。もう限界かあ……」

 城の中庭に不時着して弱々しい声を上げる自身の使徒プルートウを見上げて、琉詩葉は呟いた。

 もともと完全に充電が終わらないうちに緊急出動(スクランブル)したことに加えて、ドラゴンとの戦いで片翅をもぎ取られたプルートウは、すでにダメージとエネルギー切れで移動能力を失っていた。


「仕方ないか。今度はここで待っててよね! すぐ戻るから!」

 プルートウにそう言って、焔を肩に乗せた琉詩葉は、城への入り口を探すために中庭を歩き始めた。


「それにしても……」

 琉詩葉はあきれて辺りを見回した。


「『アミガサきのこ園』……て? なんでお城の中に、こんなきのこ園があるのよ……」

 周囲には赤や紫の見たこともないきのこがそこかしこに密生し、時折それらの一部が倍くらいに膨れ上がると、モフッとはじけて、あたりに黄色い胞子を蒔き散らしていくのだ。だが、その時、


「にゃ……! にょにょににょににゃ!?」

 突如、琉詩葉の肩の上の焔が驚いたように鳴き立てると、


 くんか くんか……


 ひとしきりあたりの空気を嗅ぐと、


 ぴょん。


 琉詩葉の肩から飛び降りると、何かを追いかけるように、中庭の奥の方へと駆け去っていくのだ。


「ちょっと! どこ行くのさー? むらむら(・・・・)!」

 慌てて追いかけようとする琉詩葉だったが、焔はすぐに黄色い胞子の靄の向こうにその姿を消してしまった。


「まいったなあ……。せっちゃんも、ゆすらちゃんもいないし、此処から、どうやって本丸まで……」

 焔ともはぐれてしまい、途方にくれる琉詩葉だったが、だがその時、


 ハサハサ……


 彼女の眼前をかすめて飛ぶ一片の影があった。


「ん……蝶?」

 琉詩葉が目を凝らせば、それは黄色い靄の中を儚げに飛ぶ、一頭の黒翅の蝶なのだ。


「うう……!」

 なぜだか急に、首筋がズクンと疼いて、琉詩葉は口元をおさえて呻いた。

 その蝶に、何かとても()な思い出があった気がしたのだ。


「でも……付いて来いってこと?」

 蝶がまるで、琉詩葉を誘うかのように、彼女の前方をハタハタと飛んで行く。

 不安に駆られながらも、他に行くあてもない琉詩葉は、蝶の飛んで行く先、焔の消えた靄の奥向かって歩き始めた。


  #


「にゃ……! にぇんにんにゃい! にゃんねにょにゃにぇにゃにょにょに!」

 中庭の奥。何かの匂いを嗅ぎつけて琉詩葉の元から駆け去った黒猫の焔が、ひときわ濃さを深めた胞子の靄の奥に立つ、何者かと対峙していた。


「ふむ! 城の上空が騒がしいから駆けつけてみれば、その匂いは(ほむら)か。『何でお前がここに』、とな?」

 これはいかなることか。そう答えながら靄の奥から姿を現したのは、頭部の菌状腫を不気味に震わせた筋骨隆々たる着流しの老人。

 三日前に琉詩葉の祖父、冥条獄閻斎の肉体を乗っ取って戦いの場から姿を消した、アミガサ獄炎(ファイヤー)粘菌斎であった。


「ふしゅしゅ焔、先の戦いで、依頼主(クライアント)も、我らが首領の弦之助も死んだ。残された甲賀衆はうぬとわしの二人だけ。そこでな、わしは甲賀の里の復興のため、新たな依頼主(クライアント)と契約を結んだのよ。この城の主、大月教授殿とな!」

 怒りで鳴き立てる焔に、粘菌斎がそういって嗤う。


「ふしゅしゅ、『悪魔城』に攻め入った敵を全て始末して、教授殿が天下統一を果たした暁には、この日本の全土を『甲賀の里』&わしの『アミガサきのこ園』として拝領する約定になっておるのよ!」

 

「にゃー! にょんにゃにょにゃにぇにゃー!」

 自分勝手な約定を交わした粘菌斎に、焔が怒りの牙をむいて飛びかかるも、



「さすれば焔。このわしは甲賀の新首領。そして、うぬは首領のヨメじゃ!」

 子猫の攻撃をなんなく一蹴。空中の焔の首根っこをむんずと掴んだ粘菌斎は、ジタバタする焔に顔を寄せると、そういっていやらしく嗤う。


「ふしゅしゅしゅ……焔! このわしの夜伽になれ。小四郎のミミズなんぞより、わしのきのこ(・・・)のほうが何倍もイイぞ~~~! わしはのぉ、ずーっとお前さんにムラムラしとったのじゃ! むらむら(・・・・)~~~!」


「にゃ……! にょにょにょににゃにゃにゃにゃにぇにょ~~!」

 黒猫の焔が、猛烈に嫌そうに前足をジタバタさせて、粘菌斎に鳴きたてた。


「しかし焔、その恰好ではなんとも埒が開かんのぉ……」

 暴れる焔の前足と後足をタコ糸で縛り上げながら、黒猫の体をジロジロと眺めまわした粘菌斎は、突然、


「ならば……こいつでデトックスしてくれるわ!」

 そう言って、怪しく嗤った粘菌斎が背中の信玄袋より取り出したるは、見ろ。青竹の水筒だった。


「にゃぎゃ~~~!」

 竹筒の栓を抜いた粘菌斎が、いやがる焔の口許に無理矢理飲み口を押し当てると……


 てゅるるるるん。


 これはいかなる趣向か?

 竹筒の中から、得体のしれない茶褐色のドロドロが黒猫の焔の口に、無理矢理に流し込まれて行く!


「うんにゃにゃにゃにゃにゃ~~! んくっ! うくっ!」


 こくん。


 口をふさがれた黒猫の焔の喉が小さく上下して、否応なしに粘菌斎のドロドロを嚥下してしまうと、


 しゅうううう……


 子猫の体から、何か赤黒い蒸気のようなものが立ち上っていき、


 次の瞬間……、


 ぽんっ!


 焔の身体が白い煙に包まれて、


「にゃ? 戻った……!?」

 煙の中から姿を現したのは、両手両足を荒縄でグルグル巻きにされた黒装束の少女。

 三日前学園に姿を現した時と同様の、可憐な忍者少女の姿を取り戻した、焔だった。


 『デトックス』である。

 粘菌斎が取り出した竹筒の中身、焔に含ませた褐色のドロドロの正体。それは、『紅茶きのこ』であった。

 砂糖入りの紅茶を冷まして、モンゴル原産のキノコっぽい何かをいれ、ビン詰めにして冷暗所に保存して培養される健康食品。

 体内の病原菌を殺し、毒素を排出して、水虫を消したり高血圧を治したりすると言われている驚くべき飲み物である。

 残念ながら、一般的に流通している紅茶きのこに体内の毒素を排出させる『デトックス効果』があるのかどうかは、現段階で科学的な立証はなされていない。

 だが、粘菌斎が己がアミガサきのこ園で栽培、生成した『特製紅茶きのこ』の効能は、まさに一目瞭然の即効性を有した本物であり、三日前、吸血少女裂花が焔に含ませた吸血鬼(ヴァンパイア)の血を、瞬く間に焔の体外に排出して、彼女の姿を使い魔の黒猫から、もとの少女の姿へと復元せしめたのである。


 だが見ろ。よくよく観察すれば、漆黒の忍び装束に覆われた少女の姿には三日前とは異なる、更に萌え萌えな付属物がある。

 彼女の頭部、紫紺の髪の毛の間からチョコンと飛び出ているのは、大きな、黒い、『ネコミミ』。

 背中にはパタパタ羽ばたくかわいらしい蝙蝠の羽。

 そして、忍び装束に覆われた腰のあたりから生えているのは、クネクネくねった、黒猫の尻尾なのである。


「にゃー! 粘菌斎! 戻すならちゃんと戻せ~~!」

 猫耳蝙蝠忍者少女のいでたちとなって地面に転がった焔が、粘菌斎に怒りの声を上げた。

 

「ふむう……デトックスが足らんかったか。まあよい、そっちの姿の方がそそるわいな焔~~~~!」

 手足を縛られ身動きの取れない少女に、卑猥に嗤いながら粘菌斎が迫って来る。


 あぶない焔! だが、その時!


「あ、あんた! こないだの忍者の仲間! なんでこんな所にいるのよ!」

 中庭に響いた声に粘菌斎が顔を上げれば、立っていたのは冥条琉詩葉。

 黒蝶の導きでここまで辿り着いたのだ。


「誰かと思えば『学園』の小娘か。すっこんどれ。うぬには関係のない話よ」

 邪険に琉詩葉をあしらおうとする粘菌斎だったが、


「ありあり! オオアリクイよ! うちら(・・・)むらむら(・・・・)に変なことしたら、許さないんだから!」

 怒りに燃える目でそう言って錫杖を構える琉詩葉。


「にゃー! その呼び方はやめろ~~!」

 地面に転がった焔が、貌を真っ赤にして琉詩葉に抗議した。


「ふむ、仕方ない。ならばうぬには、こいつを喰らわせてやる! 出でよ茸の子!」

 粘菌斎が琉詩葉を睨みながら、周囲に号令をかけると、


 ぼん! ぼん! ぼん! ぼん! ぼん!

 

 突如、琉詩葉の周囲の地面が盛り上がると、きのこ園地下から、一斉に何かが飛び出してくる。


「やれ! ぶなぴー五人衆!」

「ぴーーーーーー!」

 なんたることか。粘菌斎の号令で地中から姿を現して琉詩葉に飛びかかってきたのは、身の丈ほどもある、五体の巨大な『ブナシメジ』だった。

 か細い手足をバタバタ振り回して奇声を上げながら、ぶなぴーどもが琉詩葉に迫る。


 だが琉詩葉は一歩も引かず、錫杖をかざしてこう叫んだのだ。


「冥条流蠱術、ダーク・ルシオン!」


 ぶずずずずずず……

 不気味な唸りとともに錫杖から湧いたのは、だが、いつもの羽虫の軍団『ダーク・レギオン』ではなかった。

 

 ぽっ ぽっ ぽっ ぽっ ぽっ


 見ろ。琉詩葉の周囲を緑色の淡い光が幾つも幾つも明滅して、彼女の体を包んで行く。


 光の正体は琉詩葉が召喚した、何千匹もの、ホタルだった。

 ホタルに包まれた琉詩葉が錫杖を振って、

 

「必殺、ルシフェリック☆バースト!!!」


 ぶなぴーどもを睨みながらそう叫んだ。すると、


 びゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅ……


 琉詩葉の周囲を飛び回るホタルの腹部後方の体節の発光体が、一際強く輝くと、次の瞬間!


 びゅーーーーーーーーん!


 何千匹ものホタルから発射された眩い緑色の光線が、ぶなぴーどもを貫いた!


「ぴぴーーーーーー!」

 光線の集中砲火を浴びて引き裂かれ、悲鳴を上げ、炎上しながら崩れ落ちていく茸の子たち。

 これが、琉詩葉の新必殺技『ダーク・ルシオン』だった。

 通常のホタルが、おもに配偶行動の交信のために夜間に瞬かす燐光。これは、彼らの体内で生成される発光物質『ホタル・ルシフェリン』の作用によるものであるが、琉詩葉が異界より召喚した彼女の新たな使徒『メイジョウヒメボタル』は、これを攻撃の武器に用いるのだ。彼らの発光器官で形成された、現存するいかなるビーム兵器よりコンパクトかつ高効率のレーザービーマーが、ぶなぴーたちを一瞬にして殲滅した。

 自身の広域長射程攻撃能力に不足を感じていた琉詩葉がつい三日前、密かにあみ出していた恐るべきビーム技であった。


むらむら(・・・・)を放しなさい!」

 間髪入れずに琉詩葉が粘菌斎を向いて錫杖を振る。

 

 びゅびゅびゅびゅびゅ……


 ホタルたちの発光器官の照準が、今度は奇怪な老忍者をマークした。

 だがなぜだ。粘菌斎の顔には余裕の笑み。忍者は、地面に転げた焔を跨いで、スタスタと琉詩葉の方に歩いてくるのだ。

 

「もー知らないから! やれ!」

 琉詩葉が再び号令、ホタルたちの腹部から、再び緑色の閃光が迸った。


 びゅーーーーーーーーん!


 レーザービームの一斉掃射が、粘菌斎の体を貫いた! かに見えた、だがその時だ。


「ぬうん!」

 なんと、粘菌斎がいつの間にか構えていたのは、日本刀『花殺め』。

 彼の振った白刃の一閃が、緑の死光を切り裂いて、周囲に砕き散らした!

 老忍者は全くの無傷である!


「あの刀! 太刀筋! うそ、お祖父ちゃん!?」

 琉詩葉が驚愕の声を上げた。

 なぜあの忍者が、祖父の日本刀を? 祖父の技を?


「なるほど、なるほど。小娘、うぬはあの老いぼれの孫かいの?」

 粘菌斎がニヤニヤ笑いながら琉詩葉に迫って来る。


「ヤツの体、そっくりそのまま、このわしが頂いた。この技量、身体能力。老いぼれのくせに、とんだ拾いものじゃわい!」

 きのこ忍法『魔胆伍(またんご)』で獄閻斎の肉体を乗っ取った怪忍者が、勝ち誇った顔で琉詩葉にそう言ったのだ。


「そ、そんな~!」

 琉詩葉はショックと絶望のあまり、その場にペタンとへたりこんでしまった。

 獄閻斎を探すために、新必殺技まで用意して悪魔城に乗り込んだというのに、このような形で祖父と再会することになるとは!


「ふしゅしゅ小娘、観念したようじゃの。ならば祖父の刀であの世に行けーーー!」

 粘菌斎がそう叫んで、日本刀『花殺め』を琉詩葉向かって振り上げる。

 ショックと恐怖で、逃げることもできない琉詩葉に振り下ろされる日本刀の一閃。


 あぶない琉詩葉! だが、その時だ!


「なんじゃ……? 身体が! 言うことを……!?」

 粘菌斎が戸惑いの声を上げた。

 琉詩葉に振り下ろされるはずの『花殺め』は、中空で微動だにしていない。いや、できないのだ。

 完全に乗っ取ったはずの獄閻斎の肉体が怪忍者の制御に抗い、彼の管制を拒んでいるのである。


「今じゃ……琉詩葉! この体ごと、やつに止めを刺せ!」

 地面にへたりこんで震えている琉詩葉の頭に響いてくる、懐かしい声。

 祖父獄閻斎の声だった。


「そんな! だめ出来ないよ! お祖父ちゃん」

 琉詩葉は、必死で祖父の声に抗議するが、


「いいんじゃ琉詩葉。どのみちわしは助からん。この体が、これ以上よそさまに迷惑をかける前に、いっそお前の手で……!」

 獄閻斎の声が、懇願するように琉詩葉の頭に響く。


「うぐぐぐぐ……わかった! お祖父ちゃん!」

 そう呻きながら立ち上がり、泣きぬれた貌を上げた琉詩葉の目には、だが決然たる悲壮な光があった。


「お祖父ちゃんごめん! ルシフェリック☆バースト!!!」

 引き裂かれるような琉詩葉の叫び。


 次の瞬間!


 びゅーーーーーーーーん!


 再びホタルから迸った緑の閃光が、粘菌斎の、獄閻斎の心臓を貫いた!


「いかん! 脱出!」

 だが間髪入れず粘菌斎が叫ぶ。

 怪忍者の本体、不気味な菌状腫をゆらした頭部のアミガサダケが、獄閻斎の肉体から跳びはねるなり、きのこ園に密生する無数のきのこたちの間へと、逃げ去っていくではないか。


 ごおお。光線に貫かれ、引き裂かれた獄閻斎の肉体が、真っ赤な炎を噴きあげた。


「イヤーーーー! お祖父ちゃあああああああん!!」

 琉詩葉の悲痛な叫びが月下のきのこ園のきのこ達を震わせていく。


「琉詩葉、これでいい、これでいいんじゃ……」

 紅蓮の炎にその身を包まれながら、だが獄閻斎は安らかな表情で目を瞑った。


「今、そっちに行くぞ。おまえ(・・・)……」

 獄閻斎が心の中でそう呟いた、だが、その時だ。


「凛くん……! ここで死ぬことは許さない!」

 老人の耳元で、まるで鈴を振る様な、何者かの澄んだ声!


「……お前は!」

 これは夢か幻か? 愕然として目を見開いた獄閻斎の、炎に覆われた視界の前を、ハタハタと、黒翅の蝶が一頭、二頭……


「そうじゃ……! 孫の為にも……まだ、死ねん!」

 カッと見開かれた老人の目の中には、紅蓮の劫火をも圧する決意の光。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前!」

 炎の中で、ガッキと胸の前で結ばれて行くのは九字の印契。


「え……!」

 泣きぬれた琉詩葉が辺りを見回す。様子がおかしい。

 きのこ園一帯を包んだ炎が、今一度獄閻斎の元に寄り集まっていくと。


 ごおお!

 

 老人の肉体が再び、凄まじい火柱を噴き上げた。

 だが、その燃え立つ紅蓮のなかに、動く影があった。


「冥条流焔術、『獄炎転生(ごくえんてんしょう)』!」

 火柱の中から、獄閻斎の力強い声。


「お祖父ちゃん? 生きている!?」

 琉詩葉の目が、驚きに見開かれた。

 驚くべきは冥条獄閻斎が秘奥の焔術よ。

 迫りくる死の間際に老人が呼んだ炎は、彼自身の肉体を焼き尽くしたのちに再構成し、ただ一度のみ、この世への復活を可能とするのである。

 

「究極奥義『獄炎転生(ごくえんてんしょう)』……。わしだけの力では、成せぬ(わざ)……」

 復活(リナーシタ)の炎に身を委ねた獄閻斎の胸中には、今を去ること五十年前、ある『少女』と交わした『契り』の、おぞましくも甘やかなる記憶が去来していた。


 そして……


 びょおお。

 

 おお。凝集した炎を割って、力強く立ち上がったのは、まぎれもなく琉詩葉の祖父、冥条獄閻斎。

 だがこれはいかなることか? まるで不死鳥(フェニーチェ)の如く炎の中から復活を果たした獄閻斎の姿は、もとの老人のそれではなかったのだ。


「はおおぉ…………!」

 月下のきのこに囲まれて、スックと立った獄閻斎の姿に、琉詩葉は感嘆の声を上げた。

 ホタルに撃たれた胸の創も、炎に包まれた火傷の跡も今や消え果てた、珠の様な肌に。カモシカのようにしなやかな、一糸も纏わぬ瑞々しい肢体に。

 見ろ。月の光に照らされて、夜風になびいた真っ赤な長髪は、まるで獅子(ライオン)(たてがみ)

 スッとのびた鼻筋。キリリと結ばれた口元。白皙の頬。コバルト・ブルーに輝いた瞳。

 立っていたのは、ちょうど琉詩葉と同じくらいの齢の、燃え立つ炎の様な紅髪をたなびかせた美貌の少年だったのである。


「どぎゃ~~~~!!!! お祖父ちゃん! かっこいいーーーーー!」

 炎の中から立ち現われた祖父の、青春の結晶のような美しい裸身を前にして、琉詩葉は胸がキュンキュンして目がハートになった。


「ハハハーー! 琉詩葉、完全復活じゃーー!」

 嬌声を上げる孫娘を向いて、少年の姿となった獄閻斎、

 本名を冥条莉凛(めいじょうりりん)が、そう言ってニカッと笑った。


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