ビルドファイターVSドラゴンVSトッキュウ
「獣機一体・神衣残月!!」
光の門から飛来した航宙支援戦闘機『ライザー』をその身に纏って、獣神将軍バルグルが中秋の月に雄叫びを上げた。
ぎゅいーーーん……
バルグルの背後に接続された戦闘機の推進機が唸りを上げ、両肩に装着された二基のタケノコが回転を始め、眩い緑の粒子を噴き上げた。
「行っっっっくぜーーー! 虫ケラどもーーー!」
蓬髪の壮漢はそう叫ぶと、次の瞬間、びゅんっ!
眩い粒子の軌跡を引いて、めるも軍団向かって、空を駆け、突撃した!
「どりゃー! コスモ・スウィーピング!」
ぶんっ! ぶんっ!
バルグルが軍団の渦中に飛び込むと、わけの分からない事を叫びながら柄の丈20メートルに達する巨大な虫とり網を振り回す。
「うぎゃぎゃぎゃぎゃー! ですの!(ToT)(ToT)(ToT)」
大混乱に陥る、めるも軍団。
見ろ、空中を漂う無数の虫翅の少女を攫って捕えて、みるみるうちに膨れ上がっていく月光帆で編まれた虫とり網。虫翅の少女軍団は半数にその数を減じた。
「よーし、頃合いかー?」
パンパンに膨れ上がった巨大虫取り網を一瞥するなりバルグルがそういうと。
ぽーん。虫取り網を空中に放り投げると、
「まとめて始末してやる! モード、アサルト・バスター!」
一本指で天を指して、そう叫ぶ。すると、
ぎゅん! 再び夜空に生じた光の召喚門から現われて、バルグル向かって飛んで来るのは、これまた彼の身の丈程の機械式の金色の鎧と、壮漢の二倍に及ぶ長大な砲身を有したビーム榴弾砲なのである。
がちょん。がちょん。
空中で体節ごとに分離した金色の鎧が、次々にバルグルの体に装着されていく。
がしゃーん!
ダメ押しに彼の右肩に合体したのは、バルグルの身長の二倍にもなる純白の、バスター砲。
「ターゲット、ロックオン! 当たれーーー!」
砲身を虫網にむけたバルグルが、間髪入れずにそう叫ぶと、
ぶびゅびゅびゅーーーーーーーーーーーーーーん!
バスター砲から発射された金色の光の奔流が、虫網に命中して、
「うぎゃぎょぎゃぎしゃきしゃぴちゅあ~~~~~! ですの!(ToT)(ToT)(ToT)」
虫網に攫われた何千万ものめるもたちを、網ごと吹き飛ばし、消滅させた!
「えーいい! 散れ! 散れ! ですの!ヽ(`Д´)ノ」
残されためるも軍団が、陣形を整えると、バルグルの周囲を円形にとりかこんで、各々が右手に携えた銀色の錫杖を構えるなり、
びーーーー! びーーーー!
錫杖の先端から発射されたビーム光線が一斉にバルグルに突き刺さった! かに見えたのだが、
「あいにくだったな! この鎧にビーム兵器は効かねえんだよ!」
不敵に笑ったバルグル。
「ふんぎょえあうあぎゃぎょぎゃどぎゃぐげぴちゅぎぎゃあ~~~~~! ですの!(ToT)(ToT)(ToT)」
金色の鎧に命中したビームは、その鏡のような表面に反射されはねかえり、逆に虫翅の少女軍団に突き刺さっていくではないか。
軍団は更に半数にその数を減じた。
「えーいい! かくなる上はー! ですの!ヽ(`Д´)ノ」
残されためるも軍団が、右手に携えた銀色の錫杖を一斉に振り上げた。
「あ……あれは!」
プルートウのタラップにしがみ付きながら、戦いを見守るしかなかったせつなが、何かを察して息を飲んだ。
「おっさん避けろーーー! あの技はやばい!」
空中のバルグル向かってそう叫ぶせつなだったが……!
「もう遅い! 粛清! グラヴィトン・ハンマー! ですの!(^o^)」
そう叫んでめるも軍団が、一斉に錫杖を振り下ろす。
すると、ぴかっ! 直径10メートルに達する円形の光の門が幾つも幾つもバルグルの頭上に生じると、
ずどん! ずどん! ずどん!
光の召喚門から降下した金色に輝く高圧エネルギー、めるも必殺の重力戦槌が、次々とバルグルに降り注ぐ!
だが、金色の鎧をまといバスター砲を背負った蓬髪の壮漢は、動じる様子なくこう叫んだのだ。
「エグザトランザム!」
と、次の瞬間、ぎゅいーーーん……
バルグルの両肩に装着された二基のタケノコから噴きあがっていた眩い緑の粒子が、いきなり真っ赤にその色を変じると、彼の体を深紅に染め上げていき……
すかっ! すかっ! すかっ!
「うそだろ!」
せつなは目を瞠った。
めるもの放った金色の重力戦槌が、バルグルの体をそのまま透過していき、
ずしーん! ずしーん! ずしーん!
地上に落下して、多摩の家々を、押しつぶしていくのだ。
「へへー! 間一髪、『量子化』成功……そろそろ、フィニッシュといくか!」
深紅の光に包まれたバルグルが、不敵に笑ってそう呟くと、
「モード、幻影!」
必殺技をスカされて、唖然とするめるも軍団を見回して、そう叫んだのだ。途端、
もわわーん……
光に包まれたバルグルの体が、徐々にゆらいで、かすれていくと、
おお見ろ。一人のバルグルが二人のバルグルに、三人四人に……五人……十人!
「分身の術!」
せつなは再び唖然とした。
三日前の忍者軍団との戦いでも目にすることのなかった、高等忍法を、まさかこの男が、しかも、空中で?
「フレイムユニット!」
十人に増えたバルグルが、互いの背を預けるように円陣を組むとそう叫んだ。
見ろ、見ろ。その十人がいつの間にか両手に携えているのは、長大な純白の砲身の先端から、真っ赤な炎の舌をチロチロと揺らめかせた、『火炎放射器』なのである。
「えーいい臆するなですの! 敵は一人! 残りはまやかし! ですの!ヽ(`Д´)ノ」
めるも軍団がそう叫んで、一斉にバルグルの円陣に突進する。白兵戦でカタをつけるつもりなのだ。だが……
「ファイヤーーーーー!」
十人のバルグルが一斉にそう叫んで、火炎放射器の炎から放射された十条の紅蓮の炎が、
「おぎゃごぎゃふげひぎゃぎゃどぎゃぐげぴちゅぎどっげええゃあ~~~~~! ですの!(ToT)(ToT)(ToT)」
360度全域から、襲い掛かるめるも軍団を、余すところなく、焼き払った!
「へっ! みたか虫けら!」
やがて全身を覆った深紅の光が薄れていき、十人が五人三人四人へとその姿を減じていくバルグルが、
「俺の分身の術は……全員本物! 質量を持った残像なんだよーーー!」
ついに一人の姿に戻ると、勝ち誇った顔でそう叫んで、雄たけびを上げた。
「め、めちゃくちゃだ……!」
プルートウのタラップにしがみ付いたせつなは、バルグルの破天荒な戦いぶりに呆れつつも、その強さにはただ感嘆するしかなかった。
「にしても、シラミ潰しはキリがねえな……!」
その大半を退治たとはいえ、いまだ多摩市の空の四方八方をブンブン飛び回っているめるもの残党を見回しながら、バルグルは、
「キルシエ! 手伝いな!」
プルートウの頭部にチョコンと腰かけた桃髪のキルシエを振り返り、そう叫んだ!
「あいよ! バルグル!」
キルシエが、待ってましたとばかりにそう答えてプルートウから立ち上がると、
「琉詩葉先輩、『これ』、預かっといて!」
「おわわ?」
「にゃにゃにゃ?」
肩に乗せた黒猫の焔をプルートウの角先の琉詩葉に押し付けると、
「サクラサケサクラサクトキサクラチルチルチルミチルトキミチル……」
胸の前に印を結んでなにやらおかしな呪文を唱え始めると……
「トキミチテ! 百華繚乱キルシエ花変化!」
桃髪を弾ませながら、空を仰いでそう叫ぶと、次の瞬間!
びゅうう……
キルシエの体が、白に薄桃に、散った。幾ひらもの、何万片もの桜の花びらに変じると、風に散らされ夜空を舞っていくのだ。
「クリスタル・ニードル!」
空全体にキルシエの声が響くと、
びつっ! びつっ! びつっ! びつっ!
「ぜんげきげぶぶげぶぎげざぎばすそんぜじぞぜざごぞぜざじぞじざぐぎぎゃばぜじぞぎぶぎげぼそぎゃええゃあ~~~~~! ですの!(ToT)(ToT)(ToT)」
これはいかなることか、辺りを飛び回るめるもの残党を、次々と、何かが貫いていく。
よくみれば、それは花びらだった、キラキラ光る水晶片に封じられて鋭い水晶針と化した花嵐が、めるもの頭上に容赦なく降り注ぎ、虫翅の少女たちを撃ちおとしていく!
「流石だぜーキルシエ! こーゆーチマチマした仕事させると、お前の右に出るヤツァいねーな!」
空中で満足そうにうなずくバルグルに、
「チマチマしてて悪かったね!」
キルシエの怒号が、空一面にこだました。
「二人とも、すげー! おっしゃー! あたしも行っちゃうよー!」
魔王衆二人の壮絶な戦いぶりに感化されたのか、プルートウの手綱を引きながら、琉詩葉が片手にアメジストの錫杖を構えた。
「久々の新必殺技!」
『召蠱大冥杖』を振って琉詩葉が空を仰ぐ。
「冥条流蠱術、ダーク・ル……」
琉詩葉がそう言いかけた、その時だった。
ごおお! 突如上空から降り注いだ真っ赤な炎が、プルートウの脇を掠めた。
「なんだ!」
唖然として空を見上げる琉詩葉とせつな。やってきたのは……
「我が名は『炎』! 我が名は『死』!」
そう叫びながらプルートウめがけて突進してくるのは、巨大な蝙蝠の様な翼をはばたかせ、その顎からは真っ赤な炎を漏らした、一匹の龍だったのだ!
「あいつ!」
琉詩葉は愕然として息を飲んだ。巨龍の姿に、見覚えがあったのだ。
せつなが学園にやってくるつい数日前に学園に襲来した暗黒邪龍、『棲舞愚』の姿なのである。
だがよく見れば、その姿には先日の戦いの時にはなかった異彩があった。暗緑色だったはずの翼や、鈍い赤金色だったはずの全身の鱗が、まるでメッキを蒸着したかの様な眩い金色に光り輝いているのである。
「こないだやっつけた龍! なんで生き返ってるのよ!」
わけがわからず困惑の声をあげる琉詩葉に、
「わからないけど……世界改編のドサクサに紛れて大月教授が蘇らせたのかも!」
花びらに変じたキルシエが琉詩葉の耳元で適当な憶測。そうこうしているうちに、
「小娘! この前はやってくれたな! 今日こそ捻りつぶしてくれる!」
上空の棲舞愚がそう叫びながら、プルートウめがけて突進してくるのである。
「くらえ! 邪殺哮紅蓮爆炎千年龍王覇!!」
金色の巨龍がわけのわからないことを吼え立てながらその大顎を開くと、
ごおおおおおおおおおっ!
龍の口内から、金色の稲妻が入り混じった真っ赤な火炎流が噴きだしてプルートウむかって一直線に迫ってくる。
「まずい! プルートウ・インファナル衝角!」
あわてて琉詩葉が、プルートウの手綱を引いてそう叫ぶと、
ぼしゅうう……
プルートウの角先に生じた金色の光の衝角が、劫火を二つに断ち割って、空中に散らしていく。
「へっ! 馬鹿の一つ覚えみたいに火ばっかり噴きやがって! きかねーっつーの!」
咄嗟に炎をしのぎながら眼前の棲舞愚に悪態をつく琉詩葉だったが……
ばりばりばりばり!
プルートウの角先に異変が起こった。
炎を切り裂くインファナル衝角が、炎に混じった金色の稲妻に侵食されていくと、みるみる……ひび割れて行くのだ!
「うそ! あいつ、パワーアップしてる!」
琉詩葉の顔に焦りの色。
「だめだ! 避けろ! プルートウ!」
手綱を引いてプルートウに号令する琉詩葉。
「ぐきゅきゅ……」
空中で旋回して、龍の炎の軌道から逃れようとするプルートウだったが……
「隙あり!」
眼前に飛来してきた棲舞愚がそう叫ぶなり、
バキン! プルートウの青銀色の鞘翅の片翅が、金属の軋む音と共に、空中にもがれて飛んだ。
プルートウとすれ違いざま、龍の薙いだ巨大な前足の鉤爪の一閃が、メカブトの片翅を、もぎとったのだ!
「ぐぎゃーーーーん!」
プルートウの苦悶の声が夜空にこだまし、
「うおあーーー」
飛んで行く鞘翅にかすめられたせつなの体が、タラップから引き剥がされて空中に投げ出される。
「まずいー! 墜落する!」
どうにかプルートウのバランスを取ろうと必死で手綱を繰る琉詩葉だったが、状況は更に切迫する。
「とどめだあ!」
錐揉み回転しながら地上に落下していくプルートウに、黄金の翼をはばたかせて追いすがる巨龍が、今、再びメカブトむかって炎を吐こうとしているのだ。
絶体絶命、だがその時だ。
「先輩、落ちついて!」
次の瞬間、琉詩葉の耳元でキルシエの声がそう囁くと、
びゅうう。
桜の花びらが、桃色の花嵐が墜ちゆくメカブトムシの背中に凝集して行き。
ざっ!
花嵐の中から立ち現われて琉詩葉の隣にいたのは桃髪のキルシエだった。
「バルグル! せつな先輩を助けなさい!」
空中でバスター砲を振り回しながらビーム砲を乱射して『めるも』を掃討していたバルグル向かってキルシエが凛然と叫んだ。
「なんでだよっ! 今いいとこなのに!」
空中から猛然と抗議するバルグルに、
「いいから! 早くしろ!」
有無を言わせぬ迫力でキルシエが怒号を上げる。
「ちっ! あのクソガキャー!」
バルグルがそう言いながらも、次の瞬間には、
びゅんっ
背中のライザーの推進機を加速させ地上めがけて墜ちて行くせつなに一直線に飛んで行くと、
「……たく! 足ばっかり引っ張りやがってガキが!」
バルグルが、忌々しげにせつなの体を掴みあげ、小脇に抱え上げたのだ。
「先輩! あの龍の相手は、私がします!」
キルシエが巨龍を一瞥してそう叫ぶと。
「だから先輩は『使徒』の操縦に集中して! このまま、悪魔城に突入するわ!」
「わ……わかった!」
琉詩葉が必死で手綱を引いてプルートウの体勢を立て直していく。
プルートウにスックと立ったキルシエ。
おお。いつの間にか彼女が左手に構えていたのは、まるで木の枝をそのまま折りとったような、薔薇の花飾りがついた、一張の弓だった。
きりきりきり……弦を引くキルシエ、と同時に、金色の光の矢が生じると、徐々にその光量を増していき、弓にあしらわれた薔薇の花飾りの蕾が、ポっと花開くと、次の瞬間!
「必殺必中! ライジングアロー!」
キルシエがそう叫ぶなり、
びゅん
弓を引き、光の矢が巨龍めがけて撃ち放たれた!
かっ
棲舞愚が再び放った炎を、金色の光の矢が切り裂いて行き、
ぐさり!
巨龍の喉元に狙いたがわず命中したのだ。
「ぐぎゃあーーーーーーん!!」
巨龍の断末魔の咆哮が夜空を引き裂き、次の瞬間には、
ぼちゅっ!
棲舞愚の頭部が、光の矢に引き裂かれた喉元から噴き出した己が紅蓮の炎に包まれて爆ぜた!
ごおおおおお……
頭部を失った邪龍の巨体が、その喉首から、胸部から、やがては全身から真っ赤な炎を噴き上げて、多摩市中に墜落して行く。
「ゆすらちゃん! すげーーー!」
キルシエを向いて感嘆の声を上げる琉詩葉に、
「ま、本気出せばこんなもんですから」
キルシエは二へっと笑うと、
「さあ先輩、バルグル、悪魔城につっこむわ!」
琉詩葉に、次いで空中のバルグルにそう言った。
「そうだな……虫ケラはあらかた片付けちまったし、このまま悪魔城につっこむぞ!」
せつなを小脇に抱えながら答えるバルグル。
「ううう……!」
いいとこ全く無しで、ショボーンなせつなだったが、だが、その時だ。
「発車シマース!」
そう、悪魔城の方から奇妙な号令が聞こえてきて、
テンテンテンテテテテテテン……♪ テンテンテンテン、テン、テン……♪
どこからともなく響いてくる『野ばら』のオルゴールの音色、そして、
ガコン
悪魔城の礎、触手を這わせた奇怪な黒い巨岩が中央から展開して、
うぃーん……
岩から、何かがせり出して来た。
「あれは……」
せつなは目を瞠った。
岩からせり出し、月光に照らされたなながらそそり立って行くのは、上り勾配にカーブを描いた軌道と、枕木。列車の線路なのである。
ガタン……ガタン
「今度はなんなんだ!」
苛立たしげなバルグル。
岩の中からその線路を伝って、奇岩の中から、何かが、走り出した。
しゅっぽ しゅっぽ しゅっぽ しゅっぽ しゅっぽ……
「うそだろ! あの機関車!?」
せつなは我が目を疑う。煙突から煙を噴きながら迫って来るその姿には覚えがあった。
警視庁鉄道警察隊の誇る装甲蒸気機関車『震電』である。
線路を伝って上り勾配を伝う震電。線路が途切れ、空中にその車体を乗り出しているというのに、落下する様子はなかった。
「あ!」
せつなは気づいた。線路は途切れていなかった。
カシャカシャカシャカシャ……
電車の行く手、その前方に、次々と新たな軌道と枕木が形成されていき、決して脱線することがないのである。
天駆ける特急と化した装甲蒸気機関車がガタンゴトンとその巨体を揺らしながら、バルグルとせつなの方に迫ってきたのである。
「ここから先は、行かせない!」
聞き覚えのある声が機関車から響いて来て、
「あ……!」
声の元を見遣ったせつなが驚きの声。
猛然と走りくる『震電』のデッキの上に立っていたのは、一人の少女だったのだ。
「メイア!」
大月教授とともに荊の中に消えた、ノイエタマ署のJC刑事、嵐堂メイアなのである。
「メイア……でもなんだ? あの格好!」
せつなは我が目を疑った。
メイアがその身に帯びているのは、『学園』に姿を現わした時のセーラー服でも、警視庁公安零課の警邏服でもなかった。
その頭に目深にかぶっているのは赤帯の駅帽。
その半身にピチッと纏ったのは、一体何故だ、帝都東京を横断する新京王線の制服。車掌服なのである。
可憐なJCミニスカ車掌のいでたちとなったメイアが、天駆ける装甲蒸気機関車を駆って今、せつなとバルグルの行く手に立ちふさがったのだ!
「魔王衆、『闇吹雪くメイア』! こんな形でお出迎えとはな!」
バルグルが怒号を上げる。
「撃てえ!」
メイアが手旗を振って凛たる一声。すると、
どおん! どおん!
蒸気機関車が背に負った列車砲から放たれた砲弾が、バルグルとせつなを襲う。
「メイアが攻撃を……まずい!」
プルートウの頭上のキルシエが蒼ざめる。
「『あいつ』を援護しなきゃ! 琉詩葉先輩、先に行ってて!」
びゅんっ! 再び桜に変じて、せつなとバルグルむかって、風に舞った。
「ちょっとーー! ゆすらちゃん!」
「にゃにゃにゃにゃーーー!」
プルートウに残された琉詩葉と焔。琉詩葉に手綱をとられたプルートウは、そのまま『悪魔城』の中庭めがけて落下して行った。
「やれ! アストロトレヰン!」
メイアが機関車に号令する。
「メイア! 待ってくれ! なんでこんなことを!」
しゅっぽ しゅっぽ しゅっぽ しゅっぽ しゅっぽ……
眼前に迫って来るメイアの特急に困惑の声をあげるせつな。
「すっこんでろクソガキ!」
バルグルが小脇のせつなを怒鳴りつけると、
「力比べだメイア! モード『タイタス』」
空中に形成された列車の軌道、迫りくる『震電』の正面に立ってそう叫ぶ。
がちゃがちゃがちゃがちゃ……
バルグルの金色の鎧が、彼の右手に凝集していき、まるでボクシングのグローブを数倍に膨らませたような巨大な手甲を形成すると……
「豪熱! グラビティナックル!」
がっきーん! 眼前にきたメイアの特急を、正面から殴りつけた!
「うおあ!」
『震電』メイアの悲鳴。
たまらず『震電』がそのバランスを崩すと、線路から脱線し、地上向かって墜落して行く。
「メイアーーー!」
線路の上からせつなが悲痛な叫び。だが、次の瞬間、
「アストロトレヰン、モードC! 戦乙女!」
空中の『震電』から、メイアの一声が響いた。すると、
「了解、あすとろとれゐん、もーどC! 戦乙女!」
蒸気機関車『震電』の中央制御電脳『アストロトレヰン』が、通信機ごしにメイアの指令を復誦した。
途端、
ぎがごごぎ
脱線した蒸気機関車が、奇怪な駆動音と共に、外部装甲板を展開させていく。
見ろ、その胴体の左右から飛び出したのは逞しい鉄腕。機体の後尾からはスラリとした二本脚。両肩に背負っているのは巨大な二基のロケットエンジン。その右手に携えているのは長大な列車砲。左手には純白の円形楯。メイアの指令を受けた『震電』が巨大蒸気機関車の態を解くと、まるで古代ローマの兵隊を思わせる、巨大な蒸気騎士へと変形したのだ。
「行け! アストロトレヰン戦乙女!」
蒸気騎士『震電』の右肩のデッキに立ったメイアが、左腕にはめられた腕時計型の通信機から、『震電』の中央制御電脳『アストロトレヰン』に命令した。
「こいつが、お前さんの『ロボ』か! やるじゃねえかメイア!」
戦乙女と対峙したバルグルが、何とも嬉しそうにそう言った。
#
ひゅーん……
片羽を失ったプルートウが空中奇岩城『悪魔城』の中庭に落下してくる。
ずずずずず……
どうにか胴体着陸に成功したプルートウの角先から、
「あーやっとついたー!」
「にゃにゃにゃー!」
黒猫の焔を肩にのせた琉詩葉が中庭に飛び降りる。
「ここは一体……」
辺りを見回す琉詩葉。
そこは奇怪な場所だった。秋の夜なのに、この一体だけはじっとりと蒸し暑く、そこかしこにケバケバしい色をした見たこともないきのこが密集しているのである。
「ん……」
琉詩葉は目の前の立て看板に気づく。
『アミガサきのこ園』
看板には、そう記されていた。




