突撃空中城塞
「琉詩葉、そこに転がってる、めがねレンチを取ってくれ。あと、この大きさの六角ナットを四つだ……」
「えーと……こいつと、こいつだね? はい、せっちゃん!」
がちゃがちゃがちゃがちゃ……
さっきまで、芝生や飛び石を赤黒く染めていたはずの夕日も、気がつけば釣瓶落とし。
すっかり暗くなった中庭、冥条屋敷のガレージ前で、せつなと琉詩葉は二人がかりで、『プルートウ』にかじりついていた。
魔王衆バルグルが地中から追い立てて、ここまで引きずってきた琉詩葉の使徒。この体長10メートルに達する巨大なメカブトムシの腹部に接続されているのは、琉詩葉がガレージの中から引っ張り出して来た、巨大なコンセントプラグだった。
「グキュキュキュキュ……」
邸内の電源から、パワーを『チャージ』中。満足げな鳴き声をあげるメカブトムシの横で、
「うーん、ココとココは、『接着』で、いいのか?」
せつなはせつなで頭に鉢巻き。ウンウン呻りながら見よう見まねでプルートウを『修理』中だった。
三日前の戦いで失われた、カブトムシの頭部のビーム砲や、折れてしまった虫脚。その欠損部分を、琉詩葉の祖父、獄閻斎がガレージに保管していた『予備パーツ』からピックアップして、どうにかプルートウにくっつけようと、エポキシ樹脂とレンチ片手に奮戦中なのである。
それにしても、この『プルートウ』……。せつなは、妙な気分になってきた。
生身のカブトムシに機械の部品を接続してパワーアップさせるという、信じられないようなハイパーテクノロジーの産物のはずなのに、関節や、各体節を覆う金属部品の接続は、全てボルトとナットによる「ネジ止め」。予備パーツも関節単位で準備されたブロックビルドアップ方式で、パーツの選定も簡単だった。折れてしまった部品の修復は、どうやらエポキシ樹脂による接着で済んでしまうらしく、機械いじりは素人のせつなでも、「見た感じ」と「勘」で、どうにか修理出来てしまうのだ。
「一体、どうやって動いてるんだよ? こいつ……」
この巨大な機械使徒を作り上げた琉詩葉の祖父、冥条獄閻斎の底知れぬ技術力と、他ユーザーによる保守性までをも完璧に考慮した親切極まる設計思想に、せつなは舌を巻くと同時に、自分がわけのわからない兵器を適当に組み立てる事が出来てしまうという事実に、なんだか空恐ろしい気分になってきた。
「んーー。だいぶ出来上がってきたね。せっちゃん、ごくろーさまである! さ、ちょっと休憩しよ!」
感嘆の面持ちでプルートウを眺めまわすせつなの背中から、そう琉詩葉の声が聞こえてきて振り向けば、草形に持った塗り盆の上に彼女が用意していたのは、中華饅頭くらいもある大ぶりの豆大福が二つに湯のみと急須。屋敷の本邸から茶菓子を運んできたらしい。
「ああ、そうだな。休憩すっか琉詩葉!」
メカブトの後脚のネジを締め終えてひと息ついたせつなは、そう答えて盆の上の手拭を手に取った。
#
「ウゴッ! 餅が喉にー!」
「あーもー、慌てて食べるからだよせっちゃん。はい、お茶お茶……」
大福を無我夢中で頬張って餅を喉に詰まらせるせつなに、琉詩葉が茶をすすめる。
そういえばせつなが食事をとったのは学園の購買のカツサンドが最後だったから、もう三日間何も食べていなかったことになる。
それを思いだすなり猛烈に腹が空いてきて、せつなは物凄い勢いで大ぶりの豆大福にかぶりつき、茶で流し込んだ。
ガレージの中から持ち出したスツールに腰掛けて、大福を食べ終えたせつなと琉詩葉は、湯のみでほうじ茶を啜りながら、ひと時休憩を取った。
中庭に灯った灯篭のボンヤリした橙の光が二人を照らし、秋の夜の草叢からはリーリーと、マツムシやコオロギやマダラスズ達のたてる虫の音が、せつなと琉詩葉を包んでいた。
「なあ、琉詩葉……」
せつなは、ふと力無い表情で夜空を見上げて琉詩葉に言った。
「お前さ、『外の世界』の事って、覚えてる?」
「外の世界?」
キョトンとしてそう訊き返す琉詩葉に、
「ああ、コータや、エナや、他のみんなと『ここ』に……『学園』に来る前のことだよ」
せつなは答えた。
「琉詩葉。俺さ、ついこの間まで、この世界や自分の仕事のこと、こんなに考えた事なかったんだ……。この街には悪党や危険な怪物どもがたくさんいて、そいつらから罪の無い人達を守るのが、俺の『探偵』としての仕事。俺は強い。俺は街の顔役。俺は有能な探偵……ずっと、そう信じて来たんだ」
不安そうに空を仰ぎながらせつなは続けた。
「でも、この事件の捜査で『学園』までやって来て、お前や、コータや、エナと会って、なんだかわけがわからなくなってきた……。あいつが、キルシエが言ってただろ? この『世界』は、エナの願いから生み出されて、外から隔離された、エナやその周りのヤツが望むように姿を変える世界だって……。じゃあ、その前まで、俺は一体、何処で、何をしていたんだろう……? そう考え始めたら、今の、俺の探偵っていう仕事も、なんだか、嘘っぽくて、いいかげんなものに思えてきてさ……」
そう言って、肩を落とすせつなに、
「んー。あたしもさ、よくわかんね……」
琉詩葉は少し困った顔で、あっさりそう答えた。
「たしかに、昔のこととか、ボンヤリとしか覚えてないし。もうずっと、この屋敷でお祖父ちゃんと二人で住んでた気がするし、せっちゃんや、コーちゃんや、エナちゃん達とも、ずっと学園で一緒にいる気がするな……。でもさ、それって、そんなに悪い事なのかな?」
琉詩葉は首を傾げてせつなを向いた。
「たしかにお祖父ちゃんの『学園』は変な仕掛けが多いし、毎週よくわからない怪人とか怪獣が襲ってくるけど、でもいいじゃん。あたしらの『術』で、そいつらをやっつければ、学園も、街も平和になるんだもん!」
琉詩葉は屈託のない笑顔に戻ってせつなにそう続けた。
「せっちゃんだってさ、さっき自分で言ってたじゃん。俺は『正義の味方』だって!」
琉詩葉はそう言って、片肘で意地悪くせつなをつついた。
「ちょっ……! あれは、その場の勢いだから!」
顔を真っ赤にして弁解するせつなに、
「ううん。案外、当たってるのかもしれないよ?」
琉詩葉は真顔に戻って、せつなを見た。
「あたしも、せっちゃんの事情はよく知らないけどさ、せっちゃんがここに来たのって、それが理由なんじゃない?」
せつなの右目をまじまじと覗きこんで、そう言う琉詩葉に、
「うーん……そういうもんなのかなあ……」
せつなは腕組みして考え込んだ。
「そうだよ。周りが何を言ったって、せっちゃんはせっちゃんだし、あたしはあたし!」
力強く頷く琉詩葉。
「あたしが戦う理由だって、せっちゃんと一緒だよ。エナちゃんとコーちゃんを助け出して、また、いつも通り、学園で一緒にやってくの。それに、あのお城に行けば、お祖父ちゃんの行方も分かるかもしれないし……」
琉詩葉の明るい声の中に、僅かに不安な響きが混じっている。
「琉詩葉……」
せつなは少し驚いて、改めて琉詩葉の顔を見返した。
彼女の祖父、獄閻斎も三日前の混乱で行方がわからないのだ。
琉詩葉も明るく振る舞っているが、ただ一人の肉親の安否がわからないままで、ずっと不安に耐えていたんだな……。
「琉詩葉、大丈夫だよ。お前の祖父ちゃんだって、きっと無事さ。あの理事長のことだから、案外一足先に悪魔城に忍び込んでるかもしれないだろ? 一緒に迎えに行こうぜ!」
せつなは琉詩葉の手を取って、精一杯に声を張って彼女にそう言った。
「うん。ありがとうせっちゃん。せっちゃんの彼女も、きっと無事だよ。一緒に迎えに行こうね!」
「な……! 『彼女』!?」
琉詩葉の口から飛び出した思いもよらない言葉に、うろたえるせつな。
「うん。スペースシャトルのあの娘、せっちゃんの彼女なんでしょ?」
琉詩葉は不思議そうにせつなを見た。
「せっちゃん、眠ってる間、ずっとうわごとで繰り返してたもん。『メイ』……『メイ』……って……」
メイ……メイ……ってまさか、『メイア』の事か?
せつなは、彼と大月教授を追って学園にやってきたJC刑事、嵐堂メイアの事を思い出した。
「メイア……!」
せつなは愕然として口を覆った。
なぜ、今のいままで、あいつのことを忘れていたのだ?
三日前の混乱の最中、せつなを助けて、大月教授を追って、荊の中に姿を消したあの女。メイアの事を!
せつなはメイアの貌を思い出す。切れ長の目、いつも口の片端をつり上げてせつなを冷たく見下ろすあの表情。
だが……
「メイア……!」
繰り返すせつな。あれほどしつこくて、鬱陶しくて、嫌いだったはずの刑事なのに、いざ行方がわからなくなると、なんだかポッカリと胸に穴があいたような、痛いような、引きちぎられるような気持ちになってくるのだ。
「うううう……」
せつなは左胸を押さえて苦しげに呻く。
「ちょっ……? 大丈夫だって、せっちゃん! あの娘だって、絶対無事だから! 元気出しなって!」
琉詩葉は慌ててせつなの肩を叩く。
「そうだ、せっちゃん、ちょっと来て! 『いいもの』があるんだ!」
苦しそうなせつなを励ますように琉詩葉はそう言うと、スツールから立ちあがってせつなの手を引いた。
#
「あったあった。これこれ!」
屋敷のガレージの奥に引っ込んで、ガサゴソと何かを物色していた琉詩葉が、ようやく目当ての物を見つけたのか、入り口で手持無沙汰なせつなの方に歩いてきた。
「ほれ、せっちゃんにこれ、貸してあげる!」
そう言って琉詩葉がせつなにさし出したのは、一振りの、日本刀だった。
「妖刀『関ノ孫六兼元』。冥条家に代々伝わる最上大業物。お祖父ちゃんが試し斬りしてるの見た事あるけど、凄いよ! お地蔵様でも小豆でも、何でも斬れるんだ!」
なんでそんなものが、ガレージの奥に無造作に転がっているのか。あきれ顔のせつなに、
「ほら、せっちゃんて、接近戦になると殴るしか能がないじゃん! 得物は持ってたほうがいいって絶対!」
琉詩葉が失礼な事を言いながら、彼に日本刀を押し付けた。
「ああ……。ありがとな琉詩葉、借りとくぜ!」
物言いは気にくわなかったが、琉詩葉の好意は嬉しかったし無碍には出来ない。
せつなは琉詩葉から『関ノ孫六兼元』を受け取ると、下緒に肩を通して刀を自分の背に負った。
「琉詩葉……いろいろありがとな。さ! プルートウの修理に戻ろうぜ」
「うん、せっちゃん。あと少しだ!」
せつなと琉詩葉がガレージから出て、プルートウの修理に戻ろうとした、だがその時だ。
ぶわああああああああああああああん……
突如空の上から何か、地鳴りのような、車のエンジン音の様な、不気味な唸りが響いて来て、中庭を白く照らしていた月の光が陰った。
「あ、あれは一体!」
夜空を見上げたせつなと琉詩葉は、一様に驚きの声を上げた。
唸りの源、中秋の月を灰色に濁して空を覆っているのは、巨大な、雲塊だった。
空中に浮んだ奇岩城『悪魔城』の、その奇岩の狭間から、なにか黒い煙のようなものが止めどなく噴き上がって、空全体を覆っていくのだ。
「あ!」
せつなは再び愕然とした。雲が、『降りて』来る。
空を覆った黒雲が、『こっち』の方に、冥条屋敷の中庭めがけて、渦を巻きながら、なだれんでくるのだ!
「目標を発見! 削除ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」
「なんてことだ……」
空から聞こえてくる無数の鬨の声に、せつなは呆れ果てて二の句がつなげなかった。
一見雲と見えたのは、大月教授の悪魔城から出陣した無数の虫翅の少女で構成された大軍団。
悪魔城の城内で、いつのまにか何千万匹にも増殖をとげていた、変わり果てた姿の、せつなのiPhone。
萌えメール『めるも』の大軍団が、冥条屋敷のせつなと琉詩葉めがけて、一斉に襲いかかってきたのだ。
#
「あの数! せっちゃん、どうしよう……!」
怯えた声の琉詩葉。
「うぐぐぐ……!」
せつなも成す術が思い浮かばない。
刻一刻と二人の元に迫ってくる、めるも軍団に……!
「まさか! 敵の方から攻めて来るとは!」
背中から声が聞こえてせつなが振り向くと、立っていたのは、いつのまにか屋敷を飛び出して来た桃髪のキルシエだった。
「あの数! キルシエ、どうしよう……!」
せつなはすがる様な目でキルシエを見た。
「琉詩葉先輩、『使徒』の充電と修理はできてますよね?」
プルートウを横目に琉詩葉にそう言ったキルシエに、
「う、うんうん! だいたい、九割方!」
琉詩葉は首をブンブン縦に振り答える。
「ならば緊急出動! 先輩、プルートウを使って、このまま悪魔城に攻め入るわよ!」
キルシエが頭上の悪魔城を指差し力強く叫んだ。
「しゃーない! わかった! せっちゃんも乗って!」
腹をくくった琉詩葉が、プルートウの角先に飛び乗ると、せつなに向ってそう叫ぶ。
「でーい! もうヤケクソじゃー!」
せつなもプルートウによじ登るとメカブトの脇腹のタラップにしがみ付く。
「先輩、私も一緒に!」
「にゃにゃにゃにゃにゃーー!」
次いで桃髪を揺らしたキルシエと彼女の肩にしがみついた黒猫の焔が、プルートウの頭部にちょこんと腰かける。
「よっしゃ! プルートウ、発進!」
角先の琉詩葉が、アメジストの錫杖『召蠱大冥杖』を振りながら、プルートウの手綱を引いた。
次の瞬間。
「ぐもーーーーーーーーん!」
メカブトムシの雄叫びが辺りを震わせ、
パカン。
青銀の金属装甲に覆われた巨大な鞘翅が大きく跳ね上がり。
ぶずずずずずずz……
虫翅の羽ばたく音が空を切り、
びゅん!
そのボディの各所に配置された推進装置から生じたジェット噴射。
琉詩葉とせつな、キルシエと焔を乗せたプルートウは、一瞬で夜空に舞い上がった。
#
「琉詩葉先輩! 臆せず突進よ! 勝機は我らにあり!」
メカブトの頭上から、キルシエが角先の琉詩葉を煽りたてる。
「そんなこといったって、あいつらのあの数! ゆすらちゃん、一体どうするのさー!?」
背後のゆすらを振り返って不安そうにそう言う琉詩葉。
「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」「ですの!(^o^)」
白銀の錫杖から緑色の火花をパチパチはじかせた『めるも軍団』の雲霞が、プルートウの眼前に迫ってくる。
「えーい……、イチかバチか……!」
覚悟を決めた琉詩葉が、プルートウの手綱を引く。
ぱかん。
プルートウの角先が展開すると、必殺の光子ビーム砲『インファナル鉄槌』の砲門がその姿を現わした。
びゅびゅびゅびゅびゅ……
金色の光を増してゆく砲門。発射エネルギーを蓄えて行く琉詩葉のプルートウ。
だが、その時。
「やったぞ! 喧嘩だーーーー!」
琉詩葉の頭上から野太い声が降ってきて、
スタン!
ビーム砲の砲門のまさにその上に降り立ったのは、真っ黒なロングコートに身を包んだ、蓬髪の壮漢。
いつのまにかプルートウの上空から姿を現わした、バルグルだった。
「バルグル! 遅いわよ!」
キルシエの叱責に、
「わりーわりーキルシエ! 『こいつ』を作るのにちょっと時間がかかってさ!」
獣のような獰猛な顔をニタリと歪ませてバルグルが答える。
彼がそう言って手に取っているのは、
「あ!」
琉詩葉が驚きの声。『そいつ』の材質に、見覚えがあったのだ。
バルグルが右手に構えていたのは、三日前に目にした『魔王衆』の戦艦、宇宙帆船『オーディーン』の折れた船首檣だった。
彼の身の丈の10倍ほどもある長大な船首檣の棒先に繋がれているのは、直径10メートルに達する円形鉄骨であり、その鉄円を覆う様にして袋状に編み上げられていたのは千切れたはずの『オーディーン』の月光帆。
その様は、まるで、巨大な『虫とり網』だった。
「琉詩葉、キルシエ、おめーらの武器は出る幕なしだぜ。まずはこの俺が、露払い&フィニッシュ! だぜーーー!」
巨大虫とり網を肩にかついで、バルグルが不敵に笑った。
「ななな……」
『虫とり網』! 凄いんだか単純なんだかよく分からない発想に愕然としてタラップに張り付いたせつなに、
「なんだ、結局ついてきたのか、ガキンチョ!」
彼を振り向き、バルグルがニタリ。
「ならば、その目によーく刻みつけておきな……! 宇宙レベルの戦いってヤツをよぉ!」
蓬髪の壮漢はそう叫ぶと、一本指で夜空を指した。
「来い! 『ライザー』!!!!!!!!」
すると、ズドン!
バルグルが指差した先に生じた金色の円環。
光の召喚門から、夜風を切って、『何か』が飛んで来る。
「あれは、飛行機!?」
せつなは目を見張った。
光の門からバルグルめがけて飛んで来るのは、丁度人の背丈くらいの、小さな、純白の戦闘機なのだ!
「ドッキングセンサー!」
次いでバルグルが叫んだ。
すると、ピピピピピ―
バルグルの眼帯から発射された緑色の誘導光に誘われるように『ライザ―』がバルグルに接近すると、
がちょん。
バルグルの背中に、小形の戦闘機が、合体したのだ!
その翼部は巨大なバインダーと化してバルグルの両肩を覆い、彼の全身を、緑色の光の奔流が覆っていく!
「マジかよ……!」
せつなは呆れて、開いた口が塞がらなかった。
「さあ、出動だ!」
驚くべきMSおやじと化した蓬髪の壮漢が、巨大な虫とり網を担いて夜空に雄叫びを上げた。




