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刹那、らんだまいず!  作者: めらめら
第6章 風雲悪魔城
22/36

新世界より

「エナ先輩によって解き放たれた『指輪』の『(パワー)』、燃え上がる『冥界の炎』は、瞬く間に地球全土を覆って、この地に新たな『(ことわり)』をもたらしました」

 琉詩葉の自宅、冥条屋敷の大広間。

 キルシエが桃色の髪をゆらしながら、扇子で畳をパシパシと叩いては琉詩葉とせつなに話を続けていた。


「エナ先輩に遅れる事三日。ようやくこの地に辿りついた私たち『魔王衆』のメンバーと、銀河警備機構『ギャラクシエ・クロイツ』の隊員達は、あまりの惨状に戦慄したわ。止まることを知らない『冥界の炎』の力は、この地球のみならず、宇宙全域とあらゆる並行世界までをも飲み込んで、全て世界の『(ことわり)』を変えようとしていたから……。このままでは私たちのいる世界までが、エナ先輩の妄執に、『冥界の炎』に飲まれてしまう……。それで、私たちはある『作戦』にでたの!」


「作戦って……?」

 訝しげにそう訊くせつなに、


「エナ先輩が愚行をなした『この世界』だけを切り捨てて、他世界への干渉が一切出来ない、一つ所に『封印』したのです……」

 キルシエが苦々しい顔でそう答えた。


「封印?」

 せつなは、思わず布団から身をのりだした。


「そう、かつての大戦で、敵軍の最終兵器『影の世界』の『ジェノサイド・ライガー』を捕縛すべく、私たち『冥府門業滅十魔王めいふもんごうめつじゅうまおう』が力を合わせ、それぞれが持つ『能力』の限りを尽くして創り上げた、とある秘術の『閉鎖世界(クローズドワールド)』があったの!」

 キルシエが少し得意気にそう言った。


「未確認非確定虚数領域『シュラウド』のそのまた彼方。『啓示空間リベレーション・スペース』の深奥の深奥、極大茶筒世界『虚無回廊スーパー・ストラクチュア』から迸る果てしなき時空潮流のさらなる最果て。如何なる条理をも超越した『冥界の炎』の『力』さえ、絶対に他世界に干渉することのできない『閉鎖世界』に、エナ先輩と、彼女を取り巻くこの世界を封印したのです!」


「ちょっと待ってくれキルシエ! 『封印』した『この世界』ってゆうのは、今、俺達がいるこの世界ってことか?」

 唖然として目を丸くするせつな。


「ええ、そうよ」

 キルシエがサラリと答えた。


「閉鎖空間に封印されたことで、この世界は更なる変貌をとげたわ。エナ先輩が『力』を発動する前に住んでいた、東京都多摩市を中心にした近隣の市区町村、休日にお買い物に出かける新宿区、渋谷区、中央区内の一部地域、父方の実家で小学校に上がるまで住んでいた埼玉県熊谷市、および同市を中心にした埼玉県北部地域と此処から実家に至るまで乗って行く京王線、JR線の沿線地域。まあこの辺の記憶を元に、本やマンガから吸収した世界認識、エナ先輩自身と、コータ先輩を中心にした周りのお友達の願望や妄想や戯言が適当(テキトー)に組み合わされて再構成、隔離されたのが私達のいる『この世界』、『意味なし世界ブリューツィン・ヴェルト』なのよ! まあ、そんな無茶苦茶な世界でも……」

 一気にまくしたてた後、キルシエが少し複雑な表情をした。


「エナ先輩は満足だったんでしょうね。コータ先輩が一緒なら……『力』を使ったせいで『この世界』に封じられた事を悟ったエナ先輩は、自身の秘術を用いて強烈な自己暗示をかけ、自らの『魔王衆』としての記憶を封印した。『ただの中学生』として、コータ先輩とこの世界で生きて行くことに決めたの……永遠にね……」


「『永遠に』って、どういうことよ? ゆすらちゃん!」

 またもやキルシエの口からギョッとするような言葉が飛び出して、琉詩葉も仰天してキルシエにそう訊くと、


「少なくとも、エナ先輩はそのつもりみたいですよ。琉詩葉先輩……」

 キルシエが、唇の片端を上げてゾッとするような凄惨な笑みを浮かべた。


「コータ先輩も、琉詩葉先輩も、もうかれこれ百サイクル以上もの年月、エナ先輩と一緒にこの世界で言うところの新西暦2014年の年初から年末までを、を繰り返し生き続けているんですよ。『力』が発動した時、たまたまエナ先輩の周囲にいたおよそ十五万人の人間と一緒にね。まあもっとも……」

 愕然として言葉も出てこない琉詩葉とせつなを横目に、キルシエが続ける。


「私達、『魔王衆』にとっては、その方が好都合だったわ。『力』を持ったエナ先輩が、不完全ながらも、ある程度安定した世界を形成して、永遠にその内部に引きこもっていてくれるなら、少なくともかつての盟友だった先輩の存在を消去する必要はなくなるし、それに……存分に『観察』し、『研究』することができるわ。エナ先輩から、『冥界の炎の力』を、引き剥がす方法をね……」


「『観察』、『研究』……!」

 オウム返しのせつなと琉詩葉。


「ええ琉詩葉先輩。まだ思いだせないの? そもそも琉詩葉先輩が『学園』に居るのは、エナ先輩を観察し、力を奪い去るための『探索者』として、『この世界』に潜入してきたからなんですよ? 『閉鎖世界』にアクセスできるのは、『ギャラクシエ・クロイツ』の中でも、私達『冥府門業滅十魔王』だけなのだから」

 キルシエが少し呆れた顔で琉詩葉にそう言った。


「うーーー! そうなのかー? そうだったのかーー!?」

 まだ納得いかずに頭を抱える琉詩葉。


「そう先輩! 『それ』が、計算外の事態。私達魔王衆も予測できない事象だった」

 キルシエが琉詩葉指差し叫んだ。


「まず、『調査』のために『意味なし世界ブリューツィン・ヴェルト』に潜行した大月教授(おおつききょうじゅ)と琉詩葉先輩から、何サイクルものあいだ外界から連絡がつかなくなってしまったの。次いで先輩の行方を追ってこの世界に潜行した他の魔王達、天照(あまて)らすルクス、破界拳(はかいけん)シャルル、闇吹雪(やみふぶ)鳴亜(メイア)宇宙忍者(うちゅうにんじゃ)(ほむら)吸血姫裂花(きゅうけつきれっか)の消息も、次々に途絶えていった……」

 キルシエが眉を寄せて琉詩葉にそう言った。


「うーん……! 『ルクス』に『シャルル』……!?」

 連呼される魔王衆の名前に、琉詩葉がさらに納得いかない様子で首を傾げる。


「何か思い出しました? 先輩!」

 期待をこめて琉詩葉にそう訊くキルシエに、


「……いや、気のせいだよね? 何でもない。続けてゆすらちゃん」

 琉詩葉が首を振ってキルシエに言った。


「先輩。もう外界に残された魔王衆は二人だけになったわ、この私、見霽(みはる)かすキルシエと、あのバカ(・・)獣神将(じゅうしんしょう)バルグル……!」

 ことさら『バカ』を強調しながら、キルシエが忌々しげな顔で話し続けた。


「『意味なし世界ブリューツィン・ヴェルト』の内部で『何か』が起こっている……! でも、この世界の様子は外部からは観察できないの。事態の異常さに気付いた私達二人は、虎の子の宇宙戦艦『光子帆船オーディーン』まで投入して、決死の覚悟でここまで潜行してきたの。それが三日前のことだった。でも、そこで起こっていたのは、信じられないような異常事態だった!」

 キルシエが、再び興奮して息を荒げた。


「学園に潜入してエナ先輩を観察していた私は、目を疑ったわ。琉詩葉先輩も、メイアちゃんも、焔ちゃんも、魔王衆としての記憶を失って敵味方に分かれて、戦い合っていたんだもの。それも、エナ先輩が無意識のうちに封じていた『冥界の炎』の力を再び解き放つために!」


「……そういうことだったのか」

 布団の上でキルシエの話を聞いていたせつなの目が、驚きに見開かれた。

 そうだ、全ては、エナの力を外部に放つための、茶番だったのだ。


「でも誰が! なんでそんな事を!」

 そう訊く琉詩葉に、


「黒幕はあの男……『大月教授』よ!」

 キルシエが確信に満ちた顔で答える。


「『ギャラクシエ・クロイツ』と『魔王衆』に身をおきながら、あいつの腹の内には宇宙を支配する『力』への欲望が、『冥界の炎』を己が手に収めようとする野望がグルングルンに渦巻いていたに違いないわ。だからヤツは、自ら『この世界』への第一潜行隊として志願した。琉詩葉先輩と一緒にこの世界にやってきたヤツは、まず琉詩葉先輩を狙った。自分の秘術か何かで、先輩の魔王衆としての記憶を封じたのよ! 先輩の記憶がいつまでたっても戻らないのも、そのためなのかも……」

 キルシエが怒りに燃える眼でそう言った。


「次にヤツは、この世界の中でも最も不安定で瘴気の強い『かの地』熊谷に身を潜めると、この世界の不安定性を利用して少しずつ世界のシステムを改変して行った。自分以外でこの世界に潜行してきた『異分子』、すなわち他の魔王たちの記憶を改変し、この世界の一部としての自己認識を植え付けるよう、セキュリティシステムを強化してしまったのよ! 大月教授は魔王衆の中でも最高の知性を持ち、『天才悪魔』『怪物頭脳』の異名をとる男。数サイクルの猶予があれば、それも容易だったでしょう!」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 再びヒートアップするキルシエをせつなが制した。


「この世界に潜行してきた魔王は記憶を失うんだろ? お前はどうして、自分の事と『外の世界』の事を覚えているんだよ? それに……!」

 せつなはずっと胸に秘めていた疑念をキルシエにぶつけた。


『あいつ』は……? 夕霞裂花ゆうがすみれっかはどうだったんだ? あいつはなにか、俺や琉詩葉とは『別のこと』を知っているみたいだった……?」

 緑の炎に包まれ燃え落ちて行く美貌の少女の姿を思い返しながら、せつなは我知らず震えながらキルシエにそう訊いた。


「ああ、裂花(・・)ですか?」

 キルシエが、心底どうでもいい様子でせつなに言った。

 呼び捨て? ちょっと驚いてキルシエの顔を見るせつなに、


あの女(・・・)は大月教授とグルだったのよ。多分教授も、あの女だけ(・・)には記憶を戻して、一緒に『力』を手に入れようとそそのかしたに決ってるわ! 男はみんな、あいつを『ひいき』にするしね。それに、あのクソビッチにこんな周到な計画を用意する頭があるわけないもの。まあもっとも……」

 キルシエが吐き捨てるように続けた。


「教授にそそのかされた挙句に、エナ先輩から『力』を吸い取ろうとしたみたいだけど、結局うまくいかずに死んじゃったみたいね。自業自得よ!」

 クソビッチ……! 自業自得!

 キルシエの言葉にせつなは再びギョッとした。

 キルシエは、さも清々としたという表情なのだ。

 

 裂花、魔王衆の中でも、相当に嫌われていたみたいだ。

 せつなは、哀れに燃え去った少女の事を思って、少しいたたまれない気持ちになった。


「それにしても、焔ちゃん……千代続いた天才宇宙忍者の家系に生まれた魔王衆のくせに、あんなアホな女にいいように利用されて、おまけにこんな姿に……」

 キルシエが、少し意地悪な様子で、自分の膝の上でゴロゴロしている黒猫をつまみあげた。


「まったく、なさけないわねー、むらむら(・・・・)!」

 キルシエはいかにもうれしそうな顔で、つまみ上げた焔を指先でナデナデしながらそう言った。


「にゃ……! にょにょにょににゃにゃにゃにゃにぇにょ~~!」

 黒猫の焔が、彼女に抗議するように前足をジタバタさせて、キルシエに鳴きたてる。


「まあまあ、大丈夫よ! 焔ちゃん。あのクソビッチも死んだし、今度のミッションが成功すれば、元に戻る方法が見つかるかもだわ!」

 本当に無責任な感じで、焔にそう笑いかけるキルシエ。

 

「今度の……『ミッション』?」

 せつなは首を傾げてキルシエに訊ねた。


「ええ、せつな先輩。私とバルグルが魔王衆としての記憶を失っていないのは、私達が来た時には、この世界のシステムが、更に大きく変わったから。それに、もう大月教授には、そんな細工をする必要はないからよ!」

 キルシエが、おもむろに座布団から立ちあがると、広間の襖めがけて、ツカツカと歩いて行く。


「せつな先輩、見て! これが『冥界の炎』が解き放たれた世界! 炎の『力』を奪った大月教授がデザインした、『新たなる世界』!」

 襖をガラリと開け放し、キルシエが悲痛な表情でせつなにそう言った。


「あ()つつつ……!」

 せつなは布団から立ちあがると、『めるも』に全身を突き刺されてまだ節々が痛む身体を引きずって、開け放された襖の向こう、冥条屋敷の縁側まで歩いて行った。

「せっちゃん、大丈夫?」

 琉詩葉が、せつなに肩を貸す。


「こ……これは……!!!」

 縁側を下り庭に立ったせつなは、驚愕の声を上げた。

 小高い丘の上に立つ大邸宅、冥条屋敷の庭園からは、多摩市の街並みや聖痕十文字学園の様子が一望できるのだ。

 せつなの眼前に広がっていたのは……?


 三日前に学園が立っていた場所は、いまや見る影もない異境の光景だった。

 昼間でもはっきりとわかる、緑色の光を漏らした無数の棘の束が、ウネウネとのたうちながら、天に向かって生え茂っている。

 そして、


「なんだよアレ……」

 せつなは全身からヘナヘナと力が抜けて来た。

 棘が伸びゆく先、ちょうど三日前にあった学園の上空にあたる場所にあったのは、巨大な、空に浮ぶ、岩の塊だった。


「あの絵に似てる……! 『ピレネーの城』!」

 勉強は嫌いでも、美術の教科書を眺めまわすのだけは好きだったせつなには、その光景はシュルレアリスムの画家の描いた、空に浮かぶ巨大な岩の絵を連想させた。

 だが、岩塊の上に建っているのは、せつなが思い浮かべた絵などよりも、さらに奇妙でケバケバしい姿だった。

 城には違いなかった。おそらくは、ドイツ、バイエルン地方の名城ノイシュヴァンシュタイン城をモデルにしたと思しいその城は、元のデザインよりもさらにゴテゴテとものものしい別館や尖塔などが増築され、もっとあからさまに言えば、有名な某泥棒アニメの舞台になる伯爵様のお城のような姿だった。

 だがそれらの城とは決定的に違うのが色だった。白亜のはずだった城壁はショッキングなピンク色。屋根や尖塔はスミレ色で塗りあげられて、尖塔の各所に配された煌々としたネオンとスポットライトが、城全体を七色に染め上げている。

 心を病んだバイエルンの王様が、国庫が尽きるまで贅をつくしてラブホテルを建立したらこうなるのではないかと思わせるような、まさしく異容であった。

 さらにおぞましいのが、空中浮んだ岩塊の各所から生えた、何か、蠢くモノだった。

 テラテラとした飴色の、幾本もの粘つく触手のようなものが岩から生えて、地上から伸びる棘を遮る様にしてウネウネと空中を這いまわっていて、そのうちの幾本かは、多摩市の市街へとその手を伸ばしているのである。


「うっわ……」

 触手ののびていく先を追って地上に目をやったせつなは、呆れ果てて口を覆った。

 市街のそこかしこに建造され屹立しているのは、おそらくは、全長30メートルを超える、ニューヨークの自由の女神像ほどもあるだろう、巨大な、アニメの女の子の彫像なのである。たいまつのかわりに弓矢やサーベルやスピナーを振り回したフルカラーで着色された、桃色や水色の髪の笑顔の女の子たちが、まるで街中を跳ねまわっているかのように、そこら中に配されているのだ。


「キャーーーー!」

 突如地上から聞こえて来たか細い悲鳴。声のもとに目を遣ると……!


「あ……!」

 せつなの目が怒りに見開かれた。

 悲鳴の元は少女だった。道を歩いていた、まだ中学校にも上がっていないだろう小さな女の子が、城から伸びた触手にからめとられて、空中城まで巻き上げられていくのだ。


「助けないと!」

 あわてて駆け出そうとするせつなだが、まだ、身体が思うように動かない。


「せっちゃん、おちついて!」

 琉詩葉がせつなを制した。


「く……!」

 せつなは悔しさに呻いた。

 イマジノス・アームで触手を狙撃しようにも、ここからでは遠すぎる!


「この『世界』では、毎日正午に一人ずつ、アイツが見染めた『女子小学生』ないし『女子中学生』が、アイツの根城、『悪魔城』まで召し上げられていくの……!」

 せつなの背後からキルシエの声。


「これが、アイツが、大月教授が望んだもの! 冥界の炎の力で彼がデザインした『新世界』なの! おそらくはヤツの事、私達魔王衆をこの世界に封じた上で、新たに手にした力を使って、『閉鎖世界』の封印を脱し、『外界』まで、全宇宙にこの世界の『(ことわり)』を広げるつもりよ!」

 キルシエの悲痛な叫び。


「くそー教授! 変態クズ野郎だとは知っていたが、まさかここまでとは……!」

 せつなは怒りで歯がみした。


「琉詩葉! キルシエ! 行こうぜ!」

 せつなは矢も楯もたまらずに二人に叫んだ。


「行くって、どこに?」

 そう訊く琉詩葉に、


「『アレ』だよ! 悪魔城だよ! あそこに上って、大月教授をぶっ倒すんだよ!」

 コータも、エナも、メイアも、きっとあそこに捕まってるはずだ。

 せつなは何の裏付けもない確信を胸に、もどかしげに琉詩葉にまくしたてた。


「行くったって、空の上のあそこまで、いったいどうやって? 学園の仲間は、みんなバラバラ。もうお祖父ちゃんも、『プルートウ』もいないのに……!」

 琉詩葉の声が弱々しかった。


「ううう……」

 気ばかり焦るも、よい算段が浮ばない。

 イライラして髪をかきむしるせつなだったが……


「せつな先輩、もちろんそのつもりです」

 キルシエが力強くそう言った。


「大月教授を断罪し、冥界の炎の力を封じて回収するのが私達、残された魔王衆のミッション。それに、そろそろ準備ができたんじゃないかな、『あいつ』が戻ってきた!」

 

「あいつって……?」

 せつながキルシエに聞き返した、まさにその時、


 ドカーーーーーン!


 突如、庭園に建つ二人の背後から、轟音が響いた。


「なんなんだー!?」

 振り向く三人。


「どぎゃーーーーーー! あたしン()が~~~~!」

 琉詩葉が悲鳴を上げた。

 大邸宅、冥条屋敷の一角、縁側と屋根瓦が崩れ落ちて、濛々と土煙を上げているのである。


「バルグル! いーかげん、出て来る度に物を壊すのはやめなさい!」

 土煙向かって、キルシエが怒号を上げた。


「あーーーったく、グチグチグチグチ、細けえこと言うねいキルシエ、こんなでかい屋敷なんだから、気にすんなよ!」

 そう言って悠々、煙の中から、何者かが歩いてきた。


「お前は一体!」

 せつなが身構える。

 

 現われたのは長身の壮漢。

 全身を覆う革製の黒いコート。ライオンのような金色の蓬髪。その顔には、斜め真一文字の刀傷。

 まるで獣のような獰猛な面構え。そしてその左眼は、これまた真っ黒な眼帯で隠されていた。


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